大人・社会人向け英単語教材として、『速読速聴・英単語』シリーズを徹底検証することがこのコラムの目的だ。このシリーズは全部で8種類ある。そのうちの下記の4種類を丸裸にする。
- 「Basic 2400 ver.3」(初級)
- 「Daily 1500 ver.3」(初中級)
- 「Core 1900 ver.5」(中級)
- 「Advanced 1100 ver.5」(上級)
The English Clubはあらゆる単語学習教材を使用してきた。その積み重ねてきた経験と知識をもとに、本シリーズのそれぞれの内容、やり方、効果についてできる限り客観的に、そして徹底的に検証したい。皆さまの英語学習の手助けになれば幸いだ。
『速読速聴・英単語』シリーズを含む人気の単語帳7種類・23冊を徹底検証したコラム「【英単語帳】社会人におすすめは?人気の23冊を徹底検証!」も参考にしてほしい。
目次
1. 速読速聴・英単語|おすすめ度 by The English Club
「中級者以上のビジネスパーソンの方には、「自動化」促進用として「Core1900」「Advanced1100」はお薦めできる。決して単語学習用ではない。」
このコラムでピックアップした「速読速聴・英単語」シリーズの4種類のうち、お薦めできるのは「Core1900」と「Advanced1100」の2つだ。「Core1900」はTOEIC600点以上の方にはお薦めできる。一方で「Advanced1100」は、TOEIC900点以上ないと難しいのでターゲット層が非常に限られる。
「Core1900」と「Advanced1100」はお薦めできるが、単語を効率的に覚えるための教材としてではない。「自動化」を促進するための教材としてである。「自動化」とは、第二言語習得研究で用いられている言葉で、単語・文法・発音の知識を「自動的」に使えるようにすることを意味する。
「速読速聴・英単語」シリーズは、単語の選定基準が非常にあいまいなため、英単語を効率的に習得したい方には決してお薦めできない。英単語は、使用頻度順に覚えていくことが最も効率的だが、本シリーズはそれを全く考慮していない。
本シリーズは「文脈主義」という、文脈で単語を覚えることを基本としている。基本的には賛成なのだが、この方法は、特に中学英語からおさらいしたい初級者の方には逆に非効率となる。初級者の方であれば、最重要語2000語を短く簡単な例文で覚えるタイプの教材から始めた方が圧倒的に効率的だ。
また、本シリーズでは、一貫してジェネラルな題材を使用している。英語を効率的に習得したいのであれば、自分が使うであろう英語と似た英語の題材を使うことが必須となるが、本シリーズの題材は、一見、皆にとって必要な題材であるように思えるが、実は皆にとって必要ではない。ターゲット層が非常にあいまいな教材である(特に「Basic2400」と「Dailly1500」)。
2. 速読速聴・英単語|8種類の概要と対象レベルは?
速読速聴・英単語シリーズは下記の通り全部で8種類ある。なお、「対象レベル」は本書に掲載されているものであり、The English Clubの考える対象レベルとは異なる。
速読速聴・英単語シリーズ | 対象レベル |
Basic 2400 ver.3 | TOEIC(L&R)500台を目指す方 |
Daily 1500 ver.3 | TOEIC(L&R)500〜700を目指す方 |
Core 1900 ver.5 | TOEIC(L&R)600〜800を目指す方 |
Opinion 1100 ver.2 | TOEIC(L&R)600〜800を目指す方 |
Business 1200 | TOEIC(L&R)700〜900を目指す方 |
Advanced 1100 ver.5 | TOEIC(L&R)900台を目指す方 |
TOEIC Standard 1800 ver.2 | TOEIC(L&R)500〜700を目指す方 |
TOEIC Global 900 ver.2 | TOEIC(L&R)800以上を目指す方 |
上記の8種類のうち、このコラムで検証するのは【Basic 2400 ver.3】【Daily 1500 ver.3】【Core 1900 ver.5】【Advanced 1100 ver.5】の4種類である。
