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公開日:
2019.05.25
更新日:
2019.05.26
第二言語習得研究|徹底検証!TOEIC偏重&英会話スクールの罪と解決策
第二言語習得論の知見から、日本人の英語学習の問題点と解決策をご紹介する。効率的に英語を習得したいとお考えの皆さまのお役に立つに違いない。

第二言語習得研究(Second Language Acquisition Research)とは、第二言語(≒外国語)を習得するメカニズムやプロセスの研究、もしくはその研究分野のこと。第二言語習得論ともいう。このコラムは、その最新の研究結果を参考にしながら、日本人が未だに英語が苦手な理由を検証し、それを克服するための、科学的にも効率的な英語学習方法を皆さまにご説明することが目的である。

1. 第二言語習得研究|「大量なインプット」と「アウトプットの必要性」

第二言語習得研究の最新の知見から導き出される、最も効率的な英語の学習方法は「理解可能なインプットを大量に取り入れること」と「アウトプットの必要な状況に置かれること」である。

インプット(読む・聞く)だけの学習では英語は習得できない。TOEIC(LR)で高得点を取っても話せない人が多いことがその証明となる。また、アウトプット(話す・書く)の練習だけでも不可能である。英会話スクールに長く通っても、いつまでたっても効果が出ない人が多いことがその証明となる。

当惑する人

ではどうすればいいのか?「大量なインプットとアウトプットの必要性」*が科学的な最終結論だ。なお、ここでいう「アウトプット」とは、頭の中で文章を組み立てて話したり書いたりすること。音読やシャドーイングを「アウトプット・トレーニング」と呼ぶことがあるが、それとは異なる。

*第二言語習得研究の第一人者であり、米ピッツバーグ大学言語学科教授の白井恭弘氏のことばを参考にさせて頂いた。

2. 第二言語習得研究|なぜ英会話スクールでは話せるようにならないのか?

英会話スクール(オンラインを含む)に通っても、他に何もしなければ、いつまでたっても上達しない。第二言語習得研究の立場からすれば当たり前のこと。ここでは、最新の第二言語習得研究において中心的な考え方である「認知プロセス」の概要をご紹介しながら、その理由をご説明しよう。

2.1. 空っぽの箱の中からは何も出せない!

インプットとアウトプット

手品師ではない限り、空っぽの箱の中から何かを出すことはできない。アウトプットできるようにするためには、まずはインプットが必要だということ。当たり前のことだ。十分なインプットなしに、英会話スクールに通ってアウトプットしようとしてもできるはずがない。講師の英語を聴いてインプットしていると反論するかもしれないが、その程度では全く足りない。

2.2. 理解可能な大量なインプットは必要条件

米ピッツバーグ大学言語学科教授の白井氏は、「大多数の英語学習者に共通する問題は、インプットの量の不足。理解可能なインプット(comprehensible input)をどれだけ確保できるか、これが英語習得の必要条件。」と指摘している。

なお、インプットは「理解可能」なものでなければならない。全く意味がわからない英語をいくら聞き流しても全く意味はない。

2.3. 第二言語習得の認知プロセス

第二言語(≒外国語)は、インプットされたものを知識として定着させ、最終的にアウトプットにつなげていくプロセスを経て習得される。第二言語習得研究の基本的な考え方である。

ここでは、その基本的な考え方とインプットの重要性を理解するために、そのプロセス(第二言語習得研究では「認知プロセス」という。)を簡単に説明する。英語学習を効率化するヒントにもなるはずだ。ただし、学術的になるので、興味がない方は読み飛ばして頂いても構わない。インプットなしにアウトプットの練習をすることの「愚」を論理的に理解したい方向けだ。

認知プロセス

2.3.1. 気づき(noticing)

ステップ1

「気づき」が第二言語を習得する最初のプロセスだ。「気づき」には、「理解できている気づき」と、「理解できていない気づき」がある。例えば、下記の英語を言われた時に、意味を理解できた場合は当然気づいていることになる。一方で、「ドゥ」以下は理解できたけれど、「ワナ」が理解できない場合もあるだろう。その場合は、「ワナ」という音には気づいているが理解できていない状態だ。これらどちらかの「気づき」がなければ第二言語の取得にはつながらない。

I wanna do it. (アイ ワナ ドゥ イッ) (= I want to do it.)

