【結論】「カランメソッド」では英語を話せるようにはなりません。
【根拠】第二言語習得研究の「インプット仮説」と「自動化モデル」
日本人が英語を流暢に話せるようになるためには、英語回路を作る必要があります。英語回路は言語の基本3要素の知識を「インテイク」し「自動化」することにより作られます(自動化モデル)。カランメソッドは、その「インテイク」にも「自動化」にも効果はありません。
また、英語のスピーキング力を含めた総合力を効率的にアップしていくためには、「インプット」の量を確保することが必須です(インプット仮説)。カランメソッドでのインプットは、講師の短い質問と回答の英語のみであり、その量が圧倒的に足りません。特に初心者の皆さまには非効率な学習法です。
カランメソッドでは英語を話せるようにはならない理由は他にもあります。詳しく見ていきましょう。
目次
1. カランメソッドとは?
カランメソッドとは、ネイティブ講師の英語による質問に、瞬発的に英語で答える練習です。オンライン英会話やコーチング系英語スクールでやっているところもあります。
例えば、講師が英語で次のような質問をします。
Is this your pen?
あなたは、瞬発的に英語で答えなければなりません。瞬発的に答えられなかったり、間違って答えた場合は、講師がすぐに正解の英文を教えてくれます。このような短い質問に対して、永遠と答える練習をするのがカランメソッドです。
カランメソッドの広告には、下記の文言が掲載されています。
母国語で考えるというプロセスを防ぎ、
英語を日本語なしに理解し、素早く反応するための英語脳を鍛えることができます。
本当にカランメソッドで「英語脳」を鍛えることができるのでしょうか?第二言語習得研究の知見をもとに検証していきましょう。
2. 英語を話せるようになるには【インプット仮説】と【自動化モデル】
第二言語習得研究では、「インプット仮説」と「自動化モデル」という2つの有名な理論があります。この2つは「第二言語(≒ 外国語)はどのように習得されるのか?」についての2大理論であり、カランメソッドで本当に話せるようになるのかどうかを考えるために、非常に参考になります。
カランメソッドを考えるために重要なことは、「インプット仮説」は「インプット(聞くこと・読むこと)」の重要性を主張しているということ。そして、「自動化モデル」は「知識の自動化」の重要性を主張していることです。
「インプット仮説」を簡単に説明すると
「インプット仮説」とは、「言語習得は言語内容を理解することによってのみおこる」という説です。つまり、読んだり聞いたりする「インプット」だけで言語は習得できるという主張です。スティーブン・クラシェンという言語学者が提唱しました。
母語(私たちにとっての日本語)を習得するように、第二言語(私たちにとっての英語)も、多く「インプット」することにより、「自然」に言語は習得されていくという考え方です。「意識的に」学習された知識はコミュニケーションの場面では役に立たないとクラシェンは主張しています。
この「インプット仮説」には、言語を習得するのに話したり書いたりする「アウトプット」は必要ないという主張も含まれているため、現在でも論争がありますが、言語習得において「インプット」が非常に重要なことを否定する言語学者はいません。
「自動化モデル」を簡単に説明すると
「自動化モデル」とは、「意識的に学習された知識が徐々に自動化されて使えるようになる」という主張です。つまり、単語や文法を意識的に学習して、それを繰り返し使うことにより、無意識的・自動的に使えるようになるということです。
最初は単語や文法を意識しながらゆっくりとしか話せなかった人が、次第に流暢に話せるようになることはよく見られる現象です。この「自動化モデル」は、私たち日本人にとって受け入れやすい主張です。なぜなら、多くの日本人がこの「自動化」により英語を習得しているからです。
この「自動化モデル」は、「意識的」な学習をベースとし、「知識の自動化」を重要視しています。この点は、「インプット仮説」からは批判されていますが、実際に「自動化」で言語を習得した事例は日本人以外にも多いことは事実です。
3. カランメソッドでは話せない理由❶|英語脳を作れない!