【Opinion 1100 ver.2】を省略した理由は、対象レベルが【Core 1900 ver.5】と重なること、そして【Core 1900 ver.5】の方が頻繁に、かつ最近バージョンアップしているからだ。
【Business 1200】を省略した理由は、対象レベルが他の2つと重なること、そして2008年初版以降バージョンアップしていないからだ。
また、TOEIC対策用の2冊も省略した。
3. 速読速聴・英単語|主要4種類に共通する宣伝コピー
ここでは【Basic 2400 ver.3】【Daily 1500 ver.3】【Core 1900 ver.5】【Advanced 1100 ver.5】の4種類に共通して記載されている宣伝コピーをご紹介する。
英文をたくさん読んだり聴いたりして単語力を身につけていくのが、一見遠回りのようで、実は最も効率的な学習法です。なぜなら、文脈といっしょに単語をインプットすることで、定着率が高まるからです。
そのためには、重要度の高い単語が繰り返し出てくる英文に音とともにふれるのがもっとも良い学習法です。
速読速聴・英単語シリーズは、全てこの「文脈主義」を基本コンセプトとしています。
4. 速読速聴・英単語|主要4種類の個別の宣伝コピーと内容
速読速聴・英単語の主要4種類のそれぞれの宣伝コピーと内容を、記載されているままご紹介する。
4.1. 「速読速聴・英単語Basic 2400 ver.3」
「速読速聴・英単語Basic 2400 ver.3」の宣伝コピー(本書から抜粋)
• 英語力の基礎とも言える中学〜高校初級程度の教科書レベルの単語・熟語・表現を総復習することができます。また、ネイティブなら子供でも知っている生活基本語彙も同時に身につきます。
• 英文テーマは、会話、日記、手紙、レシピなど、バリエーション豊富で、楽しみながら学習を進めることができます。
• 本書1冊で単語力・熟語力に加え、速読力、リスニング力、そして背景知識 – この5つの成果が自然と身につきます。【このような方に特にお薦めします】
• 初級レベルの方。…、まだTOEICテストを受験したことがなく、これからチャレンジしたいと思っている方。…、現在のスコアが500未満で、500台を目指す方。英検なら3級〜準2級を目指す方。
• 中学〜高校1年程度の単語・熟語・表現を一通り復習したい方。…。【見出し語選定基準】
• 中学校の英語教科書(6種類 × 3学年分)で使用頻度の高いもの。小学校外国語活動教材(”Hi, friends!”)の掲載語。
• 欧米の幼児・児童向け辞書(VOA Special English Word Book, 300 First Words (BARRON’S), Picture Dictionary (LONGMAN), English Through Pictures (YOHAN))に掲載されている生活基本語彙。これらを基に、監修者・執筆者・編集部で協議のうえ選定しました。
「速読速聴・英単語Basic 2400 ver.3」の利用法(本書から抜粋)
【基本編】
目標:英文内容把握 & 単語確認
① 英文を読む前に、テキストを見ずにCDを1〜3回聴いてみる。
② 今度はテキストを開いて、英文を目で追いながら、また2〜3回聴いてみる。
③ 次に自分で実際に「音読」してみる。(CDは聴かなくてもよい)
④ テキストでの単語学習と英文内容把握学習を行う。…。
⑤ …、単語の発音と英文を確認するために再度、CDを聴く。【応用編】
目標:速読 & 速聴
① CDを聴きながら、英文を黙読する。…。
② テキストを見ずに、CDを聴く。
③ shadowingを行う。CDを使った効果的な音読法
STEP 1: 英文を読む前に、本を閉じたままCDの音声を聴き、概要を理解しましょう。
STEP 2: 本を開いて、CDの音声を聴きながら英文を黙読しましょう。
STEP 3: 本を開いたまま、一文ずつポーズを取り、CDの音声に続いて音読しましょう。
STEP 4: 本を開いたまま、CDの音声にあわせて、ほぼ同時に音読しましょう。
STEP 5: 本を閉じ、CDの音声にあわせて同じように言って見ましょう。
「速読速聴・英単語Basic 2400 ver.3」の内容
本書の構成
Part I 中学英語
