TOEICは、日本の使えない学校英語同様、歪(いびつ)な英語力を持つ日本人を大量生産している元凶です。TOEIC高得点でも話せないのに、英語力が高いと勘違いしている日本人がいかに多いことか(嘆)。
TOEIC高得点でも話せない理由と対策の鍵は「インテイク」にあります。
日本人にグローバルに通用する英語力をなんとか身につけていただきたい!という強い願いを込めて、このコラムを書きました。少しでも参考になれば嬉しいです。
目次
1. 英語が話せない日本人を大量生産しているTOEIC
日本人は英語を話すことが苦手です。その巨悪の根源は、日本の学校での英語教育とTOEICです。
日本の学校の英語教育では、文明開花から続く「文法訳読方式」という、古代の文字を「解読」する方法で英語を教えています。書かれていることを正確に「理解」することだけを重視し、英語を使ってコミュニケーションするということや、音声(発音)すら全く無視してきました。
「理解」することだけの英語教育を受け継いでいるのがTOEIC(L/R)(以下、「TOEIC」といいます。)です。TOEICは、英語を「聞くこと」と「読むこと」の能力を測定するテストです。つまり、英語を「理解」する能力だけを判断します。「話すこと」と「書くこと」は全く無視しています。
一般的な日本人は、大学卒業まで「文法訳読方式」で英語を勉強し、社会に出たら「TOEIC」です。これでは英語が話せないのは当たり前です。日本の学校では「読むこと」だけでしたが、TOEICで「聞くこと」が加わりますので若干進歩しているといえば進歩しているかもしれませんが…。結果、TOEICの点数は高いけれど、英語が話せないという、歪(いびつ)な英語力を持つ日本人が大量発生しているのが現状です。
なお、日本の学校での英語教育についての詳細は「【日本の英語教育】これが絶望的問題点と絶対的改革案だ!」でも書いているのでこちらも読んでみてください。
また、TOEICは意味がない理由については「TOEICは意味ない!話す練習を取り入れて効率的に900点を達成」でも書いているのでこちらも是非!
2. TOEIC990点でも英語が話せない|第二言語習得研究が指摘する理由
言語を「理解する」能力と「使える」能力は全くの別物です。文法訳読方式とTOEICの勉強で英語を「理解する」能力が向上したとしても、英語を「使える」能力は向上しません。英語を使えるようにするには、そのための学習・トレーニングが必要なのです。(当たり前のことですが…。)
「認識語彙」と「運用語彙」の違い
単語では「認識語彙」と「運用語彙」という区別があります。読んだり聞いたりして理解できる(認識できる)単語のことを「認識語彙」といいます。一方で、自分で自由に使える(運用できる)単語のことを「運用語彙」といいます。
TOEICの点数と上げることに特化した勉強をしていると、「認識語彙」は増えますが「運用語彙」は増えません。つまり、理解できても使えない単語ばかりになってしまうということです。
例えば、私たち日本人は ”suggest” という英単語を中学のときに学習します。中学のときにある程度真面目に勉強していた人であれば誰でも「提案する」という意味は知っているでしょう。あなたが、この “suggest” の意味を理解できれば、この単語はあなたにとって「認識語彙」です。
では、あなたにとって “suggest” は「運用語彙」でしょうか?つまり、”suggest” という単語を自由にかつ正確に使えるでしょうか?試してみましょう。下記の日本語を “suggest” という単語を使って英文にしてみてください。
「私は彼にこの本を読むことを提案する。」
いかがでしょうか?もし、あなたが下記の英文を作ったとしたら、あなたにとって “suggest” は「運用語彙」になっていません。なぜなら、下記の英文の “suggest” の使い方は間違っているからです。
✖️ I suggest him to read this book.
“suggest” は “to不定詞” を取りません。下記のように、”suggest” のあとは「節」か「動名詞」が続きます。なお、①のカッコ内の単語は省略できます。
① I suggest (that) he (should) read this book.
② I suggest reading this book to him.
