これから英語を勉強しようとしている社会人の初心者の皆さまへ。何から始めてよいのか悩んでいないだろうか?悩んでいるとしたら、皆さまのこれからの英語学習はきっとうまくいく。なぜなら、非常によいところにお気付きだからだ。
英語の習得は、勉強の順番によって効率性が変わってくる。順番を間違えると「TOEICの点数は上がったけれど、話せない…」や、「英会話スクールにずっと通っているけど全然上達しない…」ということになりかねない。
このコラムでは、特に英語学習の初心者の社会人の皆さま向けに、英語を効率的に習得するための英語の勉強の順番について詳しくご説明する。
目次
1. 英語の勉強はインプットからアウトプットへ!
インプット(Input)とは「読む」ことと「聞く」こと。アウトプット(Output)とは「話す」ことと「書く」ことだ。これら「読む」「聞く」「話す」「書く」の4つを、言語の「4技能」と呼ぶ。英語を習得するには、この4つの「技能」を身につける必要がある。
では、これから英語の学習を始める場合はどのような順番で勉強すればよいのだろうか。
1.1. 空っぽの箱からは何も出せないよ!
手品師ではない限り、空っぽの箱の中からは何も出せない。英語の習得も同じこと。まずはあなたの脳に英語を入れないと、英語を出すことはできない。つまり、まずは読んだり、聞いたり(インプット)することで、頭の中の英語の量を増やすこと。そうすれば、話したり、書いたり(アウトプット)できる量も増えてくる。
米ピッツバーグ大学言語学教授の白井氏は「学習開始時には100%インプットでかまわない」と指摘しているくらいだ。
1.2. いきなり英会話スクールは絶対にダメ!
仕事で英語が必要になったから、いきなり英会話スクールやオンライン英会話を始めたという人も多いと思う。しかし、それは間違いだ。英会話スクールやオンライ英会話は、主に英語を話す(アウトプット)練習をする場所だ。英語が頭に入っていない状況で話す練習をしても全くの無駄になってしまう。
無駄どころか、英語を習得する上で大きな障害にもなり得ることが第二言語習得研究から指摘されている。「化石化」という現象だ。
「化石化」とは、例えば、単語・文法の基本的な知識がないうちに、英会話スクールで講師にうながされて話すと、単語も文法もめちゃくちゃな「変」な英語を作ってしまう。その後で講師に修正されても、自分で苦労して創出した「変」な英語が強烈な印象を持って頭に刻み込まれ(化石化し)、何度も同じ間違いをしてしまうという現象だ。
ちなみに第二言語習得研究とは、第二言語(≒外国語)を習得するメカニズムやプロセスの研究、もしくはその研究分野のことだ。
1.3. TOEIC800点でも話せない人は多い?!
まずはインプットが重要であることがご理解できたと思うが、一方でインプットだけでは英語は習得できないことも事実だ。
会社からTOEICの点数を上げるようにいわれている方も多いと思う。しかしTOEIC(LR)は、聞くことと読むことの能力しか判定することができない。つまりインプットの能力しか判定できない。そのTOEICに特化して聞くことと読むことだけの勉強をしていると、TOEICの点数は高くなったけれど話せないから仕事で全く使えないということになってしまうのだ。実際そのような方は非常に多い。
The English Clubではそのような方を「TOEIC難民」と呼んでいるが、皆さまにはそのようになって頂きたくない。「TOEIC難民」にならないためには、インプットがある程度進んだら徐々に「話す」ことと「書く」ことの練習も取り入れていくことだ。
白井教授は「成功の秘訣は、大量のインプットと少量のアウトプット」と表現している。
2. 英語の勉強やることリスト|単語・文法・発音・流暢さ・社会言語要素
それでは、英語を効率的に習得するには具体的に何をどのような順番で勉強すればよいのかをご説明しよう。
英語を習得するためには5つのことをカバーする必要がある。「単語(Vocabulary)」「文法(Grammar)」「発音(Pronunciation)」「流暢さ(Fluency)」「社会言語要素(Sociolinguistics)」の5つだ。
下の図は、外国語教育の専門家であるセオドーレ・ヒッグス(Theodore Higgs)による有名な「ヒッグス・グラフ」だ。上記の5つの学習項目の学習レベル別重要度を表している。
ヒッグス・グラフを見ると、学習の初期の頃(図の左側)は「単語」「文法」「発音」が重要であり、その中でも「単語」が圧倒的に重要なことがわかる。まずは単語を覚えなければ何も始まらないということだ。「流暢さ」と「社会言語要素」については、最初の頃は無視していいことがわかる。
これら5つの学習項目について、それぞれの詳細と学習の順番についてご説明しよう。
3. 英語の勉強の順番|英単語を覚えないと何も始まらない!
