初心者のTOEIC(Listening & Reading)は単語帳選びが最も重要だ。そして次に重要なのが勉強法。つまり覚え方だ。また、TOEIC高得点者には、話せないので仕事で使えないという人が多い。そうならないための注意点も紹介する。
このコラムで紹介する英単語の覚え方は、第二言語習得研究と脳科学研究の知見をベースとしており、最も効率的な方法だと自負している。初心者の方にもすぐに実践できるように分かりやすく説明しよう。
なお、このコラムでは「TOEIC Listening & Reading」を「TOEIC」という。
目次
1. 【最重要】TOEIC初心者の方に必ずご理解頂きたいこと
TOEICは、4技能を同時に鍛えた方が点数が上がりやすい。4技能とは、「聞く・読む・話す・書く」の4つの言語能力ことだ。人間の脳は、インプット(聞く・読む)を繰り返すより、アウトプット(話す・書く)した方が記憶に定着しやすいという科学的根拠がある。
また、「TOEICで高得点を獲得しても話せないから仕事で全く使えない」という問題が、多くの企業の人事・研修担当者を悩ませてきた。なぜか?それはTOEICが「聞く・読む」能力しか測れないからだ。「話す・書く」能力は測れない。
どうしてもTOEICの点数を上げなければならない方も多いだろう。しかし、その様な方に必ずご理解して頂きたいことは、TOEICの点数だけに「固執」した英語学習は、「非効率」かつ「話せなくなる」ということだ。
TOEICは客観的な英語力を測るには良くできたテストだ。しかし、あくまで一つの指標に過ぎない。TOEICの点数を一つの「目標」にすることは全く構わない。モーティベーションの維持にも役立つからだ。しかし、あまりにそれに「固執」し過ぎると、上記の2つの弊害が出てくるということを覚えておいて頂きたい。
2. 【重要】TOEICの英単語学習でご注意頂きたい3つのこと
TOEICに限らず、英単語の学習を始める前に十分に考えて頂きたいことが3つある。英語学習を効率的に進めるために非常に重要なことだ。
「どの単語を覚えるのか?」:英単語は無数にある。覚える単語の選別は、英語学習そのものの効率性に大きく影響を与える。当たり前のことだが、その点を十分に意識せずに単語帳を選んでいる方が多い。
「どれくらいの数を覚えるのか?」:自分の目標を達成するための英単語の数を知ることで、無限に続くと思われがちな単語学習にゴールを設定できれば、モーティベーションを維持しやすくなる。ただ漫然と、目標もなく単語を覚えている方が多い。
「どのように覚えるのか?」:学習の方法によって英単語の脳の定着率が変わる。どうやったら記憶しやすいのか?そして、どうやったら理解するだけではなく、自分でも使えるようになるのか?そのようなことを考えずに、ただ暗記しようとしている方が多すぎる。