TOEICで満点を取得した人でも、多くの人が “suggest” という中学で教わる超基本単語ですら正確に使えません。これが日本人の英語力の現状であり特異性です。
TOEICの勉強だけをしていると、”suggest” は「提案する」という意味だけて学習が止まってしまいます。意味を知っているだけで ”suggest” は理解していると勘違いしているのです。そうすると、使えるようにする知識まで到達できません。上記のように “suggest” を正確に使えるようになるには深い知識が必要なのです。
グローバルでは、“suggest” を正確に使えないのであれば中級以下の英語力とみなされます。日本人はTOEICで高得点と取って英語ができると勘違いし満足している人が非常に多いのです。グローバルでも認められる真に高い英語力を獲得するには、TOEIC頻出でも通常の生活では1年に1回も出会わないような難しい単語を理解できるようにするより、中学で習う単語を正確に使えるようにする方が圧倒的に重要なのです!
なお、英単語の覚え方の詳細は「英単語の覚え方|科学的勉強法で暗記を効率化!自動化トレ8選」でも書いているのでこちらも読んでみてください。
「自動化」する脳内のプロセスの違い
英語を流暢に使えるようにするには、英語を「インプット」するときと「アウトプット」するときの「脳内のプロセス」を「自動化」しなければなりません。
「インプット」とは、英語を「読む・聞く」ことです。「アウトプット」とは、英語を「話す・書く」ことです。「インプット」するときと、「アウトプット」するときとでは、頭の使い方(脳内のプロセス)が全く異なります。それぞれの頭の使い方を無意識的(自動的)にできるようにしないと英語を流暢に使えるようにはならないということです。
言語を「聞く」ときと「話す」ときの「脳内のプロセス」は以下の通りです。当たり前ですが、「聞く」ときと「話す」ときとでは全く異なることがわかります。
聞く(リスニング) | ① 単語の発音を聞き取って、その意味を理解する ② 聞いた文の構文や文法構造を解析し理解する |
話す(スピーキング) | ③ 適切な単語を選ぶ ④ 構文・文法に沿って組み立てる ⑤ 適切な発音・イントネーションを選び発話する |
TOEIC満点でも話せないという人は、「聞く」ときの「脳内のプロセス」はある程度「自動化」できているのですが、「話す」ときの「自動化」はできていないということです。TOEICの勉強だけをしていると、③〜⑤のスキルアップは全く無視しているので当然の結果と言えます。
なお、これらの脳内のプロセスを自動化するためトレーニング方法については「【英会話勉強法完全マニュアル】初心者が独学でビジネスレベル」で詳しく説明しているのでこちらも読んでみてください。
「理解できる」を「使える」にする「インテイク」
第二言語習得研究では、第二言語(≒外国語)は、インプットされたものを知識として定着させ、最終的にアウトプットにつなげていくプロセスを経て習得されると考えられています。そしてそのプロセスを「認知プロセス」と呼んでいます。
その「認知プロセス」を単純化したものが下記の図になります。
非常に簡単に説明すると、聞いたり読んだりした英語を「インテイク」することにより、話したり書いたりできるようになるということです。となると、この「インテイク」が非常に重要ということになります。
「インテイク」(intake)とは、句動詞 ”take in”(取り入れる)の名詞形で、「取り入れること」というニュアンスです。第二言語習得研究では、「理解を深め内部に取り入れること」というニュアンスで使われており、日本語では「内在化」と訳されています。
注意していただきたいのは、「インテイク」は単なる「理解すること」ではないということです。「深く理解し体の内部に取り入れ完全に自分のものにする」(内在化)というニュアンスです。そして、その「内在化」した知識は、無意識的に、かつ瞬間的に自由に使えるようにしなければなりません(第二言語習得研究では、このことを「統合」と呼んでいますが、ここでは便宜上「内在化」に含めます)。
TOEICの勉強だけをしていると、ただ単に「理解」はできる状態にはなりますが、この「インテイク」には至らないのでアウトプットにつながっていかないのです。
なお、第二言語習得研究の認知プロセスについては、「第二言語習得研究|徹底検証!日本の英語学習の問題点と解決策」で詳しく説明しているのでこちらも読んでみてください。