ヒッグス・グラフは、学習初期の段階では、総学習時間の最低でも45%を単語学習に費やすことを推奨している。まずは単語を覚えよう。効率的に単語を習得する順番をご紹介する。
3.1. 英単語勉強の順番1:超重要語1,000語をあなどらないこと!
中学で習う英単語の数は約1,100語だ。これらの単語は決してあなどってはいけない。なぜなら、これらの超重要単語はこれから最も多く出会う単語たちだからだ。また、超重要単語はいろいろな意味を持つ場合が多い。一つの日本語の訳語を覚えていても全く役に立たないことが多いのだ。
例えば、「take」は「取る」と覚えている人も多いと思うが、文脈などにより「連れていく」「食べる」「買う」などの色々な意味に変化する。そして、「take off」「take on」「take over」など、他の単語とくっつくことにより更に様々な意味に派生するのだ。
この「take」のような超重要語は「深く」学習しなければならない。最初は「取る」という訳語だけ覚えておき、「取る」で意味が通らない場合は、まずはその意味を想像してから、辞書で調べるようにするとよいだろう。
おすすめ単語集は「DataBase1700 使える英単語・熟語3rd Edition」[桐原書店]だ。中学1年〜高校1年までに習う絶対に必要な超重要語ばかりを掲載している。CDも付属しており、¥850+税と価格もお手頃だ。
3.2. 英単語勉強の順番2:最重要語3,000語を第一段階の目標としよう!
日常会話やTOEICは最重要語3,000語で約90%をカバーできる。この3,000語を第一段階の目標にしてほしい。この最重要語3,000語は、理解できるだけではなく、自分でも使えるようにする必要がある単語だ。これらを自分で使えるようになれれば自分の言いたいことは自由に表現できるようになる。
この段階になったら例文で単語を覚えるようにしてほしい。その方が脳に定着することが脳科学(神経科学)研究から解明されているからだ。
おすすめ単語集は「DUO select」[アイシーピー]だ。姉妹版の「DUO 3.0」から必須単語を厳選した単語集だ。例文で覚えられる形式になっている。CDは別売りで総額¥3,940+税とちょっと高めなのがつらい。
「DUO select」の内容や使い方についての詳細は、「DUO select|英単語教材としての内容・やり方・効果を徹底検証」を参考にして欲しい。
3.3. 英単語勉強の順番3:仕上げは英英辞典で!
ここまできたら基礎は完成だ。単語力だけみると、この時点でTOEIC730点程度を取ることも可能である。あとは今まで学習した単語を使えるようにしていくことと、徐々に理解できる単語を増やしていくことだ。
今まで学習した単語を使えるようにするには自分で実際に使ってみることだ。つまりアウトプットだ。英語で日記を書くなど、徐々に「書く」「話す」機会を増やしていこう。
更に単語数を増やすには英英辞典を利用することをおすすめする。英英辞典を活用すれば単語力は飛躍的にアップする。代表的な「ロングマン」や「オッスクフォード」は最重要3,000語以内で書かれているので、今のあなたの単語力で十分使いこなすことができるはずだ。
英英辞典を使うのはちょっと気がひけるという方は上記でご紹介した「DUO 3.0」に挑戦することをおすすめする。
なお、英単語の覚え方についての詳細は「英単語の覚え方|みんな実践中!8つの基本トレーニングと25のコツ」も参考にしてほしい。覚えるべき単語数については「英語の単語数は2000語で80%!数より質で効率的に単語力アップ」が参考になるはずだ。
4. 英語の勉強の順番|大人はやっぱり英文法の勉強が必要!
ヒッグス・グラフは、学習初期の段階では総学習時間の最低でも20%を文法学習に費やすことを推奨している。大人が効率的に英語を習得するには文法の学習が必須なのだ。第二言語習得研究では常識だ。効率的な文法勉強の順番をご紹介する。
4.1. 英文法勉強の順番1:中学英文法で自分の言いたいことは自由に言える!
文法は決して難しくない。難しい文法は無視して構わないといった方がよいかもしれない。断言する。英語でコミュニケーションできるようになるためには、大学受験の英語の試験に出てくるような難しい文法は必要ない。
まずは中学で習う基本を理解することから始めよう。おすすめは「中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく。」[学研]だ。CDも付属している。説明もわかりやすく練習問題も多く掲載されているので、効率的に理解し定着させることができるだろう。
自分の言いたいことを自由に表現するにはこの一冊で十分だ。ただし、理解するだけではなく、自分でも無意識的に使えるように必要がある。詳しくは「英文法勉強法|科学的トレーニング法8選と8つの基本的な注意点」を参考にしてほしい。
4.2. 英文法勉強の順番2:よく使われる文法に集中すること!
