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公開日:
2024.10.10

第二言語習得研究|6つの理論が導く究極の科学的英語学習法!

第二言語習得研究とは、第二言語(≒外国語)がどのように習得されるのかを研究している学術分野です。世界中の研究者による膨大かつ貴重な研究結果は、私たち日本人が、どうしたら英語を効率的に習得できるのかという疑問対して、多くのヒントや答えを与えてくれます。

このコラムでは、第二言語習得研究の世界では常識となっている下記の6つの理論を紹介します。全くの初心者の方にもわかりやすく、かつ、皆さんの毎日の英語学習に役立つよう、具体的に解説していきます。

  • 認知プロセス(Cognitive Process)
  • インプット仮説(Input Hypothesis)
  • 自動化モデル(Automatization Model)
  • インターラクション仮説(Interaction Hypothesis)
  • スピーチ・プロダクション・モデル(Speech Production Model)
  • アウトプット仮説(Output Hypothesis)

1. 認知プロセス(Cognitive Process)

脳

「認知プロセス」(Cognitive Process)とは、第二言語(私たちにとっての英語)がどのように習得されるのかを説明するための、第二言語習得論の代表的な理論(考え方)です。

「認知プロセス」によると、第二言語は下図のように、「インプット」から「アウトプット」につなげていくことで習得されると考えられています。

認知プロセス

「インプット」とは、音声言語もしくは文字言語を聞いたり読んだりすること。そして「アウトプット」とは、音声言語を話したり、文字言語を書いたりすることです。第二言語は、まず聞いたり読んだりすることから始まり、「認知プロセス」を経て、話したり書いたりできるようになっていきます。

「気づき」(Noticing)とは?

認知プロセス-気づき

「気づき」とは、耳や目から入ってきた言語情報に気づくことです。例えば言語を聞いた(インプットがあった)としても気づかなかったり、注意が向いていなかったら「気づき」にはなりません。

気づいたけれど理解できない場合もあります。例えば、英語を読んだり聞いたりしているときに、わからない単語が出てきます。その、わからない単語に気づくことも「気づき」になります。単語の意味がわからない場合は、そのときはその意味を想像したり、無視しますが、その単語は頭に残り、次回また出会ったときにそれに気づき、それを繰り返すことで理解につながっていくことがあるからです。

一方で、まったく理解できないような難易度が高い英語を多く聞いたり読んだりしても「気づき」にはなりません。

「理解」(Comprehension)とは?

認知プロセス-理解

「理解」とは、インプットとして耳や目から入ってきた言語情報に気づいたあと、その単語・文法・発音の情報を「理解」することです。注意しなければならないのは、単語の意味を理解するだけではなく、文の構造(文法)も理解する必要があるということです。

なお、「理解」は、「気づいた」インプットを「理解した」インプットにする過程ですが、完全に理解できない場合もあります。単語の意味や文の構造で理解があいまいなものがある場合は、「これはおそらくこうゆう意味だろう」というようなこともあります。

このような、理解があいまいなことを「おそらく〜」のように仮説を立てることも、この「理解」では重要になります。なぜなら、それがより深く理解するきっかけになり、理解できる知識を使える知識にしていくことにつながるからです。

「内在化」(Intake)とは?

認知プロセス-内在化

「内在化」とは、気づいたインプットを理解したあと、「内部に取り入れる」ことです。「内部に取り入れる」というのは、理解したインプットを自分でも使えるようにすることです。

理解したインプットを自分でも使えるようにするには、自分で何度も試行錯誤しながら使う練習をしなければなりません。また、理解があいまいなもので、「おそらく〜」と仮説を立てたことについては、使いながら(話し相手の反応をみながら)その仮説が正しいかどうかを確かめることになります。そのようなことを通して、理解した知識を自分の内部に取り入れ、自分でも使えるようにしていきます。

「内在化」するには、話し相手を見つけて実際に話すこと以上に、まずは自分自身でじっくり考え、試行錯誤する方が重要です。自分で考えたことは頭に定着しやすくなり、それが口から出やすくなるからです。

「統合」(Integration)とは?