「自動化モデル」が主張する、英語の知識の「自動化」というのは、英語を英語のまま(日本語を介入させずに)無意識的・自動的に理解し、使えるようにすることです。つまり「英語回路(英語脳)」を作るということです。
カランメソッドでは、効率的に「英語脳」を作ることができません。それは、「自動化」することができないからです。「自動化」できない理由は、カランメソッドを通して「インテイク」することができないからです。詳しく説明しましょう。
「英語脳」を作るには「インテイク」と「自動化」が必要!
日本人が英語を流暢に話せるようになるには、「英語脳(英語回路)」を作る必要があります。「英語脳」を作る必要がある理由については、「英語脳|英語の思考回路とバイリンガル脳が必要な理由と作り方」を参照してください。
「英語脳」は、英語の基礎知識を「インテイク」し、「自動化」することで作られます。英語の基礎知識とは、言語の基本の3要素である「単語・文法・発音」です。それらの知識を意識的に学習し、「自動化」することで無意識的・自動的に使えるようにするのが「自動化モデル」でした。
英語の基礎知識を「自動化」するには「インテイク」する必要があります。「インテイク」とは、「理解できる」知識を「使える」知識に変えることです。「インテイク」するには、自分でじっくりと思考錯誤する必要があります。思考錯誤することで、その知識を深くし、自分のものにしていきます。その過程を経て、やっと「使える」知識に変えることができるのです。
なお、第二言語習得研究で指摘されている「インテイク」の重要性については、「英語を話せるようになるには?ペラペラになる方法を科学で解明」を参照してください。
カランメソッドでは「インテイク」と「自動化」は不可能!
カランメソッドで「インテイク」できない理由は、カランメソッドが最初からスピードを求めているからです。「インテイク」するには時間をかける必要があります。「インテイク」できなければ「自動化」もできるはずがありません。
カランメソッドでは、瞬発的に英語を話すことが要求されます。したがって、あまり考える時間を与えられないまま、英語を話すことになります。そのような状況で英語を話そうとすると、単語も文法もメチャクチャな英語が口から出てきます。その後、講師から正しい英語を教えてもらっても、教えてもらっただけでは「インテイク」にはなりません。
「インテイク」するには、自分でじっくりと考える必要があります。じっくりと考えることで、基本知識を使えるようにしていきつつ、正しい英語の作り方を学んでいきます。最初は誰でも時間がかかります。しかし、繰り返すことで徐々に速く正しい英語を作れるようになっていきます。これが「自動化モデル」の「自動化」のプロセスです。最初からスピードを求めることは本末転倒です。
カランメソッドの広告に書かれている下記のことは実現できないということです。
母国語で考えるというプロセスを防ぎ、
英語を日本語なしに理解し、素早く反応するための英語脳を鍛えることができます。
4. カランメソッドでは話せない理由❷|化石化のリスク大!
カランメソッドのように、最初からスピードを求める練習は、「化石化」のリスクが非常に高くなります。効率的に英語を話せるようになるには「化石化」は避けなければならないというのが第二言語習得研究の立場です。
「化石化」とは?
「化石化」とは、間違った英語が頭に固定化してしまう現象です。それをそのままにしておくと、間違った英語がどんどん頭に蓄積していき、間違った英語しか話せなくなります。怖いことに、一度間違った英語が「化石化」してしまうと、それを修正することが難しいということです。
「インテイク」するには自分でじっくり考える必要があると説明しましたが、それは自分で考えたことは頭に定着しやすいからです。つまり、「化石化」とは、自分で考えて作った間違った英語を「インテイク」してしまうことです。一度「インテイク」したことを修正するのは、新しく正しい英語を「インテイク」することよりも難しくなってしまいます。
カランメソッドは「化石化」の宝庫!