中学英文法をクリアしたら、その他の重要な文法を学習しよう。その他の重要な文法というのは実際によく使用される文法のことだ。よく使われる定型表現とともに学習すればより効率的だ。
おすすめは「Essential Grammar in Use」[Cambridge University Press]だ。この文法書は、一般的によく会話で使われる文法のみを取り上げているので非常に効率よく必要な文法を学習できる。また、よく使用される定型表現も同時に覚えられる。全て英語で書かれているので取っ付きにくいと感じられるかもしれないが、英語のインプットを多くするという目的で是非トライして欲しい文法書だ。残念ながら音源はない。
4.3. 英文法勉強の順番3:シミュレーションでアウトプット練習
ここまできたら英文法の基礎は完成した。単語同様徐々にアウトプットを増やしていき、自分でも無意識的に使えるようにしていこう。
文法知識を使えるようにするためのアウトプット練習のおすすめは「シミュレーション」だ。英語を使用する状況を想定し、英語でどのように言うかを頭の中で考え文章を組み立てる練習だ。頭の中だけで文章を作ることが難しければ書き出してみてもよい。
そして、余裕があればより複雑な重要文法も理解できるようにしていこう。自分の言いたいことを表現するには中学文法で十分だと述べたが、ネイティブ・スピーカーは中学文法だけでは話してくれない。ある程度複雑な文法も(使えるようにする必要はないが)理解できるようにしていく必要があるのだ。
上記の「Essential Grammar in Use」でカバーしきれていないものに出くわした場合は、随時文法書で確認する程度でよいだろう。また文法知識だけでいうと、この時点でTOEIC730点程度を取ることは十分可能であるが、より高得点を目指すのであればTOEIC対策も必要だ。TOEIC文法対策問題集を一冊仕上げることをお勧めする。
5. 英語の勉強の順番|英語は発音をマスターすればリスニング力も向上!
ヒッグス・グラフは、学習初期の段階では総学習時間の最低でも20%を発音学習に費やすことを推奨している。日本の学校教育では英語の発音は全く無視されてきたが、実は単語や文法と同様に非常に重要なのだ。日本の使えない学校英語の根本的な問題は、この発音を無視してきたことだと指摘する言語学者は多い。
5.1. 英語発音勉強の順番1: 母音と子音の発音記号を意識しよう!
発音記号を覚えることは必須ではない。しかし、発音記号を覚えることはその後の英語学習を圧倒的に効率化してくれる。従ってThe English Clubでは、発音記号を最低でも「意識する」ことをおすすめしている。
なぜ発音記号が重要かというと、英語には日本語にはない発音が多くあるからだ。発音記号を学習すれば日本語にはない英語の発音の仕方が理解でき、リスニング力のアップにもつながる。
単語を覚える際に発音記号(アクセントの位置も含む)とその発音方法を意識して、必ず音声を聞きながら、そして発音しながら覚えることが重要だ。なお、発音記号についての詳細は「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正しよう」も参考にして欲しい。
5.2. 英語発音勉強の順番2: 英語独特の音声変化とリズムも体得しよう!
英語は、ネイティブ・スピーカーが普通のスピードで話すと単語と単語がつながって単語の切れ目がわからなくなり聞き取りづらくなる。これを音声変化(リエゾン)といい、日本人が英語を聞き取れない最大の理由の一つだ。
また、日本語は平坦に言語と言われるが、英語はリズムが大切な言語だ。リズムとは音の強弱のことで、通常、強く発音されるところはゆっくり目、弱く発音されるところは速く発音される。日本人にとっては弱く速く発音されるところが聞き取りづらくなるのだ。
これらの英語の発音についてのおすすめ攻略法は、簡単な英文の音源をそっくりまねる練習だ。おすすめ教材は「英会話 ぜったい音読 入門編」[講談社]だ。CDも付属しているので自分でもそっくり音読できるようになるまで繰り返し練習して欲しい。そうすれば必ずリスニング力もアップする。
「英会話 ぜったい音読 入門編」の内容や使い方の詳細については「英会話ぜったい音読|音読教材としての内容・やり方・効果を徹底検証」を参考にして欲しい。
また、英語の音声変化(リエゾン)についての詳細は「英語のリエゾン|ジョブズから学ぼう!単純ルールと簡単発音練習法」も参考にしてほしい。リズムについては「英語のリズム|意外に重要!4つの法則と効果的な練習で使える英語に」が参考になるはずだ。
6. 英語の勉強の順番|流暢さを向上するためには?