認知プロセス-統合

「統合」とは、内部に取り入れ自分でも使えるようにしたインプットを、無意識的・自動的・瞬発的に使えるようにすることです。「自動化」(Automatization)とも言います。

インプットを使えるようにしたとしても、時間をかければ使えるという状態では不十分です。普通の会話のスピードについていくには、時間をかけずに自動的に使える状態にしなければなりません。そのためには「自動化」する必要があります。なお、脳科学(神経科学)研究では、「自動化」のことを、「エピソード記憶」の「手続き記憶」化と表現します。

「自動化」するには、実践の場を多く持つことが一般的です。しかし、話し相手を見つけて話す機会を多く確保するだけでは非効率です。より効率化するには、自動化のためのトレーニングを自分で繰り返す必要があります。

「認知プロセス」から学ぶべきことは?

英語を習得するには、まずは多くの英語を「インプット」することが最も重要です。英語を頭の中に入れなければ出すことはできません。

そして、英語を話せるようになるには、「インプット」を「内在化」する必要があります。つまり、「理解できる知識」を「使える知識」にしなければなりません。

最後に、英語を流暢に話せるようになるには、「使える知識」を無意識的・自動的に使えるようにしなければなりません。それには「自動化」する必要があります。

2. インプット仮説(Input Hypothesis)

リスニング

「インプット仮説」とは、南カリフォルニア大学名誉教授のスティーブン・クラッシェンが提唱した下記の5つの理論の総称です。第二言語習得研究で最も影響力のある理論と言っても過言ではありません。

  • 「インプット仮説」(Input Hypothesis)
  • 「習得・学習仮説」(Acquisition/Learning Hypothesis)
  • 「モニター仮説」(Monitor Hypothesis)
  • 「自然習得順序仮説」(Natural Order Hypothesis)
  • 「情意フィルター仮説」(Affective Filter Hypothesis)

「インプット仮説」(Input Hypothesis)

5つの理論のうちの1つである「インプット仮説」とは、理解可能な「インプット」(聞くこと・読むこと)だけで言語習得が可能だとする理論です。つまり、私たちが英語を習得するには、聞いたり読んだりして英語を理解するだけでよく、話したり書いたりする「アウトプット」の必要はないと主張しています。

また、「インプット仮説」は、「理解可能」なインプットを多く取り込むことで言語は自然に習得されていくと主張しています。「理解可能」というのは、「i+1」と表現され、「i」は現在の言語の習得レベルであり、「+1」は、それより若干難易度が高いという意味です。つまり、今の英語レベルよりも若干難しい英語を多くインプットすることで英語の習得が促進されると主張している理論です。

言語習得に「アウトプット」が必要ないという主張については今でも様々な議論がありますが、「インプット」が重要だという主張に反対する研究者・言語学者はいません。そして、言語を「自然」に習得するには「i+1」のインプットを多く取り入れることの重要性も受け入れられていると言えるでしょう。

「習得・学習仮説」(Acquisition/Learning Hypothesis)

「習得・学習仮説」は、第二言語の習得方法には2つの方法があると主張しています。一つは、子どもが母語(私たちにとっての日本語)を身につけるように、無意識的に「習得」する方法であり、もう一つは、私たちが学校で英語を学ぶように、意識的に「学習」する方法です。

「習得・学習仮説」は、言語はあくまで無意識的に「習得」されるものであり、意識的に「学習」された知識はコミュニケーションの場面では役に立たないと主張しています。また、この無意識的な「習得」と意識的な「学習」は全く別なもので、「学習」された知識が練習によって「習得」に変わることはないと主張しています。

「学習」された知識が「習得」に変わることはないという主張については、多くの研究者・言語学者から批判を受けてきました。なぜなら、英語に限らず、学習したことを最初はゆっくりとしか使えなかったものが、慣れてくると無意識的に使えるようになることは日常でよくあることだからです。