…。最も頻度が高く重要と思われる約1,000語を80の短い会話・文章に盛り込みました。…、Part 1を学習するだけで中学英語(単語・熟語)の総復習が可能です。Part II テーマ別
… テーマ別に分かれており、英文は全部で62本あります。テーマは自分、家族、旅行、学校など身近な話題を中心に集めました。英文のスタイルも会話、手紙、日記、広告、レシピなど…。
1. 自分
2. 家族・家庭
3. 日常生活
4. 旅行
5. 学校・教科
6. ストーリー• 基本動詞コラム
• 前置詞コラム
• Picture Dictionary
• More! グループ別に覚えよう
4.2. 「速読速聴・英単語Daily 1500 ver.3」
「速読速聴・英単語 Daily 1500 ver.3」の宣伝コピー(本書から抜粋)
• 約140本の英文の中に、1500語の単語・熟語を盛り込みました。文脈ごと単語に触れられるので、「読む力」「聴く力」「単語力」「熟語力」「背景知識」が無理なく身につきます。
• …。生活・文化・趣味など幅広いテーマを扱いました。…。メール、webサイト、広告、会話などの多様なスタイルをバランスよく掲載し、インプットとアウトプットの両方に役立つようにしました。
• 各種語学試験(TOEICテスト、TOEFLテスト、英検他)対策にも効果絶大!【このような方に特にお薦めします】
• 初級英語レベル(「速読速聴・英単語Basic2400」レベル」)を終えた方
• CEFR B1レベルを目指す方
• TOEICテスト スコア 500〜700台を目指す方
• 英検2級を目指す方
• ケンブリッジ英検PETを目指す方【掲載語について】
本書は、速読速聴・英単語シリーズで分析対象としている、TOEIC、TOEFL、各種英字新聞、英検のデータをもとに、CEFRのB1を目指すレベルを想定して、初中級レベルの重要語を選定しました。
「速読速聴・英単語Daily 1500 ver.3」の利用法(本書から抜粋)
【基本編】
① まず、テキストを見ずにCDを聴く
② テキストを開いて、英文を読む(黙読)
③ 和訳を読みながら、全体の意味を確認する
④ 単語欄で、意味の記憶+関連語の確認をする
⑤ CD をもう一度聴いてから、音読する【応用編】
① ディクテーション(書き取り)
② ロールプレイ(話者になりきって音読する)
③ シャドウイング(音声を聞きながら「追いかける」ように音読する)
④ 使える表現を集める・自分でも書いてみる
「速読速聴・英単語Daily 1500 ver.3」の内容
英文は11のテーマに分かれており、全部で143本あります。英文のスタイルは、会話、メール、スピーチ、レビューなどバリエーションに富んでいます。
CONTENTS
1 日常生活 Daily Life
2 自分 Self
3 旅行 Travel
4 ショッピング Shopping
5 食事・料理 Food/Cooking
6 スポーツ Sports
7 健康・癒し Health/Healing
8 音楽・アート Music/Art
9 本・エンターテイメント Books/Entertainment
10 サイエンス Science
11 社会活動 Social Activities
4.3. 「速読速聴・英単語Core 1900 ver.5」
「速読速聴・英単語Core 1900 ver.5」の宣伝コピー(本書から抜粋)
• 重要語が凝縮された64本の長文および158本のショートパッセージを読み、聴くことで、語彙力のみならず、読む力、聴く力、そして時事知識を同時に身につけることができます。
• 英字新聞やインターネットの英語、英語放送を理解するためのコア・ボキャブラリー約1900語を厳選。
• 各種語学試験(TOEIC L&R TEST、英検 他)対策にも効果絶大!【このような方に特にお薦めします】
• CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)B2レベルを目指す方
• TOEIC L&R TEST スコア600〜800台を目指す方
• 英検2級〜準1級を目指す方
• ケンブリッジ英検FCEを目指す方【掲載語について】