3. 流暢に話せるTOEIC990点を目指す|第二言語習得研究からの対策
上記で説明したように、第二言語習得研究でいう「インテイク」とは、単なる「理解できる」状態ではありません。その知識を「使える」状態まで持っていくことです。
ではどうすれば「理解できる」知識を「使える」知識にできるのでしょうか。それは、自分で考えることです。「自分で考え、間違い、再度考え、ついに正確に使えるようになっていく」という試行錯誤のプロセスを繰り返すことが「インテイク」につながっていきます。
例えば、ビジネスでマーケティングの本を読んで知識を得たとしても、その知識はまだ「知っている」だけの知識で「使える」知識になっていません。そのマーケティングについての「知っている」知識を使える知識にするには、その知識を自分の仕事で使うためにはどうすればよいのかをとことん考え、そして試してみるが失敗する、そしてまた考えてまた試してみる。そしてとうとう成功する。このようなプロセスを経て、ようやく、本で学んだマーケティングの知識が自分の知識になり、使える知識になったと言えるのです。英語の学習も全く同じす。知っている知識を使える知識にするには、自分で汗をかいて考えるしかありません。
上記の “suggest” の例で「インテイク」のプロセスを説明してみましょう。
“suggest” を使って “I suggest him to read this book.” という文を作ってみたが、これでいいのか不安なので辞書で調べてみたら、”suggest” は 「to不定詞」は取らないとあった。普通は「節」が続くとあったので、辞書の例文を見ながら、さっきの英文を直して “I suggest that he should read this book.” という文を作ってみた。辞書を読み続けてみると、”suggest” は「動名詞」も使えるとあったので、これも辞書の例文を見ながらさっきの文を作り直して “I suggest reading this book to him.” という文を作ってみた。しばらくしたら、仕事で “suggest” を使う機会があったので、以前学習したことを踏まえて “suggest” を実際に使ってみた。
このような思考錯誤を通して、ようやく “suggest” が使える単語(運用語彙)になるのです。
では、上記のような試行錯誤のプロセスを踏むことが面倒なので、「私は彼にこの本を読むことを提案する。」という日本語をグーグル翻訳で調べて答えを見つけたらどうなるでしょうか。”I suggest that he should read this book.” という答えはすぐにわかるでしょう。しかし、それで “suggest” の正確な使い方が頭に残るでしょうか?グーグル翻訳で調べたときは「へー」と思って勉強した気にはなるでしょう。しかし、まず間違いなく、一晩寝たら全て忘れているはずです。
自分自身で思考錯誤する場合と何が違うかというと、グーグル翻訳で調べる方は、「自分で考える」ということをやっていません。つまり「インテイク」になっていないということです。人は、本や機械から簡単に得られた答えは、頭に定着しません。したとしても、せいぜい知っている知識にしかなりません。「インテイク」にはならないので使える知識にはならないのです。一方で、自分で考えたことは頭に定着しやすくなり、かつ、「インテイク」となり、使える知識にすることができるのです。
ネットで調べれば、すぐに「答え」は見つかる時代です。そうすると人は「考える」ことをしなくなっていくでしょう。人が考えなくなったらどうなっていくのでしょうか?英語を話せる人は今よりももっと少なくなるでしょう。一方で、多くの人が考えなくなっていくと、考えられる人の価値はどんどん上がっていくでしょう。知識が豊富なだけの人の価値はどんどん下がります。そんな知識はネットですぐに見つかるのですから。
なお、「インテイク」と促進し、英語のスピーキング力を向上させるためのトレーニング方法については「英語スピーキング|話せない方必読!科学的練習法と5つの注意点」で詳しく説明しているのでこちらも読んでみてください。
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そろそろ本気で英語を習得したいとお考えの方におすすめです。また、「英会話スクールに通っているけど思うように上達しない…」「TOEICで高得点を取ったけど話せない…」などでお悩みの皆さまも是非ご一読ください。