「モニター仮説」(Monitor Hypothesis)

「モニター仮説」は、「意識的な学習」で得られた知識は、自分が話したり書いたりしたことの正しさをチェックする「モニター」(監視)の役割しかしないと主張しています。加えて、その知識を「モニター」として活用すること自体、下記の理由で非常難しいと指摘しています。つまり、「意識的な学習」で得られた知識はほとんど役に立たないと主張しています。

  • 学習者が、モニターできるだけの文法知識をすべて学習し、記憶し、その知識をいつでも正しく活用するのは不可能。
  • 学習者は、ほとんどの場合、モニターする時間を確保することはできない。無理にモニターしようとすると、話しの内容よりも形式(文法)に意識が集中してしまい、中身のない会話になったり、モニターに時間がかかってしまい、会話を妨げることになってしまう。
  • 文法は言語の重要な部分ではあるが、文法ですべてをカバーできるわけではない。文法が正しくても不自然な英語はいくらでも作れるし、発音などの知識も必要になる。

この「モニター仮説」も多くの批判を受けてきました。多くの研究者は、「意識的な学習」で得られた知識は、繰り返し練習することにより無意識的に使えるようになると考えているからです。

「自然習得順序仮説」(Natural Order Hypothesis)

「自然習得順序仮説」とは、言語の規則や構造(文法)の習得は、全ての学習者が同じ順番で習得されると主張している理論です。その習得の順番は、学習者の母語(私たちにとっての日本語)がなんであれ共通しており、また、学校などで意識的に学習した順番にも影響されないと主張しています。クラッシェンが主張している習得の順番は以下の通りです。

第二言語の形態素の自然習得順序

この主張は、あくまで「言語は理解可能なインプットを多く取り込むことで自然に習得されていく」という「インプット仮説」の主張が前提となっています。つまり、日本人が日本語を習得するプロセスを同じように、英語を自然に習得する場合の習得の順番です。学校などで意識的に学習する場合はこの順番通りに習得されるわけではありません。

日本人の英語学習者として、この理論は無視して構いません。なぜなら、「自然」に習得する場合は無意識的にこの順番で習得され、「意識的」に学習をする場合は、この順番では習得されないからです。通常の英語学習は、「自然」な習得と「意識的」な学習を同時並行的に行うことになりますが、どちらの場合でも、この理論の習得の順番を意識する必要はないということです。

「情意フィルター仮説」(Affective Filter Hypothesis)

「情意フィルター仮説」とは、「情意フィルター」と呼ばれる感情などの障壁が高くなると、「インプット」を取り入れても言語習得が進まないとする理論です。「情意フィルター」を高くしてしまう要因として特に2つの状況を指摘しています。一つは「アウトプットの強要」と、もう一つは「早すぎる間違いの修正」です。

十分な量の「インプット」を理解する前に話すことを促すことにより不安が増幅し言語の習得を妨げるといいます。そして、十分な量の「インプット」を理解していない状況で間違いをくり返えし、修正ばかりされると、自信やモティベーションを失い言語習得が進まなくなるといいます。

このようなことを避けるためには、学習者が十分な「沈黙期」を確保できるようにすることが大切であると主張しています。「沈黙期」とは、理解したインプットを頭の中で処理しつつ、言葉を発せずに話す練習をする期間のことです。この「沈黙期」の重要性を指摘していることは注目すべきことです。

「インプット仮説」から学ぶべきことは?

5つ総称としての「インプット仮説」は、多くの批判を受けてきた理論です。それにも関わらず、現在でも最も影響力のある理論である理由は、全ての主張をまったく馬鹿げていると切り捨てられない事例や研究結果が存在するからです。

私たちが「インプット仮説」から学ぶべきことを簡単にまとめると以下になります。

  • 英語を習得するには「インプット」が最も重要である。
  • 英語を話せるようになるには必ずしも話す練習をすればいいということではない(「沈黙期」の重要性)。
  • 「意識的な学習」で得られた知識を無意識的に使えるようにすることが重要である。