カランメソッドでは、スピードが求められるために、メチャクチャな英語が口から出る可能性が高くなります。その、一瞬の間に自分で苦労して考え出したメチャクチャな英語が「化石化」してしまうのです。
メチャクチャな英語を話すと、講師が正しい英語をすぐに教えてくれますが、人から聞いたことよりも、瞬間でも自分で考えて苦労して作った英語の方が、強烈な印象をもって頭に定着しやすくなります。メチャクチャな英語を「インテイク」することになるのです。
カランメソッドは、講師の質問に瞬間的に答える練習を永遠と続けることになるので、間違った英語がどんどん「化石化」することになります。そして、結局メチャクチャは英語しか話せなくなってしまう可能性が高くなります。
5. カランメソッドでは話せない理由❸|インプットが不足!
英語を話せるようになるには「インプット」が最も重要だということは、「インプット仮説」が主張していることです。しかし、第二言語習得研究を持ち出さなくても、常識的にも当たり前のことです。カランメソッドの問題点は、そこが見えなくなってしまっていることです。特に初心者の方は注意しましょう!
「インプット」しなければ「アウトプット」できない!
「インプット仮説」は、「インプット」(聞く・読む)だけで言語は習得できるという主張でした。「アウトプット」(話す・書く)必要はないというところは論争がありますが、言語を習得する上で「インプット」が最も重要なことは誰もが認めるところです。
カランメソッドで気をつけなければならない点として、「話す」こと(アウトプット)に集中し過ぎているところです。第二言語習得研究では、「インプット」したことを「インテイク」して「アウトプット」につなげていくことは常識です。つまり、「インプット」なしには「アウトプット」できないということです。
空っぽの頭から英語は出せない!
英語が入っていない空っぽの頭から英語を出すことはできません。言い換えると、口から英語を出したいなら、まずは目と耳から英語を入れることです。当たり前のことですが、マジシャンではないのですから、空っぽの箱の中からは何も出すことはできません。
頭の中に何を入れるのかというと、「自動化モデル」によると、言語の基本3要素である「単語・文法・発音」の知識です。「インプット仮説」によると、英語のフレーズや文章を、非常にやさしいものから徐々に難易度を上げながらから入れていくということになります。両方入れることが最も効率的です。
初心者は「カランメソッド」より「入れる」ことを優先しよう!
カランメソッドを初心者にもすすめているところ(オンライン英会話など)がありますが、そのような広告には気を付けるべきです。なぜなら、初心者ほど「化石化」が起こりやすいからです。
頭に英語があまり入っていない状況で、口から英語を無理やり出そうとした場合、正しい英語が出てくるはずがありません。また、その英語が正しいかどうかの判断もできないので、時間をかけてじっくり考えたとしても、正しい英語を「インテイク」できるはずがないのです。めちゃくちゃな英語がどんどん「インテイク」されていきます。
初心者であればあるほど、良質な英語をどんどん「インプット」することに注力しましょう。それが、結果的に効率的に話せるようになる近道になります。
6. カランメソッドでは話せない理由❹|結局フレーズ暗記だけ!
カランメソッドでは、結局は講師から教えてもらったフレーズを暗記するだけの勉強になってしまいがちです。フレーズを暗記するだけでは、英語を流暢に話せるようにはなりません。カランメソッドの本来の目的は達成できないということです。
カランメソッドの高尚は目標は達成できない!
カランメソッドでは、講師が英語で質問したあと、間違ったり、うまく答えられなかったら、講師がすぐに正解の英語を教えてくれます。それを聞くと、「なるほど!」と、そのときは勉強した気になりますが、人から聞いたことなどすぐに忘れてしまうのが人間です。
では、せっかくのカランメソッドを無駄にしないために、講師に教えてもらったことをノートに書き、繰り返し練習して覚えたとしても、それは単にフレーズを覚えることだけになってしまいます。
母国語で考えるというプロセスを防ぎ、
英語を日本語なしに理解し、素早く反応するための英語脳を鍛えることができます。
カランメソッドの目的は、上記であると広告に書いてありましたが、単にフレーズを覚えるだけで、上記のことが達成できるのでしょうか?
カランメソッドは「インプット仮説」にも「自動化モデル」にも準じていない!