なお、まったく理解できないインプットを大量に聞いたとしても、この「気づき」は起こらない。最低でも、「大体は理解できるが、わからないところもある。」というインプットが必要である。

2.3.2. 理解(comprehension)

ステップ2

「気づき」の次は、気づいたインプットの「形式」「意味」「機能」及び「発音」の4つを「理解」する必要がある。例えば、下記の文は、「should have + 過去分詞」という「形式」が、「〜すべきだった(がしなかった)」という「意味」を表し、「後悔」という「機能」を持っている。聞き取るためには「発音」も重要だ。それら全てを「理解」する必要があるのだ。

I should have studied more.(もっと勉強すればよかった。)- 後悔している

「大体は理解できるが、わからないところもある。」というインプットを聴くことは、「形式」「意味」「機能」を理解(想像)しながら聴くことになる。この「想像」(第二言語習得研究では「仮説形成」という)によって得た知識を、下記の「内在化」と「統合」によって定着していくことになる。

2.3.3. 内在化(intake)

ステップ3

「内在化」は、インプットを理解する上で立てた「仮説」(想像)が正しいかどうかの「検証」を行うことにより理解を深め、内部に取り入れることである。内在化を促すには、大きく2つの方法がある。「仮説」を、新しく入ってきたインプットと比較する方法と、「仮説」に基づいたアウトプット(話す・書く)で確かめる方法だ。

前者は、例えば実際の会話において、相手の言ったことと自分の立てた仮説を照らし合わせて、意味が正しく理解できればその「仮説」が正しいことになる。理解できなければ間違っていることになる。

後者は、仮説に基づいた英語表現を実際の会話で使ってみる。もし相手にうまく伝われば、その「仮説」は正しいことになる。また、英語講師などからフィードバックをもらうことでも検証できる。

2.3.4. 統合(integration)

ステップ4

「統合」とは、内在化された知識を、忘れることなく、自動的、瞬間的に使える長期記憶に変換する(「自動化」)プロセスである。この統合によって、知識をアウトプットに活用することができるようになる。

知識は、内在化しても忘れてしまうこともある。覚えていたとしても、内在化しただけでは自由に使いこなすことができない。内在化した知識は、無意識的に、かつ時間を掛けずに自由に使えるようにしなければ、流暢に会話などできないのだ。

2.4. 認知プロセスと英会話スクールの現状

「気づき」から「統合」までの第二言語習得の認知プロセスからわかることは、アウトプットできる量というのは、インプットの量で決まるということ。そして、アウトプットできる量というのは、インプットの量より少なくなるということだ。

ただ英会話スクールに通うだけというのは、インプットせずにアウトプットしようとしているということ。いつまでたっても話せるようにならないのは当然の帰結なのだ。

号泣する女性

3. 第二言語習得研究|なぜTOEICで高得点を取っても仕事で使えないのか?

TOEIC(LR)で高い点数を取っても仕事で使いない人は多い。TOEIC(LR)(以下「TOEIC」)に特化した学習では、本当の意味での英語習得はできないということ。第二言語習得研究の立場からすれば当たり前のことだ。ここでは、最新の第二言語習得研究の知見をもとにその理由をご説明しよう。

TOEICアンケート

まずは我々の現状を見てみよう。上の図は雑誌「President」が行ったアンケートの結果である。30歳以上のビジネスパーソンに対して「英語で簡単な商談や取引ができるようになるまであと何年?」という質問をした結果だ。

注目して頂きたいのは、TOEIC730〜990点の半数以上の方が、「まだ簡単な商談や取引もできない」と答えていることだ。理由は一つ。話せないからだ。

3.1. TOEICに特化した学習は非効率かつ話せなくなる

猛勉強する男性

「聞く」「読む」インプット(聞く・読む)の能力だけを測定するTOEICに特化した学習だけでは、アウトプット(話す・書く)できなくなる。そして、そのようなインプットに特化した学習は非効率でもある。第二言語を習得するにはインプットに加えてアウトプットも必要だという考え方が、現在の第二言語習得研究の主流だ。

インプットのみでは第二言語の習得は進まないという事例は、上記TOEICの事例以外にもある。テレビだけから言語を習得した話せない子どもの例や、日本語は理解できるが話せない移民2世などの例だ。下記で詳しくご説明する。

また、アウトプットは、上記で説明した「認知プロセス」を促進することがわかっている。インプットのみの学習よりもアウトプットを取り入れた方が学習の効率性がアップするということだ。ちなみに、これは脳科学研究でも立証されている。