なお、より詳細な「インプット仮説」の解説は「英語学習法の科学|インプット仮説と自動化モデルで英語習得!」を参照してください。

3. 自動化モデル(Automatization Model)

心理状態

「自動化モデル」とは、意識的に学習された知識が、何度も行動を繰り返すことで「自動化」し、無意識的に使えるようになるという理論です。

例えば、車の免許を取り立ての頃は、ドアを開けるところからエンジンをかけ発進するまで、やることを一つ一つ考えながらやらなければできなかったことも、慣れてくると無意識的・自動的にできるようになります。第二言語(私たちにとっての英語)の習得も同じで、例えば「三単現の -s」という知識も、慣れてくると無意識的・自動的に使えるようになる(「自動化」する)という考え方が「自動化モデル」です。

「自動化モデル」vs.「インプット仮説」

この「自動化モデル」の主張と真逆な主張をしているのが、上記で解説した「インプット仮説」です。

「インプット仮説」は、第二言語は理解可能なインプットによって自然に習得されるものであり、意識的に学習した知識はコミュニケーションの場では役に立たないと主張しています。また、意識的に学習した知識は、自然に習得された知識に変化することはないと言っています。つまり、意識的に学習した知識を、繰り返し練習することで無意識的に使えるようにすることはできないということなので、「自動化モデル」とは全く逆のことを主張しています。

問題は、「インプット仮説」と「自動化モデル」のどちらが正しいのかを判断することができないということです。例えば、私たちが学校で「三単現の -s」という知識を意識的に学習して、それを繰り返し練習することにより無意識的に使えるようになったと思っていても、実はそうではないのかもしれません。学習した知識を繰り返し練習したことによって無意識的に使えるようになったのではなく、その知識を学習したあとで、理解可能なインプットを多く取り込むことによって使えるようになったのかもしれません。もし、そうであれば「インプット仮説」が正しいことになります。

しかしながら、「自動化モデル」が正しいのか「インプット仮説」が正しいのかを検証する方法がありません。とは言え、第二言語習得研究の世界では、「自動化モデル」を推す研究者・言語学者が多いことは事実です。

「自動化モデル」のメリットは?

良い点

仮に「インプット仮説」が正しく、意識的に学習された知識は繰り返し練習しても無意識的に使えるようにはならないとしても、意識的な学習は、少なくともインプットによる自然な言語の習得を効率化してくれます。

例えば、「三単現の -s」という文法ルールを意識的に学習しない場合、どの主語のどういう場合に動詞に「-s」がつくのかということを自分自身で一つ一つ検証する必要があります。自然なインプットだけでそれを全部検証することは途方もなく時間と労力がかかります。(なお、言語習得能力が高い幼少期は事情が異なります。)

「自動化モデル」から学ぶべきことは?

「自動化モデル」を推す研究者・言語学者(意識的に学習された知識を繰り返し練習すれば無意識的に使えるようになると考える研究者・言語学者)は多いですが、実際に無意識的に使えるようにするのは難しいことです。

意識的に学習された知識を繰り返し練習すれば無意識的に使えるようにするというのは、つまり、「理解した知識」を「使える知識」に変えるということです。上記の「認知プロセス」のところで解説したように、「使える知識」にするには「内在化」する必要があります。

「内在化」するには、自分で何度も試行錯誤しながら使う練習をしなければなりません。「内在化」を効率化するには、話し相手を見つけて実際に話すことだけではなく、まずは自分自身でじっくり考え、繰り返し試行錯誤することが重要です。

なお、より詳細な「自動化モデル」の解説は「英語学習法の科学|インプット仮説と自動化モデルで英語習得!」を参照してください。

4. インターラクション仮説(Interaction Hypothesis)

聞き取れない人

「インタラクション仮説」とは、第二言語(私たちにとっての英語)の習得は「インプット」(聞くこと・読むこと)に加えて、理解できなかったところを聞き返したりする「インタラクション」(意思疎通)を行うことにより言語習得が進むという考え方です。マイケル・ロング(Michael H. Long)により1980年代に提唱されました。