それでは一つ一つ詳細をご説明しよう。
3. TOEIC単語の覚え方|① どの単語を覚えるのか?
「どの単語を覚えるのか?」という疑問に対する答えは簡単だ。使用頻度が最も高い単語から覚えればよい。「ビッグデータ」の時代、そのようなデータは比較的簡単に手に入る。
3.1. TOEICの頻出語を覚えることより重要なこと
TOEIC対策のために、TOEICに頻出する単語を覚えることは、一見理にかなっているように思える。しかし、特に初心者の皆さまには気をつけて頂きたいことは、その前に最重要語を覚えることが重要だということ。
最重要語の2,000〜3,000語程度の単語の使用頻度は、TOEICや英検などの試験や、日常・ビジネス英会話などの全ての状況で共通する。更に、その2,000〜3,000語程度の単語で、あらゆる状況で使用される英語の80〜90%以上をカバーできる。まずはそれらを漏れなく習得することに注力して頂きたい。
最初に覚えるべき2,000〜3,000語は、信頼できるデータを基に一番頻度の高いものを覚えて頂きたい。最も有名なデータベースが「British National Corpus」(ブリティッシュ・ナショナル・コーパス/BNC)だ。「Corpus」(コーパス)とは、言語のデータベースのこと。「BCN」は、イギリス英語の話しことばと書きことばの両方をカバーした約1億語データベースである。
この約1億語の単語を頻度順に並べた場合の、最初の2,000〜3,000語を覚えれば一番効率的ということになる。
3.2. TOEICの頻出語も加味しながら語彙増強
最重要語の2,000〜3,000語程度をある程度覚えたら、TOEICに頻出する単語も意識しながら、更に語彙増強していって頂きたい。
TOEICに頻出する単語でも、一般的にはあまり使用されてない単語も存在する。そのような単語は覚える必要はないという意見もあるが、早急にTOEICで点数を出さなければならない方はカバーしておいた方がよいだろう。
おすすめは、BNCのような信頼できるデータベースを基とした語彙リストや単語帳に沿って一般的によく使用される単語を順番に覚えていきつつ、そこには含まれないTOEIC頻出語を覚えていくことだ。
3.3. TOEICを視野に入れた初心者向けおすすめ単語帳
TOEICで点数を出さなければならない初心者向けの、おすすめ単語帳を紹介する。信頼できるデータベースを基に、自分で重要な単語を選びつつ覚えていくことは現実的には不可能である。したがって、ここでは、単語の選別・掲載基準がしっかりしているという観点から、4つの単語帳を紹介する。
「DataBase 1700 使える英単語・熟語 3rd Edition」
中学1年で習う最初の1,000語から丁寧におさらいした方におすすめの単語帳。高校生向けに作られた単語帳だが、最重要語は誰にとっても最重要語だ。単語の掲載基準については心配しなくてよい。最重要動詞の句動詞の基礎も丁寧に説明してある。付属のCDには、英単語・日本語訳・フレーズや例文が収録されているので耳で学習するにもよい。
「DataBase3000 基本英単語・熟語 5th Edition」
中学の単語からおさらいしたいが、超初級のところは省きたい方におすすめの単語帳。上記の「DetaBase1700」のひとつ上のレベルの単語帳だが、重複している単語も多い。「1700」をサッと終わらせてから、この「3000」で復習しながら更に上を目指すという使い方もできる。「1700」同様、単語の掲載基準については心配する必要はない。耳から覚えるにはよい単語帳。
なお、「データベース」シリーズの詳細については「データベース|1700 3000 4500 5500の内容・使い方・効果を検証」を参考にして頂きたい。
「DUO select」
上記の「DataBase3000」はほぼクリアしたが、「DUO 3.0」は難しいと感じる方向けの単語帳。下で紹介する「DUO 3.0」同様、掲載基準が比較的しっかりしているので安心できる。例文で覚える形式なので、CD(別売)の音声も活用すれば効率よく学習できる。「DUO 3.0」から重要語を「セレクト」したものを掲載しているので、「select」をサッと終わらせてから「DUO」で復習するという使い方もいいだろう。ただし、価格が高いことが欠点。
なお、「DUO select」の詳細については「DUO select|英単語教材としての内容・やり方・効果を徹底検証」を参考にして頂きたい。
「DUO 3.0」
「DUO select」を終了した方、もしくは「DataBase3000」レベルの単語はほぼクリアした方で、英語学習へのモーティベーションが高い方向けの単語帳。上記の「select」同様、掲載基準が比較的しっかりしている。掲載単語数でみると他の単語帳を圧倒している。別売のCDを含めると、価格の高さでも他を圧倒しているところは残念。この単語帳を終了すれば、日本語の訳語を覚える単語学習は卒業と考えていい。