3.2. テレビから言語習得はできない

テレビを観る人

テレビから言語を習得した子どもは不自然な言葉しか話せなかったそうだ。ケースワーカーに発見された3歳9ヶ月のその子は、両親が聴覚障害で会話ができず、外とのつながりもあまりなかった。そのため言語は主にテレビからのインプットのみで、アウトプットの機会はほとんどなかったそうだ。インプットだけでは言語の習得がうまく進まない例の一つである。

3.3. 日系2世は「受容的バイリンガル」が多い

子供を叱る母親

日系アメリカ人の2世は、英語が母語(mother tongue)になるが、日本語は「聞けば理解できるが話せない」状態になることが多い。この状態を「受容的バイリンガル」という。

1世の両親は、子どもに日本語も習得してほしいという考えから、家庭では日本語を使う場合が多い。しかし、子どもは学校などで英語が主な言語になってしまい、日本語よりも英語の方が得意になる。そうすると、家庭で日本語で話しかけられても英語で答えるようになり、聞いて理解できても話せなくなるのだ。インプットだけでは言語の習得がうまく進まない例の二つ目だ。

3.4. アウトプットは認知プロセスを促進

話す人

アウトプットは深く理解することにつながり、認知プロセスのうちの、特に「内在化」を促進してくれる。結果、アウトプットの能力を更に向上させてくれるのだ。

例えば、インプットの場合は、単語の意味を理解できれば、文法の知識があまりなくても大意は取れる。しかし、アウトプットする際は、単語を正しく並べるための文法の知識がより重要となる。また、単語については、理解できる単語(認識語彙)を使える単語(運用語彙)に変換するためにはしっかりと理解する必要がある。アウトプットすることにより、そのような文法や単語の知識をより深くする機会が得られるのだ。

「内在化」だけではない、アウトプットによって自分の知識の穴の「気づき」を与えてくれたり、自分の言いたいことが伝わるかどうかの「仮説検証」や、知識を無意識的に使えるようにする「自動化」(統合)の機会も与えてくれる。アウトプットすれば、どんどんアウトプットできるようになるということだ。

余談だが、アウトプットは記憶の定着を促進することが脳科学(神経科学)研究で知られている。米パデュー大学のカーピック博士の脳科学に関する研究論文によると、「私たちの脳は、情報を何度も入れ込む(インプット)よりも、その情報を何度も使ってみること(アウトプット)で、長期間安定して情報を保持することができる。」と指摘されている。インプットを繰り返すよりもアウトプットした方が効率的に学習できるということだ。

3.5. 「アウトプットの必要性」が必要?

第二言語を習得するには、インプットに加えてアウトプットも必要だということがご理解できたと思うが、実は実際にアウトプットする必要はない。「アウトプットが必要な状況に置かれること」が必要なのだ。

プレゼンする人

人は、アウトプットが必要な状況に置かれると、言うことを頭の中でシミュレーションする。その「シミュレーション」(simulation)が重要なのだ。第二言語習得研究では「リハーサル」(rehearsal)と言う。例えば、重要な会議でVIPの方々の前で発言する際、日本語でも、前もって言うことを考えるだろう。そのような、「何をどのように言おうか」と考えることが重要なのだ。

このリハーサル(シミュレーション)の方が、実際にアウトプットすることよりも重要だと言える。なぜなら、リハーサルはじっくりと考える時間があるからだ。

実際にアウトプットする際は、じっくりと考える時間がない。したがって、間違った言い方をする可能性が高くなる。そのままにしておくと、間違った英語が定着する「化石化」が起こる可能性がある。しかし、振り返ってもう一度リハーサルし、正しい文を作り直しておけば、「化石化」は防げる。なお、「化石化」については下記で詳しくご説明する。

実際に話す前にリハーサルをして、話した後でもリハーサルしておけば完璧だ。「アウトプット」は必要だが、「アウトプットの必要性」も必要だと言うことである。

3.6. 「インプット仮説」と「アウトプット仮説」

インプットとアウトプットの両方が重要だとする考え方は、第二言語習得研究で有名な「インプット仮説」と「アウトプット仮説」を基としている。それらの概要をご説明しよう。興味がない方は読み飛ばして頂いても構わない。