本書は、速読速聴・英単語シリーズで分析対象としている、TOEIC、TOEFL、各種英字新聞、英検のデータ、およびCEFRの語彙リストを参照し、英語のニュースを理解する上で必須の中級レベルの重要語を選定しました。
「速読速聴・英単語Core 1900 ver.5」の利用法(本書から抜粋)
効果的活用法
活用例 1
目標:英文の内容を把握する & 単語を覚える
1. まず、テキストを見ずに音声を聴く
2. テキストを開いて、英文を読む(黙読)
3. 和訳を読みながら、全体の意味を確認する
4. 単語を確認する
5. 音声をもう一度聴いてから、音読する活用例 2
目標:耳を鍛える・英語を英語のままで理解する
1. テキストを見ずに、およそついていけるまでnatural speedの音声だけを数回聴く。
2. テキストを見ながら、slow speed(Part Iのみ)→ natural speedの順に音声に合わせて音読を行う。
3. テキストを見ずに、natural speedでシャドウイングを行う。ついていけなかった部分はテキストで確認し、また閉じてチャレンジする。
「速読速聴・英単語Core 1900 ver.5」の内容
Part I News Articles
第1章 環境
第2章 教育
第3章 社会
第4章 政治・国際情勢
第5章 経済・ビジネス
第6章 司法
第7章 科学・テクノロジー
第8章 医療・健康Part II Short Passages
Unit 1〜5 会話
Unit 6 環境・医療
Unit 7 教育
Unit 8 社会
Unit 9〜11 政治
Unit 12 経済
Unit 13 司法
Unit 14 化学
Unit 15 宗教
Unit 16 芸術・文化
Unit 17〜18 仕事
Unit 19〜25 その他
4.4. 「速読速聴・英単語Advanced 1100 ver.5」
無料音声ダウンロード 松本茂(監修)[Z会]¥2,300+税
「速読速聴・英単語Advanced 1100 ver.5」の宣伝コピー(本書から抜粋)
• …。本書では、重要語が使われている43本の英字新聞・英文雑誌からの抜粋記事、ネイティブ・スピーカー書き下ろしのオリジナル英文を1文ごとの対訳とともに読み、聴くことを通して、語彙力のみならず、読む力、聴く力、そして時事知識を同時に伸ばすことができます。
• 英字新聞・英文雑誌やインターネットの英語、英語放送を読みこなすための難度の高いボキャブラリー1100語を厳選しました。
• 各種語学試験(TOEIC、TOEFL、英検 他)対策にも効果絶大!【このような方に特にお薦めします】
• 上級レベルを目指す方
• TOEIC L&R TESTスコア900台を目指す方
• 英検1級、国際英検特A級を目指す方【見出し語選定基準】
(1)各種語学試験の過去問題での出現頻度、(2)英字新聞・雑誌・放送などでの実際の出現頻度、(3)他社英単語集の見出し語、(4)熟語については、データ上の頻度に加え、native speakerなら当然知っている熟語で、「Core1900」では紹介できなかった語 – 主にこの4つを基準に著者と編集部が選定しました。
「速読速聴・英単語Advanced 1100 ver.5」の利用法(本書から抜粋)
効果的な活用法
活用例 1
目標:英文内容把握 & 単語確認
1. 英文を読む前に、本書を見ずに2〜3回聴いてみる。
2. 今度は本書を開いて、英文を目で追いながら、また2〜3回聴いてみる。
3. 次に、今度は自分で実際に「音読」してみる。
4. 単語学習と英文内容把握学習を行う。
5. 4の終了後、復習時に、単語の発音と英文を確認するために再度、音声を聴く。活用例 2
目標:速聴
1. 本書を見ずに、音声だけを、およそついていけるまで数回聴く。
2. 本書を見ながら、音声を聴いてオーバーラッピングを行う。
「速読速聴・英単語Advanced 1100 ver.5」の内容
CONTENTS
第1章 社会
第2章 政治・国際
第3章 経済・経営
第4章 司法・法律
第5章 医療・健康
第6章 科学・テクノロジー
第7章 歴史・文化
5. 速読速聴・英単語|主要4種類の学習効果分析
まずは、このコラムでピックアップした「速読速聴・英単語」シリーズの4種類の内容・やり方・効果について、共通する部分を検証する。
5.1. 単語の選定基準があいまい!