ヒッグス・グラフは、学習初期の段階では「流暢さ」はあまり重要ではないと指摘している。まずは単語・文法・発音の基礎を固めることが重要なのだ。それらの基礎が固まってきたら流暢さを向上するための練習も徐々に始めていこう。流暢さというのはスピーキングだけのことではない。流暢に話された英語を聞き取ることも含まれる。会話の流暢さという意味だ。
単語では「DataBase1700 使える英単語・熟語3rd Edition」、文法では「中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく。」、発音では「英会話 ぜったい音読 入門編」が終了したらこの流暢さ向上の練習を開始してもよいだろう。
流暢さを向上させるためには単語・文法・発音の知識を無意識的・自動的に使えるようにする必要がある。第二言語習得研究では「自動化」と言われている。自動化というのは、英語を英語のまま、英語の語順で理解できるようにすること、そして使えるようにすることだ。つまり英語脳(=英語回路)を作るということなのだ。
The English Clubでは、この英語脳を作るために合計22のトレーニング方法を推奨している。その中で代表的なものが「音読」と「シャドーイング」、そして文法のところでご紹介した「シミュレーション」だ。
音読は声を出して読むこと。シャドーイングは英文を見ないで音源の1〜2後くらい後をぴったりと発音しながらついていくトレーニング法、シミュレーションは頭の中で英文を作るトレーニング方法だ。
社会人の皆さま向けの、これらのトレーニング用のおすすめの教材は「仕事で使えるMyフレーズ 中学英語だけで解決! 60シーン」[Z会]だ。この教材で音読やシャドーイングを繰り返し行っていただければ英語脳の基礎を構築できるだけではなく、ビジネスでよく使われる表現も覚えられる。また、サマライズなどのリハーサル・トレーニングにも使える。
なお、英語脳の作り方の詳細については「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築しよう!」も参考にして欲しい。また、スピーキング力の向上方法についての詳細は「英語スピーキング|話せない方必読!リハーサルの重要性と注意点5つ」が参考になるはずだ。
7. 英語の勉強の順番|社会言語要素ってなに?
社会言語要素については学習初期の頃は無視して構わない。社会言語要素とは言語と文化が密接に関係している要素。例えば、日本企業では上司のことをファーストネームで呼び捨てにすることは許されないが、英語圏の会社では許されるというようなことだ。
このような社会言語要素は英語力が高くなればなるほど要求される知識だ。英語がペラペラなのに常識的なことを知らないと、コミュニケーションが円滑に進まなかったり誤解が発生したりする。
英語力がついてきて外国の方々とコミュニケーションする機会が増えてきたら、アメリカやイギリスに限らず、コミュニケーションをとる人の国の文化も意識するようにするとよいだろう。
8. まとめ
- インプットとは読むこと、聞くこと。アウトプットとは話すこと、書くことだ。これらの4つを言語の「4技能」と呼ぶ。これらの勉強は順番が重要だ。
- 学習開始時には100%インプットでかまわない。いきなり英会話スクールやオンライン英会話はおすすめしない。一方でインプットだけでは言語は習得できないことも事実だ。
- 英語勉強の成功の秘訣は大量のインプットと少量のアウトプット。
- 学習初期の段階では総学習時間の最低でも45%を単語学習に費やすこと。まずは最重要語3,000語を深く、そして自分でも使えるようにすることだ。
- 文法学習には総学習時間の最低でも20%を費やそう。まずは中学文法を自分で使えるようにすること。そして、それ以外のよく使用される重要文法に集中することだ。
- 発音学習にも総学習時間の最低でも20%を費やそう。日本語にはない発音、英語独特の音声変化やリズムは自分でもそっくりまねて発音できるようになればリスニング力も向上する。
- 流暢さを向上させるには英語脳(英語回路)を作る必要がある。単語・文法・発音の基礎知識を習得したら英語脳を作り強化するトレーニングも開始しよう。
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- 単語・文法・発音の効率的な基礎力強化方法
- インプット(読む・聞く)能力向上のための英語脳作りトレーニング法
- アウトプット(話す・書く)能力向上のためのリハーサル・トレーニング法
- 学習計画の立て方と効率性を上げるための学習習慣
そろそろ本気で英語を習得したいとお考えの方におすすめです。また、「英会話スクールに通っているけど思うように上達しない…」「TOEICで高得点を取ったけど話せない…」などでお悩みの皆さまも是非ご一読ください。