例えば、話し相手から “You shouldn’t have eaten so much.” (あなたはそんなに食べるべきではなかった)と言われ、理解できないときに、”Sorry?” と聞き返すことにより、相手がもう一度ゆっくりと “You should not have eaten so much.” と言ってくれたり、”You have eaten too much.”(あなたは食べ過ぎだ)と言い直してくれることにより、”You shouldn’t have eaten so much.” の理解が進むという考え方です。

なお、このような「インタラクション」を通じて意思疎通のために努力することを「意味交渉」と呼んでいます。

「インタラクション仮説」は、「言語習得はインプットを理解することによっておこる」という「インプット仮説」の考え方を前提としています。「インプット仮説」は、アウトプットは必要ないと主張していますが、「インタラクション仮説」は、インプットのみではなく、「意味交渉」というアウトプットを取り入れた方がより効率的だと主張しているのです。

「インターラクション仮説」と「フォーカス・オン・フォーム」

マイケル・ロングは「インタラクション仮説」を提唱したあと、さらに「アウトプット」の重要性を強調した「フォーカス・オン・フォーム」(Focus on Form)という考え方を提唱しました。

「インタラクション仮説」では、「インプットの理解」に加えて、「意味交渉」を行うことにより効率的に言語習得がすすむと主張していました。しかし、ここでの「意味交渉」は、あくまでインプットの理解を促進するための「ひかえめな」アウトプットでした。

一方で、「フォーカス・オン・フォーム」では、より積極的に「話すこと」(アウトプット)が重要だという前提で、意味に焦点を置いた「話す」という学習活動のときに、自分の発話の正しさ(フォーム)にも注意を向ける(フォーカスする)という考え方です。意識的に学習した知識を使って文法にも注意を払いながら話すということです。

「インターラクション仮説」と「コミュニカティブ・アプローチ」

会話しているビジネスパーソン

第二言語習得研究などから、現在最も効率的な外国語教授法と言われているのは「コミュニカティブ・アプローチ」です。「コミュニカティブ・アプローチ」とは、言語の「形式」にではなく、言語の「意味」に焦点をあてる、つまり言語を使ってメッセージを伝えることに重点を置く学習アプローチです。

「コミュニカティブ・アプローチ」には「インプット・モデル」と「インプット・インタラクション・モデル」の2つがあり、「インプット・モデル」は「インプット仮説」の考え方がベースとなっており、「インプット・インタラクション・モデル」は「インタラクション仮説」の考え方がベースとなっています。世界の今の主流は、この「インプット・インタラクション・モデル」です。

なお、中学や高校、英会話スクールでコミュニカティブな学習として行われている英会話活動の多くは、この「コミュニカティブ・アプローチ」の「インプット・インタラクション・モデル」とはかけ離れたものになっています。この考え方を学校・英会話スクールなどで取り入れるのであれば、きちんと正確に理論を理解した上で行わなければ、全く意味がないばかりか、かえって学習の弊害になってしまいます。

「インターラクション仮説」から学ぶべきことは?

「インタラクション」による「意味交渉」が重要なのは、それが「内在化」につながるからです。理解できないことを言われたときに、”Sorry?” と聞き返す「意味交渉」によって理解できなかったことについて思考錯誤する機会を持つことができます。思考錯誤することにより、そのことが頭に定着しやすくなるという効果もあります。それが「内在化」につながり、理解できたことを、自分でも使えるようにするきっかけになるのです。

しかし、注意しなければならないこともあります。まず、学習の初期の段階で「意味交渉」を取り入れることは難しいということです。理解できないことを言われたときに聞き返すことすらできなかったり、相手が言い直してくれたことなどを理解できないのであれば「意味交渉」の効果は得られません。

また、「インタラクション仮説」を発展させた「フォーカス・オン・フォーム」については、「化石化」のリスクを避けることが難しいと言えます。「化石化」とは、基礎的な知識がないうちから、どんどん英語でコミュニケーションすることにより「変な」英語が身についてしまう現象です。特に学習の初期の段階で、どんどんアウトプットを強制すると、この「化石化」のリスクが高くなります。