速読速聴・英単語シリーズ全てにいえる一番の欠点は、単語の選定基準が曖昧すぎるということだ。
英単語を効率的に習得するには、「数」よりも「質」が重要になる。つまり、「どれくらいの数を覚えるのか」よりも、「どの単語を覚えるのか」が英語学習の効率性を左右する。
英単語を使用頻度順に並べた場合、最も使用頻度が高い最重要語2,000語で、あらゆる英語素材の約80%をカバーできるが、2,001語目から8,000語までの6,000語では10%以下しかカバーしないという研究結果が数多く発表されている。
最も効率的な英単語の覚え方は、使用頻度順に覚えていく方法である。(当然、自分の専門分野など、使用頻度が低くても自分にとって必要な単語も覚えていく必要がある。)間違っても、最重要語を習得する前に、1年に1回も出会わない使用頻度10,000番目の単語を覚えるようなことはすべきではない。
我々英語学習者が単語学習用の教材を選ぶ場合は、掲載単語の選定基準に細心の注意を払った教材を選ぶべきである。その点、本書はお薦めできない。
ビッグデータの時代だ。統計的・科学的根拠に基づいて覚えるべき単語を抽出することはそれほど難しいことではない。
なお、英語の単語数についての詳細は「英語の単語数は2000語で80%|数より質で効率的に語彙力強化!」を参考にしてほしい。
5.2. ターゲット層があいまい!
速読速聴・英単語シリーズは、どのような方向けの単語学習教材なのかが非常に曖昧である。
英語を効率的に習得するには、自分が使うであろう単語やフレーズ・表現が多く含まれた題材(テーマ)を使うことが重要である。
例えば、ビジネスで英語が必要な方が、学園ドラマで英語を学ぶことは非効率である。なぜなら、ビジネスで必要となる英語と、学園ドラマに出てくる英語とは重なる部分が決して多くはないからだ。ビジネスパーソンの方であれば、ビジネス関連の題材を使用して英語を学ぶ方が効率的である。
速読速聴・英単語シリーズでは、一貫してジェネラルな題材を使用している。「日常生活」「学校」「旅行」「ショッピング」「食事」「スポーツ」「社会」「政治」「経済」「健康」「歴史」など非常に幅広い題材を取り上げている。
これらの題材は、皆にとって必要であるように見えるが、実は皆にとって必要ではない。例えば、「日常生活」「学校」「旅行」「ショッピング」などは、決してビジネスパーソン向けではない。かといって、「政治」「経済」「健康」「歴史」などは、これから留学する学生向けでもない。ターゲット層が非常にあいまいな単語教材である。
5.3. 「文脈主義」には賛成だが初心者は注意!
速読速聴・英単語シリーズは、一貫して「文脈主義」という「文脈の中で単語を覚える」方法を採用している。この方法は、ある程度英語力がある方には非常に有効は学習方法であることは認めるが、初心者には逆に非効率になりかねない。
本シリーズが主張している「英文をたくさん読むなかで自然に身につけていく」単語の学習方法は、人が単語を自然に習得する方法である。我々日本人は、大人になってからでも、多くの日本語に触れることによって継続的に単語を覚えている。決して単語帳で覚えたりしない。
しかしながら、第二言語(ここでは英語)を学習しようとしている初心者の場合は事情が異なる。例えば、英語の場合は、まずは超基本の1,000語の単語を覚えなければ何も始まらない。「father」や「have」「beautiful」「usually」などの超基本語を文脈の中で覚えようとすると大変な量の英文を読まなければならなくなる。まだ文法の基礎も習得していない段階で、それほど大量の英文を読むことは現実的ではない。
初心者の方は、最低でも超重要語1,000語は、文脈ではなく一つ一つ訳語を覚えていった方が圧倒的に効率的である。その際、短い簡単な例文で覚えていくと更によい。
6. 速読速聴・英単語|主要4種類の個別の学習効果分析
次に、主要4種類それぞれの内容・やり方・効果について検証する。
6.1. 「速読速聴・英単語Basic 2400 ver.3」の学習効果分析
初級者には【文脈主義】は逆に非効率!