3.6.1. インプット仮説

聴き読む人

「インプット仮説」(input hypothesis)とは、「言語習得は、母語も第二言語もインプットの理解によってのみおこる」という主張だ。アウトプットは必要ないという仮説である。第二言語習得研究の権威であり、南カリフォルニア大学名誉教諭のスティーヴン・クラッシェン(Stephen Krashen)が提唱者である。

この仮説が正しさを主張するための一つの証拠としてあげられるのが、突然話し始める子どもの事例だ。親の転勤で一緒に海外に行った子どもは、最初はずっと黙っていることが多いが、ある日突然、完璧な英語を話し始めるケースが少なくないという。確かに、アウトプットすることなく話せるようになる証拠だ。

しかしながら、第二言語の習得においては、インプットに加えて、アウトプットも必要だとする考え方が主流だ。(母語の習得においてはアウトプットが必要かどうかの論争があることは事実。)突然話し始める子どもの事例については、黙っている期間(沈黙期)にはリハーサル(シミュレーション)していると考えられている。

3.6.2. アウトプット仮説

話す人

インプットに加えてアウトプットも必要だとするのが「アウトプット仮説」(output hypothesis)だ。インプットの重要性を否定する言語学者はいない。それに加えてアウトプットも重要だと主張したのは、加トロント大学名誉教授(第二言語習得論)のメリル・スウェイン(Merrill Swain)である。

彼女の主張はこうだ。第二言語を聞くときは単語の意味を理解できれば、文法の知識を使わなくてもいい。そのことが、外国語で直接教科を教えるイマージョン方式(immersion program)で教育を受けた学習者が、聞き取りではネイティブと変わらないくらいになる一方、文法などでは劣る理由である。アウトプットすれば文法をより意識せざると得ない。

このアウトプット仮説が基となり、第二言語取得におけるアウトプットの重要性が認識されるようになったのだ。

しかしながら、皆さまにとっては、何よりも、TOEICで高得点を取っても話せない人が多いという事実が、アウトプット(アウトプットの必要性)も必要だという充分過ぎる根拠になるはずだ。

4. 第二言語習得研究|最新知見からの科学的英語教授法と学習者へのヒント

最新の第二言語習得研究の知見から、現在最も効率的だと考えられている英語の教授法である「コミュニカティブ・アプローチ」の「インプット=インターアクションモデル」と、「自動化モデル」についてご説明する。

なお、中学・高校などでの学習を通してある程度の基礎がある方に対しては、後者の「自動化モデル」が馴染みやすい教授法と言える。その場合でも、効率的な英語習得のためには、「コミュニカティブ・アプローチ」と平行して行うことを多くの研究者が薦めている。

4.1. 現在の主流は「コミュニカティブ・アプローチ」

会話する人

現在、多くの言語学者の間で効果的な第二言語教授法と言われているのは「コミュニカティブ・アプローチ」(communicative approach)だ。形式(文法)よりも意味の伝達に重点を置く教授法である。「英会話?」と思うかもしれないが、これは、多くの英会話スクールで行なっていることとは「似て非なるもの」だ。

「コミュニカティブ・アプローチ」には2つのやり方があるが、主流は「インプット=インターアクションモデル」(input-interaction model)である。これは、第二言語習得の大前提である「大量なインプット」を確保しつつ、「インターアクション」(会話)に参加することにより、わからないところを聞き返したりする「意味交渉」が起こり、言語習得が進むという考え方だ。

重要なことはやはりインプットの量と質だ。米ピッツバーグ大学言語学科教授の白井氏は、「インプット=インターアクションモデルにもとづいた会話練習では、その中でのインプットの量と質を十分に考慮し、学習者にはインプットを処理する十分な機会を保証する必要がある。」と指摘している。なお、「質」というのは、主に「理解可能」なものという意味である。

4.2. 「フォーカス・オン・フォーム」で正確なアウトプット

英文法

「インプット=インターアクションモデル」にも欠点がある。どうしても形式(文法)がおろそかになりがちなところだ。その欠点を補う考え方が「フォーカス・オン・フォーム」(focus on form)である。「フォーカス・オン・フォーム」とは、意味の伝達に重点を置きながら、「フォーム」(形式/文法)の正しさにも「フォーカス」(注意)しようという考え方だ。