上記の広告の文言によると、カランメソッドのそもそもの目的は、日本語を介入させずに自分の言いたいことを瞬時に英語で表現できるようにすることのはずです。しかしながら、そのための方法を全く教えていません。単に正解の英文を講師が垂れ流して、結局は講師の言ったフレーズを覚えるだけになってしまいます。これでは、本来の目的を達成できるはずがありません。
日本語を介入させずに自分の言いたいことを瞬時に英語で表現できるようにするには、確立された方法があります。それは、「インプット仮説」と「自動化モデル」の両方の理論をベースとした方法です。残念ながら、カランメソッドはそれら2つの理論のどちらにも準じていません。
カランメソッドを取り入れているスクールが多いのは、講師にとって楽だからです。どんどん質問して、答えられなかったら正解を言うだけですから。カランメソッドの講師に高いスキルは必要ないので、スクールとしてやりやすいのです。
7. カランメソッドでは話せない理由❺|日本人向けではない!
英語の効率的な学習方法は、学習者の母語(日本人の母語は日本語)が何語かによって異なります。カランメソッドは、全く同じ方法で30カ国くらいで実施されているそうですが、それはつまり、学習者の母語は全く無視しているということです。
効率的な英語の学習方法は母語によって異なる!
日本人の効率的な英語の学習方法と、例えば、ヨーロッパで英語以外の言語を母語としている人のそれとは全く異なります。日本語と英語は、あらゆる面で全く異なる言語ですが、ヨーロッパの言語、例えば、フランス語やドイツ語などは、英語と同じ「インド・ヨーロッパ語族」に属しており、英語と似ている部分がたくさんあります。
したがって、日本語を母語とする私たちと、「インド・ヨーロッパ」語族に属している言語を母語とする人たちとでは、効率的な英語の学習方法は違って当然なのです。
例えば、日本で出版されている英語の文法書には、最初の方に必ず「5文型」の説明が書かれています。しかし、イギリスやアメリカで出版されている英語学習者向けの文法書には、「5文型」について書かれているものはありません。それは、日本人にとって「5文型」は重要ですが、日本人以外の多くの英語学習者にとっては全く重要ではないからです。
日本人にとって、「英語は主語の次に動詞を置く」というのは重要です。なぜなら、日本語の場合、動詞は一番最後に置くからです。一方で、例えばフランス人にとっては、「主語の次に動詞を置く」ことは当たり前なので、いちいち学習する必要はありません。
カランメソッドは本当に日本人にとって効率的な学習方法?
このような違いを全く無視したカランメソッドが、日本人にとって本当に効率的な練習方法なのかどうかは、より深い検証が必要です。
例えば、英語と語順が似ている「インド・ヨーロッパ語族」に属する言語を母語としている人にとっては、英語の語順にもすぐに順応できるでしょう。しかし、日本語は英語とは全く語順が異なるため、英語の語順で順応し、英語の文章を瞬時に作れるようになるのは大変なことです。文法の知識を基礎から積み上げていって、それらの知識を自動的に使えるように「自動化」する必要があります。
そのようなことを十分にせずに、単純に瞬発的に英語で答える練習を繰り返しても、語順が「変な」英語が身に付いていくだけです。つまり、カランメソッドは、「インド・ヨーロッパ語族」に属する言語を母語としている人に比べて、日本人にとって「化石化」のリスクが非常に高いということです。
これは、カランメソッドが日本人には合わない理由の一つですが、その他にもいろいろ検証する必要があると思います。
8. 「インプット仮説」と「自動化モデル」で話せるようになろう!
「インプット仮説」と「自動化モデル」の主張は相反するところが多いですが、最近の第二言語習得研究では、両者の中間的な立場をとる研究者が多いというのが実情です。
この2つの理論から私たちが学べることは、英語を効率的に習得するためには、①「インプット」の量を確保すること。そして、②同時並行的に、単語・文法・発音の基礎知識を学習し、それらを「自動化」していくことが重要だということです。
残念ながら、カランメソッドでは、これら2つのことをカバーすることはできません。つまり、カランメソッドは、第二言語習得研究の知見からも話せるようにはならないということです。
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