本書が主張する「文脈主義」には賛成する。しかし、それはある程度の基礎ができている学習者に対してである。中学の単語からやり直そうとしている「初級者」の皆さまには逆に非効率だ。
英語の学習は単語を覚えることからはじまる。単語を覚えなければ何も始まらない。文法も重要だが、文法を学習するにはある程度の単語を知っておく必要がある。つまり、文法学習の前に基礎的な単語を覚える必要があるということだ。
本書に掲載されている最初の例文は以下である。太字が覚えるべき単語(見出し語)である。
Ben: Mom, do dogs dream?
Mom: That’s a good question, honey. Let’s look on the Internet.
Ben: Yeah, let’s do that.
問題は、「question」という単語をこれから覚えるレベルの初心者の方が、「Do dogs dream?」という疑問文を文法的に理解できるのか?というところである。ちなみに、本書では文法的な説明は一切ない。
初心者の方には「文脈主義」は無理がある。まずは、最重要語1,000語程度の第一義的な意味を、ごく簡単な例文とともに覚えることをおすすめする。
単語レベルと英文のレベルがチグハグ
本書は「速読速聴・英単語」シリーズのもっとも低いレベルの「初級者用」である。中学レベルの単語をおさらいしたい方向けの教材である。しかしながら、そのような方向けとは思えない例文が数多く掲載されている。
例えば、下記の例文が文法的に何の説明もなく掲載されている。
Has anyone ever made you give a speech?
文法用語を使って説明すると、現在完了形の疑問文で、動詞の「make」は使役動詞である。太字が覚えるべき見出し語だが、この英文が、「anyone」という単語を覚えようとしている方向けの適切な例文だとは思えない。
なお、文法解説は「巻末資料」として12ページを割かれているが、例文からその解説への参照がなく、説明も初心者向けには十分ではないため、全く役に立たない。
掲載単語の選定基準があいまい
本書に掲載されている単語は下記に掲載されている単語を基に、「監修者・執筆者・編集部で協議のうえ選定しました。」とあるが、あまりに曖昧すぎる。
- 中学校の英語教科書(6種類 × 3学年分)
- 小学校外国語活動教材(”Hi, friends!”)
- 欧米の幼児・児童向け辞書
このレベルの単語集であれば、最低でも最重要語の2,000語を全てカバーすべきであるが、それすらわからない。わからないものは信じるべきではない。したがって本書はお薦めできない。
付属のCDは文章の音声のみ
付属のCDには、文章の音声のみが収録されている。見出し語の音声は収録されていない。初級者の方は、個々の単語の意味と発音とを一緒に丁寧に覚えてほしいのだが、本書ではそれができない。
英単語を覚えるときは、その発音方法とアクセントの位置も一緒に覚えることが重要である。特に、アクセントの位置は重要だ。なぜなら、アクセントの位置を間違えると相手に理解してもらえないからだ。逆に、若干発音がおかしくても、アクセントの位置が合っていれば理解してもらえやすい。
本書のように、例文の音声だけだと、個々の単語のアクセントの位置が分かりにくくなってしまう。
例文の音声は、Part 1は非常にゆっくりと読み上げているのだが(120-130 wpm)、Part 2では速度が速くなっている(150 wpm程度)。後半の方では、音と音のつながり(音声変化)も学べるので良い作りだと思うが、中学の単語からおさらいする目的の単語集にしては例文が難しすぎるので、かなり難易度が高い。
6.2. 「速読速聴・英単語Daily 1500 ver.3」の学習効果分析
掲載単語の選定基準が非常にあいまい
本書の掲載語の選定基準についての記載は以下のみである。
TOEIC、TOEFL、各種英字新聞、英検のデータをもとに、CEFRのB1を目指すレベルを想定して、初中級レベルの重要語を選定しました。
その結果が、一番最初の例文に出てくる「sleet」(みぞれ)という単語だ。本書は、この単語を初中級者が覚えるべき単語として見出し語としているが、本当にこのレベルで覚えるべき単語なのだろうか?