「コミュニカティブ・アプローチ」の「インプット=インターアクションモデル」は、形式(文法)よりも意味の伝達に重点を置く教授法だ。インプットを理解する場合は、形式をあまり意識しなくても単語が聞き取れれば意味は理解できる場合が多い。しかし、インターアクションで(会話)でアウトプットする(話す)際は、単語を並べる際に形式の知識が必要になる。

「フォーカス・オン・フォーム」は、アウトプットするときだけではなく、インプットのときも含めて、形式により意識を向けさせることが目的だ。重要なことは、あくまで意味の伝達に重点を置くというところである。

4.3. 「コミュニカティブ・アプローチ」と「化石化」

化石

コミュニカティブ・アプローチで会話演習をする際は、「化石化」(fossilization)という現象に気をつけなければならない。米ミシガン大学言語学科名誉教授のラリー・セリンカー(Larry Selinker)によって提起された現象だ。

「化石化」とは、英語の基礎力がないうちに話すことを強要された場合など、自分で苦労して「創作」した「変」な英語が定着してしまう(化石になってしまう)現象である。あとで講師に修正されたとしても、自分で「創作」したものの方が強烈に印象に残るので同じ過ちを繰り返してしまうのだ。

白井氏は、この化石化を避けるためには、「すでに学んだ表現だけでコミュニケーションができるような活動を考えたり、インプットとアウトプットに費やす学習活動の配分を、アウトプットが多くなりすぎないように考慮するなど、教える側の工夫が必要」と指摘している。

英会話スクールでは、「フリー・ディスカッション」と称して、ある題材について自由に英語でディスカッションし、その中で講師が間違いを指摘するやり方を採用しているところも多い。そのやり方には「化石化」という高いリスクがともなう。十分なインプットなしに英会話スクール(オンラインを含む)に通うことは、話せるようにならないばかりか、その後の英語習得に大きな弊害をもたらす可能性もあるのだ。

4.4. 「自動化モデル」

「自動化モデル」とは、意識的に学習した知識は、繰り返すことによって注意を払わなくても無意識的にできるように「自動化」されるという考え方だ。

ピッチャー

例えば、スポーツは体の動かし方が重要な場合が多い、野球で言えば頭の位置や、腕の振り方などだ。そのような体の動かし方を覚えたり矯正するには、最初はその部分に意識を集中しないとうまくできない。しかし、繰り返し練習すると無意識的にできるようになってくる。それが自動化だ。

第二言語の習得も同じである。まずは、言語の3つの基本要素である、単語・文法・発音の知識を習得し、それらの知識を自動化することで使えるようになっていく。日本人は、受験勉強のおかげで単語と文法の知識は比較的ある方だが話せない。その理由の一つはこの自動化ができていないからだ。

上記で説明した「コミュニカティブ・アプローチ」の「インプット=インターアクションモデル」と「自動化モデル」は、お互いを補足するものだと捉えている研究者が多い。白井氏は「両方の習得プロセスを最大限に利用すべき」と指摘している。

なお、自動化については、「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築しよう!」でその詳細を説明しているので参考にしてほしい。

5. 第二言語習得研究|最新知見からの英語学習法のススメ【インプット編】

大量なインプットが必須だということはわかったが、どのような素材を(what)、どのようにインプットすれば(how)よいのだろうか?第二言語習得研究で指摘されていることをご説明しよう。

5.1. インプットの素材選び

インプットの素材については、効率的に英語を習得するための条件が第二言語習得研究から示されている。①理解可能なもの、②興味があるもの、③本物、そして、④音声と文字の両方の4つである。

インプットの条件

5.1.1. 理解可能であること!

条件1

インプットの素材は理解可能なものを使用すること。クラッシェンが「i+1」と表現しているレベルだ。つまり、現在の自分の英語レベルよりほんのちょっとだけ上のレベルの素材である。

わからない単語や文法項目が含まれてはいるが、前後関係や全体の意味から、それらの意味もある程度適切に想像できるレベルの素材を使用することが重要である。そのような素材を使用すれば、初見の単語の意味や新しい文法項目の知識も蓄積していくことができる。

時折知っている単語が聞き取れる程度の難しすぎる素材を大量にインプットしても、せいぜい発音に慣れるくらいだ。あまり意味はない。

5.1.2. 興味があるもの!