なお、「DUO 3.0」の詳細については「DUO 3.0|英単語教材としての内容・やり方・効果を徹底検証」を参考にして頂きたい。
4. TOEIC単語の覚え方|② どれくらいの数を覚えるのか?
結論から言うと、初心者の方は最重要語3,000語を第一目標として、徐々に4,000語を目指すことをおすすめする。様々な客観的データを総合した結論だ。
4.1. TOEICに必要な単語数はそれほど多くない!
*『How Many Words Do You Need to Know to Understand TOEIC, TOEFL & EIKEN? An Examination of Text Coverage and High Frequency Vocabulary』(中条清美)、『JACET8000英単語』(桐原書店)、及びチャールズ・ブラウン氏のウェブサイトのデータを基にThe English Clubが作成
TOEICに出てくる単語は、3,000語で90%以上、4,000語で95%以上をカバーすることができる。これは下記の3つのデータからの結論だ。
- 日本大学生産工学部中条教授の論文(『How Many Words Do You Need to Know to Understand TOEIC, TOEFL & EIKEN? An Examination of Text Coverage and High Frequency Vocabulary』)
- 大学英語教育学会が作成した語彙表(『JACET8000』)
- 明治学院大学チャールズ・ブラウン教授のグループが作成した語彙リスト(NGSLとTSL)
一方で、日本大学生産工学部の中条教授によると、英語の意味を適切に理解する(「meaningful input」)には、95%以上の単語を知っている必要があるとしている。また、英語学習者向けに多読用の本を出版している Pearsonによると、3,000語でTOEICで701点以上取れるとしている。
TOEICで高得点(701点以上)を取るためには、3,000〜4,000語で十分であることが納得できると思う。学習指導要領によると、日本では中学で約1,100語、高校では約2,000語の英単語を習う。これらは最低の数字だ。大学受験を経験された方であれば倍以上の数を覚えた方も多いはずだ。そう考えると3,000〜4,000語というのは決して多くはない。
ちなみに、上記の単語数は全て「レマ単位」で数えている。「レマ単位」とは、文法ルールに則って変化する語はまとめて一つの単語として数えるが、派生語は別の単語として数える方法である。
4.2. TOEICの単語は「数」より「質」が重要!
TOEICに限らず、効率的に英単語を覚えるには、単語の「数」を追うよりも、どの単語を覚えるのかという「質」の方が重要だ。
*『JACET8000英単語』(桐原書店)のデータを基にThe English Clubが作成
上表は、「JACET8000」語彙表の、単語数別のTOEICカバー率を示したものである。これを見ると、重要語3,000語で92.3%をカバーしているが、3,001語目から8,000語までの5,000語では、たったの6.2%しかカバーしていないことがわかる。
皆さまには、間違っても10,000語目の単語を一生懸命に覚えるということは絶対に避けて頂きたい。時間と労力が全くの無駄になる可能性が非常に高い。
なお、TOEICで高得点を取るために必要な単語数に関する詳細は「TOEICの単語数|初心者が知るべき新事実!4000語で95%超カバー」を参考にして頂きたい。
4.3. TOEICの単語は「数」よりも「深さ」が重要!
英単語の最重要語2,000〜3,000語には頻繁に出会うことになる。しかし、いつも同じ意味と同じ使われ方で出てくるとは限らない。最重要語は、その意味を深く学習する必要がある。
例えば、「get」は「得る」と覚えている方も多いと思う。しかし文脈によって、「取る」「受ける」「なる」「買う」など色々な意味に変化する。加えて「get up」「get out」「get away from」など、副詞や前置詞とくっついて「句動詞」になると更に色々な意味を表すことができる。
特にTOEICに出てくる話しことばは、「get」「take」「make」などの最重要動詞を使った「句動詞」が頻繁に出てくるので、これらも必ず習得しておかなければならない。これらの句動詞は、他の単語1語で言い換えられる場合が多い。例えば、「put up with」と「endure」は両方とも「我慢する」という意味だが、後者のような難しい単語よりも、前者のような簡単な単語をつなげた「句動詞」の方が好まれるのだ。
つまり、「数」を追って難しい単語を覚えるよりも、最重要語を「深く」学習する方がより重要なのだ。
5. TOEIC単語の覚え方|③ どのように覚えるのか?
単語の覚え方については、その詳細を「英単語の覚え方|科学的勉強法で暗記を効率化!自動化トレ8選」で細かく紹介しているのでそちらを参考にして頂きたい。ここでは概略のみを紹介する。
単語を効率的に覚えるには、「自動化トレーンング」という方法をおすすめする。自動化トレーニングは上図のように全部で22種類あるが、その中で単語学習に適した下記の7つ紹介しよう。