重要英単語を使用頻度順に並べた比較的信頼できるリストの一つとして「JACET8000」というリストがあるが、このリストに掲載されている8000語の中に「sleet」という単語は掲載されていない。「sleet」という単語を覚える必要はないといっているのではない。「sleet」という単語を覚える前に、覚えるべき単語がほかに数多くあるということだ。
どんなによい作りの教材でも、単語の教材である限り、選定基準がこのようにあいまいのものを、英語を効率的に習得したいと望んでいる方にお薦めすることは絶対にできない。
単語学習を目的として本書で使用するのはリスクが大きすぎる。監修された松本茂氏および出版元であるZ会を心底信じている方以外は本書には手を出すべきではないというのがThe English Clubの結論だ。
ちなみに「JACET8000」については「JACET8000英単語とは?単語集としての内容と使い方を徹底解説!」を参考にしてほしい。
題材が多岐にわたるため好き嫌いがある
本書は題材が多岐にわたるため、誰にとっても必ず興味のあるものとないものが含まれている。したがって継続するモーティベーションを維持することが非常に難しい。
本書の題材は「日常生活」から「食事」「健康」「社会活動」など多岐にわたる。例えば、5つ目の例文は「PTA会報」が題材である。このような題材に興味がある方、もしくはこのような題材に出てくるフレーズが必要な方がどのくらいいるのだろうか。疑問が残る。
このレベルでも【文脈主義】は逆に非効率!
「文脈主義」は初心者にとって非効率であることは既に述べたが、このレベルの教材でも同じことが言える。
最初の例文に出てくる見出し語の「temperature」の意味を知らない方には「文脈主義」はまだ早い。最低でも最重要語2,000語を、短めの簡単な例文で覚えてからにした方が効率的である。本書には文法的に難しい例文や、このレベルには難しすぎる単語も多く含まれているのでなおさらだ。
付属のCDの音声は文章のみ収録でナチュラルスピードよりやや遅め
本書のCDも、文章のみの音声が収録されている。「Basic2400」と同様に、本書「Daily1500」を使用するレベルの方も、個々の単語の発音(アクセントの位置を含む)は丁寧に学習してほしいので、例文だけの音声では不十分である。
ナチュラルスピードよりやや遅い速度で収録されているが、音と音のつながりなどはナチュラルなので、それらのトレーニングにはよいと思う。しかしながら、TOEIC470以下の方も対象としている割には、難しい単語や、難しい文法を使った文が多く含まれているので難易度は高い。
6.3. 「速読速聴・英単語Core 1900 ver.5」の学習効果分析
掲載単語の選定基準があいまい
本書の掲載語の選定基準についての記載は以下のみである。
本書は、速読速聴・英単語シリーズで分析対象としている、TOEIC、TOEFL、各種英字新聞、英検のデータ、およびCEFRの語彙リストを参照し、英語のニュースを理解する上で必須の中級レベルの重要語を選定しました。
単語を効率的に覚えるという観点からは非常に心許ない。そこに重点を置かず、英文に多く触れることによって「自動化」を促進させることを目的に本書を使用するのであればお薦めできる。
なお、「自動化」とは、単語・文法・発音の知識を「自動的」に使えるようにすることである。つまり、「自動化」とは、「英語を英語のまま、英語の語順で理解する」ための「英語脳(英語回路)」を構築することだ。詳しくは「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築する」を参考にしてほしい。
TOEIC600以上であれば「Core1900」の「文脈主義」は適切
「Core1900」レベルの教材を使いこなせる方は、「文脈主義」により高い効果が得られるであろう。
対象となる方は、最重要基本語2000語をある程度「深く」理解されている方だ。「深く」理解しているというのは、単語1つに対して(動詞など)、日本語の訳語を1つ覚えている状態ではなく、その単語の全体的なニュアンスをなんとなく理解している状態をいう。TOEICのレベルだと600点以上はほしい。
「Core1900」に記載されている対象は、TOEICのレベルで470点以上となっているが、600点以下だと非常に難しく感じるだろう。見出し語の難易度はそれほど高くないのだが、見出し語以外で難易度の高い単語や、難易度の高い文法構造のものが少なからず含まれているからである。