条件2

効率的な学習を目指すのであれば興味がある題材を選ぶこと。キーワードは「楽しむためのリスニングとリーディング」(listening & reading for pleasure)と、「必要な情報を得るためのリスニングとリーディング」(listening & reading for information)だ。これら以外のインプットはモーティベーションも維持できず続かないだろう。

興味のある題材を選ぶと学習の効率性も上がるという実験結果もある。早稲田大学名誉教授の ジェームス M バーダマン(James M. Vardaman)の研究結果によると、自分が「面白い」と思って読んだものは、可もなく不可もなくというものに比べて、内容の定着率が1.15倍に上がったそうだ。

5.1.3. 本物であること!

条件3

実際に使われている本物の英語をインプットすること。当たり前に聞こえると思うが、日本で英語を学習していると、教材英語と現実のコミュニケーションで使われている英語とは異なる場合が少なくない。

例えば、中学では挨拶といえば「How are you?」だが、実際に使用される頻度はそんなに多くはない。特に親しい間柄では、「How’s it going?」や「What’s up?」、あまり親しくない場合でも「How are you doing?」の方が使用される頻度が高い。特に「How’s it going?」やその派生形の「How’s everything going?」などは日常よく使用されるにもかかわらず、日本の学校教育では一切触れられていない(少なくても筆者の時代)。

5.1.4. 音声と文字の両方!

条件4

音声によるインプット(リスニング)と、文字によるインプット(リーディング)の両方を確保すること。どちらかというとリスニングを重視する研究者が多いが、両方バランスよく確保する方が効率的だ。

東北学院大学の村野井教授(第二言語習得論)は、「インプットを取り入れる際には、文字インプットと音声インプットをバランスよく十分に取り入れる必要がある。」と指摘。白井氏は、「聞き取りの方が、文法処理がおろそかになる傾向がある」ので、「音声におるインプットだけでなく、文字によるインプットも重要」と指摘している。

5.2. インプットの方法

聴き読む人

とにかく多く聞き、多く読むことだ。現在の自分の英語レベルよりほんのちょっとだけ上のレベル(「i+1」)の素材であれば、理解するのにそんなに苦労はしないはずだ。他に何もする必要はない。辞書も引く必要もない。ひたすら聞き、読むだけである。

ただし、理解度が低い場合は繰り返し聞き、読もう。同じ素材を聞いた後に読むことも効果的だ。聞くときは、他のことをしながら聞き流すよりも、集中して聞いた方が効果が高いのは当たり前である。

なお、自分の英語レベルよりもかなり上のレベルの素材を使用する場合は、ただ読んだり聞いたりするだけでは高い効果は期待できない。そのような素材を使用する場合は、下記の「自動化編」でご紹介する方法をおすすめする。

5.3. インプット用おすすめ英語素材

上記で説明したインプット素材の4つの条件を満たし、かつ、「i+1」のレベルの素材を探すことは簡単ではない。目的や重要度を考えて、自分にとって最適なものを選んでほしい。

英会話・ぜったい音読 入門編[講談社]¥1,300+税
教材ぜったい音読入門編

TOEIC470点以下の方を対象とした音読教材の定番だが、初級者のインプット用にも使える。CD付属。シリーズに「標準編」と「挑戦編」がある。中学・高校の英語のテキストを使用しているため内容的に面白みがないのが欠点。英語の基礎を固めるためだと割り切る必要がある。

Pearson Graded Readers[Pearson Education]¥1,000円前後
教材ぜったい音読入門編

旧ペンギンリーダーズ。多読用の書籍。英検4級(TOEIC250)レベルから準1級(TOEIC730)レベルまで、レベル別に様々なタイトルが出版されている。音源が付属されているタイトルも多い。大量のインプットを実現するにはうってつけの英語素材だ。このピアソン以外にも、オックスフォードケンブリッジからも同様の多読本が出版されている。

CommonLit
Commonlit

アメリカの5th〜12th Grade(日本の小学5年生〜高校3年生)の学生向けに、教育用の読書テキストを無料で提供しているサイト。NPOのCommonLitが運営。フィクションからノンフィクションまで、教育に適したあらゆる読書用テキストが読める。音声で読み上げてくれる機能もある。

6. 第二言語習得研究|最新知見からの英語学習法のススメ【アウトプット編】

アウトプットの練習は、自主トレーニングとインターアクション(会話)の2つの方法がある。

6.1. アウトプット自主トレ

アウトプットの練習は一人でもできる。むしろ、一人で練習する方がメインと考えた方がいい。その代表的な4つの方法をご紹介しよう。4つとも頭の中で文章を作れるようにするための練習だ。最初は時間をかけてじっくりやってもいい。慣れてくれば自然にスピードもついてくる。