なお、「化石化」については「【オンライン英会話をおすすめしない理由】科学的に徹底検証!」で詳細を解説しています。

5. スピーチ・プロダクション・モデル(Speech Production Model)

推測

「スピーチ・プロダクション・モデル」(以降「プロダクション・モデル」)とは、人間が言葉を話すときの頭の中のプロセスを示した理論です。オランダの心理言語学者であるウィレム・レベルト(Willem Levelt)によって提唱された理論であり、第二言語習得研究の様々な理論の基本的な考え方として広く認知されています。

「プロダクション・モデル」を簡単な図にしたものが下図になります。

プロダクション・モデル

人間がメッセージを伝えたいと思ったとき、まずはそのメッセージが「概念化」されます。この時点ではメッセージは言語化されていません。なんとなくぼんやりとした「概念」の状態です。

次に、その「概念化」された伝えたいと思っているメッセージが、言語の基本要素である単語・文法・発音によって言語という形に「形式化」されます。

最後に、言語という「形式化」されたメッセージが「調音化」、つまり「音声」に変換されて口からアウトプットされます。

「スピーチ・プロダクション・モデル」から学ぶべきことは?

「英語のプロダクション・モデル」=「アウトプットの英語脳」の重要性

私たちが英語を習得する上で重要なことは、プロダクション・モデルの「概念化」から「調音化」までの流れを、英語だけで(日本語を介入させずに)できるようにすることです。つまり、「英語のプロダクション・モデル」を新しくもう一つ作る必要があるということであり、それは、アウトプット(話すこと・書くこと)の「英語脳」を作る必要があるということです。

例えば、自分の言いたいことを一旦日本語にして、それを英語に訳して英語を話す場合、通常の「プロダクション・モデル」から外れたプロセスになります。日本語を英語に訳すという作業が加わることになるので、下記のような「変な」プロダクション・モデルになってしまいます。このような「変な」プロダクション・モデルでは、絶対に流暢に英語を話すことはできません。

変なプロダクション・モデル

「インプット」の英語脳の重要性は理解しやすいと思います。例えば、TOEICのリスニングセクションで、聞いた英語をいちいち日本語に訳して理解していたら高得点は絶対に取れません。高得点を取るには、英語を英語のまま理解すること、つまり、「インプット」の英語脳を作ることが必須ということです。

一方で、「変な」プロダクション・モデルで英語を話すということは、日本語脳を使って日本語を英語に訳しながら英語を話す(アウトプットする)ということです。インプットのときは英語脳を使って理解しているにもかかわらず、アウトプットのときは日本語脳を使うというのはあまりにも不自然です。

「使えない日本の英語教育」と「瞬間英作文」からの脱却

私たち日本人は、英語という異国の文字を「解読」し、日本語に正確に「訳し」ながら理解する「文法訳読方式」という方法で英語を勉強してきました。そこには英語を使えるようにするという意識は全く存在していません。

また、「瞬間英作文」とは、日本語を瞬間的に英語に訳す練習を繰り返すことでスピーキング力を上げようとするトレーニング方法です。つまり、上記で説明した「変」な「プロダクション・モデル」を極めるためのトレーニングです。

断言します。このようなことをやっていたら、日本人はいつまでたっても英語を話せるようになりません。まずは「プロダクション・モデル」という考え方を知り、正確に「訳す」ことから脱却することが、日本人が英語を話せるようになるための第一歩です。

なお、使えない日本の英語教育の詳細については「【日本の英語教育】これが絶望的問題点と絶対的改革案だ!」を参考にしてください。

使えない「瞬間英作文」の詳細については「瞬間英作文は効果ない!英語が話せるようになる練習を始めよう」を参考にしてください。

6. アウトプット仮説(Output Hypothesis)