ビジネスパーソンにはおすすめのニュース題材
既に指摘したが、英語を効率的に習得するには、自分が必要とする英語に近い題材を使用すべきである。その点、ニュースを題材としている「Core1900」はビジネスパーソンにはおすすめできる。なぜなら、ビジネスで使用される英語と、ニュースの英語とは重なる部分が多いからだ。
グローバルにビジネスを成功に導くには、雑談力も重要となる。その点、時事問題の基礎知識を得るにもよいと思われる。それぞれのニュース題材について、自分の意見を英語でまとめてみると更によいだろう。
「さらば、例文主義。」とあるが例文も掲載している矛盾
本書のp.2に「さらば、例文主義。これからは『文脈主義』の時代です。」との記載があるが、実際には例文が多く掲載されている。
例えば、見出し語の説明のところには多くの例文が掲載されているし、「Part II Short Passages」は全て例文で単語を覚えさせる形式になっている。そもそも「Short Passages」とは「例文」のことである。
単語や熟語の使い方を理解し、自分でも使えるようにするには例文で覚えるべきだと主張する言語学習は多い。「さらば、例文主義。」は言い過ぎであり、全く賛成できない。
付属のCDには文章と例文の音声のみ
付属のCDには、Part Iの文章とPart IIの例文の音声のみ収録されている。Part I は「natural speed」(150〜160wpm)と「slow speed」(120wpm)の2つ、Part IIは「natural speed」(150〜160wpm)のみ収録されている。
見出し語の音声は収録されていないので、母音と子音の個々の発音はある程度マスターした方で、音声変化やプロソディ(リズムやイントネーション)をマスターしたい方向けである。
英語の発音についての詳細は「英語の発音|初心者向け科学的見地からの6つのコツと練習方法!」を参考にしてほしい。
6.4. 「速読速聴・英単語Advanced 1100 ver.5」の学習効果分析
無料音声ダウンロード 松本茂(監修)[Z会]¥2,300+税
単語の選定基準があいまい!
本書「Advanced1100」の見出し語の選定基準は、様々な英語素材での出現頻度を基準に著者と編集部が選定したとあるが、そこに明確な基準はない。著者と編集部の知識と経験により決められていると解釈していい。
繰り返し指摘してきたが、明確な単語選定基準を持たない単語学習教材は決してお薦めできない。掲載されている単語が本当に覚えるべき単語なのかどうかが判断できないからだ。
効率的に単語を覚えたい方には、リスクが大きすぎるので本書はお薦めしない。
本書は単語学習用の教材ではない!
繰り返すが、本書は、効率的に単語を覚えたい方の単語学習用教材としてはお薦めしない。多くの英語に触れることによって総合的な英語力を鍛えるための教材と考えた方がよい。そのように捉えた場合、本書「Advanced1100」はお薦めできる。ただし、対象は非常に英語力が高い方に限定される。
本書に掲載されている英文は、実際の英字新聞・雑誌から抜粋された記事が多い。本書には、TOEIC730点以上の方を対象としていると記載されているが、最低でも900点以上はないと難しい。英語は難しいことをやればよいというものではない。900点以下の方はまだまだ基礎が固まっていない方が多い。そのような方は、「速読速聴・英単語」シリーズでは、「Core1900」で十分である。
題材はビジネスパーソンにはおすすめのニュース素材が多い
「Core1900」同様、本書「Advanced1100」もニュースの題材が多い。したがって、ビジネスパーソンにはよいだろう。理由は「Core1900」のところを参照してほしい。
無料の音声ダウンロードは英文と見出し語
本書「Advanced1100」のみ、音声はCDではなく無料ダウンロードとなっている。そして、本書のみ、英文の音声に加えて見出し語の音声も収録されている。
既に指摘したが、本書は単語を覚えるための教材ではない。したがって、見出し語の音声は必要ない(あまり有益ではない)。必要のない本書にはあり、必要とされる「Basic2400」と「Daily1500」にはないのは非常に残念だ。
読み上げるスピードは「fast speed(150〜160wpm)」で、英米圏のニュース放送でアナウンサーが普通に読み上げる際の平均的スピードとのこと。
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