6.1.1. ディクトグロス(dictogloss)

勉強する人

ディクトグロスは、聴いた英文を書き取り、書き取れなかったところを自分で考えて復元するトレーニングだ。加トロント大学名誉教授メリル・スウェインが提唱しているトレーニング方法である。やり方は以下の通り。

① 2〜3センテンスのまとまった文章を聴く。前もって学習していないものが望ましい。

② 聞き取れたところをメモにとりながら聴く。あまり聞き取れない場合は数回繰り返してもよい。

③ 聞き取れなかった(書き取れなかった)ところを、文脈や前後関係から推測して文章を復元する。

④ 音声のスクリプト(英文)と比較する。単語(スペルを含む)と文法を中心に間違った理由を分析する。

聞き取れなかったところを推測しながら文を復元することで、自分で正確な文章を作れるようにすることが目的のトレーニングだ。最後に、聞き取れなかった理由も分析することでリスニング力も向上できる。

6.1.2. リフレージング(rephrasing)

リフレージング

リフレージングは、通訳を目指す方の基本トレーニングだ。英文を別の表現に言い換えるトレーニングである。日本語を介入させないので、一般の英語学習者にもおすすめ。やり方は以下の通り。

① 1センテンスが長めの英文を1センテンス聴く。前もって学習したものでも、していないものでもよい。意味がよく聞き取れない場合は繰り返し聴く。

② 同じ内容になるように、他の表現に言い換える。(主語を変えると言い換えやすくなる。)

③ 全く同じ意味にならなくてもよい。1センテンスで言い換えられない場合は、複数のセンテンスにしてみる。

④ 自分で作った文章を書き取り、オリジナルの英文と比較する。自分の文章に誤りがないか分析する。

言い換える際は、なるべく簡単な単語と単純な文法で表現することを心がける。英語で話していて、詰まった時に言い換えられる力がつく。口頭で行うことで、頭の中で英文を作る瞬発力も鍛えられる。

6.1.3. サマライジング(summarizing)

サマライジング

サマライジングは、読んだり、聞いたりした内容を自分のことばで要約するトレーニングだ。やり方は以下の通り。なお、東北学院大学の村野井教授が勧める「自律要約法」(Autonomous summarizing)を参考にしている。

① ニュースやショート・スピーチなどの長めの英文全体の概要を理解する。音声でも文字でもよい。理解が浅い場合は繰り返してもよい。

② 要約する上で重要だと思うキーワードなどをノートに書き出す。センテンスを丸ごと書き出すことはしない。必要な場合はリフレーズ(言い換え)したものを書いておく。

③ 書き出したものを見ながら要約を英語で書く。本文の1/3程度の量を目指す。慣れてきたら、書く前に、書き出したキーワードなどを見ながら口頭で要約してみる。

④ 自分の要約とオリジナルの英文とを比較・分析する。単語・文法・表現等の間違いを修正する。

⑤ 2回目の要約を口頭で行う。

自分の間違いに自分で気付くことが一番の目的だ。口頭で要約することを重視すれば、頭の中で英文を作る瞬発力も鍛えられる。ある程度長い要約を自分で作ることによって、英語の文章の構成も深く理解することができる。

6.1.4. シミュレーション(simulation)

シミュレーションする人

英語を話せるようになるためには英語で考える必要がある。しかし、なかなかできることではない。シミュレーションは「英語で考える」代替のトレーニングだ。事前シミュレーションと事後シミュレーションがある。ここでは事前シミュレーションのやり方をご紹介する。

① 自分が英語を話さなければならない状況を想定する。(例えば、ホテルのチェックインや、ミーティングでの発表など。)

② 何を言うかを頭の中で考え、英文を作ってみる。時間をかけても正確な文章を作ることに集中する。

③ 頭の中で作った英文を書き出してみる。単語・文法・表現が間違っていないか分析する。

④ 作った英文を何度も暗唱する。

シミュレーションは、自分で使える表現を蓄積することが目的のトレーニング。事前でも事後でも重要なことは、なるべく簡単な単語と単純な文法で短い文章を作ること。文法的に間違っているかどうか自分で理解できない英文は作らないこと。

6.2. インターアクション(会話)