上図の7つのトレーニングは、それぞれ単独でやっても効果はある。しかし下図のように流れに沿って行うとより効果的だ。
それぞれの詳しいやり方については「英単語の覚え方|科学的勉強法で暗記を効率化!自動化トレ8選」を参考にして頂きたい。
6. TOEIC単語の覚え方|「TOEIC高得点でも話せない」を避けるには?
最重要語2,000〜3,000語は「理解できる」だけではなく、「使える」ようにすることを前提に学習していって頂きたい。そうすれば、TOEIC高得点でも話せない人にならなくて済む可能性が高くなる。
上記で紹介した「自動化トレーニング」を実践して頂ければ、単語は「理解できる」だけではなく、「使える」ようにできる。使えるようにするための注意点をまとめると以下の通りだ。
6.1. 単語のアクセントの位置も同時に覚えること
単語を覚えるときは、その意味に加えてアクセントの位置も同時に覚えることが必須だ。そのためには、単語は、聞きながら、そして発音しながら学習することが基本となる。
英単語は、そのアクセントの位置を間違って発音すると理解してもらえないことが多い。また、英語はリズムが重要だということを聞いたことがあるだろう。ネイティブにも理解しやすいリズムで英語を話すには、単語のアクセントの位置はその土台の知識となるのだ。
なお、アクセントについての詳細は、「英語のアクセント|基礎と応用8つのルールで英単語の発音矯正!」を参考にして頂きたい。
6.2. よく使用する表現と一緒に覚えること
単語は、その意味や発音を単独で覚えても使えるようにはならない。どのような前置詞(「at」や「to」など)が付くのか?どのような場面でどのようなニュアンスで使われるのか?など、使えるようになるためには、それぞれの単語の「使い方」を知る必要があるのだ。
そのような単語の使い方を知るには例文で覚えることが一番よい。その例文が、自分でもよく使いそうなものであればより効率的だ。
6.3. 単語と例文を聞きながら覚えること。
単語のアクセントの位置を覚えるためには、聞きながら覚えることが重要なことは既に指摘した。加えて、例文も聞きながら覚えれば、ネイティブに通じやすいリズムやイントネーション、音声変化(リエゾン)も習得できる。
なお、リズムやイントネーション、音声変化(リエゾン)についは、まずは「英語の発音|初心者向け科学的見地からの6つのコツと練習方法!」を参考にして頂きたい。
6.4. 単語と例文を発音しながら覚えること。
発音しながら単語やその例文を覚えることには3つのメリットがある。1つ目は発音矯正。ネイティブに通じやすい発音を身に付けることができる。2つ目はリスニング力アップ。自分で発音できない音は聞き取れない。英語独特の発音を身につけることができればリスニング力も向上する。3つ目は記憶に定着率の向上。自分で発音することは、同時に聞くことになる。人間は目の記憶より耳の記憶の方がよい。
6.5. 単語と例文を自分で積極的に使ってみること
覚えた単語やその例文を自分で積極的に使ってみることは非常に重要だ。単語は実際に使ってみないと使えるようにはならない。単語を聞いたり読んだりして、その意味を理解する脳回路と、自分の言いたいことを言うために、記憶の中から単語を探して使う脳回路は全く別物だからだ。
更に、脳科学(神経科学)研究からは、インプット(読む・聞く)を繰り返すより、インプットしたことをアウトプット(話す・書く)した方が記憶に定着しやすいと指摘されている。
7. TOEIC単語の覚え方|まとめ
- TOEICは英語力を測る一つの指標に過ぎない。TOEICの点数に「固執」し過ぎた英語学習は「非効率」かつ「話せなくなる」。
- TOEICに限らず、英単語学習を始める前に十分に考えるべきことは、「どの単語を覚えるのか?」「どれくらいの数を覚えるのか?」「どのように覚えるのか?」の3つだ。
- どの単語を覚えるのか?使用頻度が最も高い単語から覚える。まずは最重要語2,000〜3,000語を覚え、次にTOEIC頻出語を意識しながら更に語彙を増強していく。
- どれくらいの数を覚えるのか?最重要語3,000語第一目標として、徐々に4,000語を目指す。TOEICの単語は「数」より「質」と「深さ」が重要。
- どのように覚えるのか?単語を効率的に覚えるには、「自動化トレーンング」をおすすめする。単語学習に適した7つのトレーニングを順番に繰り返し行う。
- 「TOEIC高得点でも話せない人」にならないためには、単語は「理解できる」だけではなく、「使える」ようにする必要がある。そのための5つコツを実践しよう。
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