スピーキング

第二言語(私たちにとっての英語)を習得するには、インプット(聞くこと・読むこと)だけではなく、アウトプット(話すこと・書くこと)も必要だと主張しているのが「アウトプット仮説」です。カナダのトロント大学の研究者であるメリル・スウェイン(Merrill Swain)によって提唱されました。

なお、「アウトプット仮説」も、「インプット仮説」が主張する、第二言語を習得するにはまずは「インプット」が重要であるということを前提としています。

「アウトプット仮説」vs.「インプット仮説」

スウェインは、アウトプットは必要ないと主張する「インプット仮説」に対して次のように反論しています。

カナダでは「イマージョン方式」というバイリンガル教育が行われています。「イマージョン方式」とは、例えば、母語が英語の子どもに、フランス語で他の教科の授業を行う方法です。この「イマージョン方式」でフランス語の教育を受けた子どもたちは、リスニングではフランス語のネイティブと変わらないくらいになるにもかかわらず、アウトプットの能力では明らかにネイティブに劣るという調査結果があります。

「アウトプット仮説」は、「イマージョン方式」での教育で不足しているのは「アウトプット」の機会であり、「アウトプット」することにより、文法的な正確さや表現の適切さも身につくと主張しています。

「アウトプット仮説」のメリットは?

良い点

スウェインは、「聞く」ときは、単語の意味さえ理解できれば、文の構造(文法)を理解できなくても全体的な意味はなんとなく理解できますが、「アウトプット」するときには、文法も意識せざると得なくなるので文法知識の習得もすすむと主張しています。

「アウトプット」することにより、聞いて理解はできるけれど、自分では言えない(使えない)ということに気づくこともできます。また、話し相手に実際に「アウトプット」することによって、自分の言った表現が正しいかどうかを確かめることができます。このような「アウトプット」を通した「気づき」によって適切な使い方を学んでいくことができます。

また、「理解できる」知識を自分で何回も使って「アウトプット」することは、その知識を「使える」知識にすると同時に、さらに「自動的に」使える知識にする効果があります。

「アウトプット仮説」から学ぶべきことは?

しかしながら、「アウトプット」について多くの実験研究が行われてきたにもかかわらず、「アウトプット」そのものが言語能力の向上につながったという結果はあまり出ていないと指摘する研究者もいます。つまり、「話せるようになるには、話す練習をすればよい」という研究結果には必ずしもなっていないということです。

理由はいくつか考えられます。まずは「化石化」の問題です。基礎力がないときから「アウトプット」を強要されると、間違った英語が口から出てきます。その間違いが固定化(化石化)し、結果、めちゃくちゃな英語しか口から出てこなくなってしまいます。重要なことは、間違った英語を講師から後に訂正されたとしても、自分で苦労して「アウトプット」したことの方が頭に定着しやすいということです。

話せるようになるためには、実際に「アウトプット」するだけでは十分ではない問題もあります。自分が言えないことを言えるようにしたり、知識を「自動化」して、無意識的に使えるようにするには、何度も何度も繰り返し思考錯誤し、「内在化」しなければなりません。一度「アウトプット」しただけでは「内在化」して「自動化」することは難しいでしょう。

「自動化モデル」のところでも指摘しましたが、「内在化」するには、自分で何度も試行錯誤しながら使う練習をしなければなりません。話し相手を見つけて「アウトプット」するだけではなく、まずは自分自身でじっくり考え、繰り返し試行錯誤することが重要だということです。

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執筆者プロフィール
小柳 恒一
  • 1999年ロンドン大学大学院ロンドン・ビジネス・スクールにてMBA取得。1997年TOEFL630点取得。2003年TOEIC990点取得。2004年米国公認会計士試験合格。2010年4月中小企業診断士登録。
  • 2000年よりリーマン・ブラザーズ等にて13年以上M&Aのアドバイザリー業務に携わる。
  • 2010年より中堅・中小企業を対象とした事業継承M&Aコンサルティング事業を開始。
  • 2013年よりThe English Clubの前身となるEnglish Tutors Network事業を開始。
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