会話する人

実際のインターアクション(会話)には相手が必要だが、英語で会話する相手を探すことは難しいことではないだろう。オンラインのサービスなど、自分にあったものを探せばよい。

しかしながら、化石化や、インプットとアウトプットのバランスなど、注意すべき点を十分に理解しているネイティブ講師を見つけることはほぼ不可能と思った方がいい。自分自身で意識して注意しながらやるしかない。

7. 第二言語習得研究|最新知見からの英語学習法のススメ【自動化編】

単語・文法・発音の知識を習得しつつ、それらの知識を自動的に使えるようにする「自動化」のトレーニング方法をご紹介しよう。東北学院大学の村野井教授が推奨する方法と、The English Clubが推奨する「自動化トレーニング」についてご説明する。

7.1. 村野井式トレーニング法

まずは、村野井氏が推奨する方法をご紹介する。この方法は「インプットの取り入れ方」として氏の著書で紹介されている方法だが、「i+1」よりも難しい素材を使用する際に高い効果が得られると考えられるので、ここ「自動化編」で紹介する。

村野井式トレーニング法

上記の通り、全部で6つの手順からなるトレーニングだ。順番に村野井氏の説明の概略を紹介しよう。

① まず音声をひと通り聞く。

② 理解が浅い場合は文字スクリプトをざっと読む。

③ 文字を見ずに音声を聞く。聞き取れないところは文字スクリプトで確認し、意味を辞書などで調べる。

④ 内容がほとんど理解できるようになったら、音声を聞きながら声を出して文字スクリプトを読むパラレル・リーディング(The English Clubでは「オーバーラッピング」と呼ぶ)、文字を見ずに音声を聞いてその音声を自分の声が影になるようについていくシャドーイングなどを行う。

⑤ 使いたい表現や単語をマークするなどして関わりを深めることで記憶に残るようにする。

⑥ 間隔を空けて同じインプットを繰り返し聞く。

7.2. The English Club「自動化トレーニング」

英語自動化トレーニング法

The English Clubでは、単語・文法・発音の知識を習得しつつ、それらの知識を自動的に使えるようにする「自動化」のためのトレーニングを「自動化トレーニング」と言っている。そしてそれは、上の図にあるように、全部で22のトレーニング方法からなる。インプットに加え、上記でご紹介したアウトプット・トレーニングも含まれている。

それぞれの詳しいやり方と効果については別途記事にする予定だ。

8. 第二言語習得研究|まとめ

  • 第二言語習得研究の最新の知見に基づいた、最も効率的な英語の学習方法は「理解可能なインプットを大量に取り入れること」と「アウトプットの必要な状況に置かれること」。
  • 英会話スクールに通っても、他に何もしなければ、いつまでたっても上達しない。第二言語習得研究では当たり前のこと。空っぽの箱からは何も出せない。
  • 第二言語を習得するプロセスは、インプットの「気づき」から始まり「統合」でアウトプットできるようになる。つまり、アウトプットできる量は、インプットの量で決まる。そして、アウトプットできる量は、インプットの量より少なくなる。
  • TOEICで高得点を取っても話せないから仕事で使いない人は多い。インプット(読む・聞く)に特化した学習では英語習得はできないということ。「アウトプットとアウトプットの必要性」が必要なことは第二言語習得研究では当たり前のこと。
  • 最新の第二言語習得研究では、現在最も効率的だと考えられている英語の教授法は「インプット=インターアクションモデル」と「自動化モデル」である。この両方の習得プロセスを最大限に活用すれば英語は効率的に習得できる。
  • インプット、アウトプット、そして自動化にはやり方がある。そして注意すべき点も多い。科学的に正しいやり方で効率的に学習を進めてほしい。
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執筆者プロフィール
小柳 恒一
  • 1999年ロンドン大学大学院ロンドン・ビジネス・スクールにてMBA取得。1997年TOEFL630点取得。2003年TOEIC990点取得。2004年米国公認会計士試験合格。2010年4月中小企業診断士登録。
  • 2000年よりリーマン・ブラザーズ等にて13年以上M&Aのアドバイザリー業務に携わる。
  • 2010年より中堅・中小企業を対象とした事業継承M&Aコンサルティング事業を開始。
  • 2013年よりThe English Clubの前身となるEnglish Tutors Network事業を開始。
英語は学習方法で決まる。
徹底して科学的根拠にこだわったThe English Clubの英語学習法は、
今までにない効率的な英語習得を目指します。

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