記憶力は年齢とともに向上する!
英語は何歳からでも習得できるということだ。脳科学(神経科学)研究からの結論だ。「もう記憶力が落ちたから英語は無理だ。」と自分に言い訳をしている方、その思い込みに科学的根拠はない。
しかし、年齢によって脳の性質は異なる。大人には大人の脳に適した英語の学習方法がある。大人の脳にやさしい学習習慣もある。もっと大人の脳の性質を理解して、賢く、そして効率的に英語を習得しよう。
目次
1. 年齢と英語|記憶力は年齢とともに向上する!
脳科学研究により、神経回路(シナプス)の数は歳とともに増加することがわかっている。これは、歳とともに記憶の容量が大きくなるということを意味している。記憶の容量が大きくなるということは、歳をとっても英語は習得できるということだ。
人の脳内には数百億個の神経細胞(ニューロン)がある。その数は歳とともに減少することがわかっている。1日に数万個単位という、ものすごいスピードでニューロンは死んでいくそうだ。
一方で、シナプスはそれらニューロンをつなぐ役割をになう。そのシナプスは、歳とともに減少するどころか増加するということがわかっている。記憶の容量はシナプスの数で決まる。記憶力は、年齢とともに低下するどころか向上するこということだ。
「歳をとって記憶力が落ちたから英語は無理だ。」という言い訳は科学的には通用しない。
2. 年齢と英語|記憶力が落ちたと感じる原因は「好奇心」の低下
記憶力が落ちたと感じるのは、歳をとると「好奇心」や「探究心」が薄れてくることに原因がある。脳は合理的なので、興味がないことを簡単に記憶してくれない。
スウェーデンの神経生理学者のブリスとレモが、θ波がシナプスの活動を活性化することを論文で発表している。これは、脳内にθ波を発生させれば記憶力が向上するということだ。θ波を最も効率的に発生させる方法は興味を持つことだという。
東京大学大学院神経生理学准教授の池谷氏は、何にでも興味を持つ「好奇心」と「探究心」こそが、記憶にとって非常に重要であると指摘している。大人になって記憶力が落ちたと感じる原因の一つは、何事に対しても興味が薄れていくためだとも述べている。子どもは好奇心のかたまりだ。だからこそ脳が記憶するのだ。
英語自体に興味を持つことができない人も多いだろう。その場合は、興味がある題材を通して英語を学習することだ。
3. 年齢と英語|大人は子どものように言語を習得できない!
子どもは語学の天才だと言われる。大人が子どもをまねて新しい言語を習得しようとしても無理なのだ。脳の性質が違うからだ。大人には大人の脳に適した英語の学習方法がある。
子どもの脳は丸暗記が得意である。したがって「九九」のような意味のない数字も覚えられる。文法などのルールも簡単に丸暗記できる。しかし、その丸暗記の能力は歳とともに低下していくのだ。一方で、歳とともに物事をよく理解して、その理屈を覚える能力が高くなる。子どもと大人の脳の性質は異なるので、子どもの言語を習得するプロセスをまねて学習しても効果は上がらないのだ。
大人は、よく理解してその理屈や理論を覚えることが重要であり、そのように覚えたことは忘れにくくなる。そして、そのように覚えたことは応用範囲が広くなるので子どもの記憶よりも有用性が高いと言われている。
なお、大人になると脳の性質が変化し丸暗記の能力が下がるが、そのことが歳をとると記憶力が落ちたと「錯覚」するもう一つの原因でもある。
4. 年齢と英語|大人の脳に向かない英語勉強法はこれだ!
大人の脳には向かない英語の勉強法をご紹介しよう。これらは全く意味がないということではない。ただ、大人の脳の性質を考えると非常に非効率な勉強法なのだ。英語を習得するにはどうしてもある程度の時間がかかる。できるだけ効率的な学習を目指そう。
4.1. 英語を習得するのに文法の勉強は必要ない?
子どもは文法を勉強しなくても言語は習得できる。なぜ大人は文法を勉強する必要があるのか?よくある質問だ。しかし、このコラムをここまでお読み頂いた方には簡単な質問だろう。答えは脳の性質が違うからだ。大人の脳は文法を勉強する必要があり、その能力も高い。
4.2. 定型表現の丸暗記でペラペラになる?
よく使用される定型表現を覚えるだけの英語学習法は大人の脳には適していない。そしてその学習法自体も科学的ではない。
大人の脳は丸暗記が苦手なことは既に述べた。英会話スクールや英会話研修では、電話やミーティング、プレゼンなど、ビジネスのシチュエーションでよく使用される定型表現をロールプレイで覚えさせる。しかし、数レッスンにわたり何度も繰り返すか、自分で何度も復習しない限りすぐに忘れてしまう。英会話スクールに通っても英語が上達しない一番の原因だ。
また、第二言語習得研究からは、定型表現を覚えるだけでは英語は習得できないと指摘されている。言語を習得するというのは、単語・文法・発音の3つを組み合わせて無限の文章を作れるようになることだ。定型表現をいくら覚えても、それだけではペラペラにはなれない。なお、第二言語習得研究とは、第二言語(≒外国語)を習得するメカニズムやプロセスの研究、もしくはその研究分野のことである。
第二言語習得研究の知見からの効率的な英語学習法については、「英語の勉強方法|社会人初心者向け第二言語習得研究基準の英語学習法」を参考にしてほしい。
4.3. 意味がわからない英語を聞き流せばペラペラになる?
子どものように、意味のわからない英語をただ単に聞き流していても、いつまで経っても英語は習得できない。ペラペラになることはない。
子どもが言語を習得する過程では、最初はただ単に親が話すことばを意味も分からず聞いている。その状態をまねて英語を習得しようとする学習法がある。皆さまは、この学習法が全く科学的ではないことがご理解できるはずだ。子どもの脳はその間、ものすごい勢いで多くを吸収し発達している。大人の脳にはまねはできない。
5. 年齢と英語|大人の英語習得は「理解」「記憶」「自動化」
大人の脳の性質に合った英語の学習法の基となる考え方がある。それは、まず「理解」し、その理屈を「記憶」し、その習得した知識を何度も繰り返すことによって、注意を払わなくても無意識的、自動的に使えるようにすることだ。「自動的」に使えるようにすることを第二言語習得研究では「自動化」という。
上記の考え方を脳科学の用語を使いながらご説明する。興味がなければ読み飛ばしても構わない。
5.1. 子供の「意味記憶」と大人の「エピソード記憶」
子どもは丸暗記を得意とする「意味記憶」が発達しており、大人は理論による「エピソード記憶」が発達している。得意とする記憶の種類が異なるのだ。
人間の記憶は大きく分けて長期記憶と短期記憶の2つに分かれており、言語習得に深く関係する長期記憶は更に4つに分かれている。その4つの記憶のうち、「意味記憶」は掛け算の九九などの頭に詰め込む(丸暗記の)記憶であり、「エピソード記憶」は理論や理屈による記憶だ。
子どもの頃は「意味記憶」の能力が高く、意味の無い文字や音などに対して絶大な記憶力を発揮する。しかし、この「意味記憶」の能力は歳とともに低下していく。一方で、「エピソード記憶」が徐々に発達していき、論理だった記憶力が高くなるのだ。
5.2. 第二言語研究の「自動化」は脳科学研究では「手続き記憶化」
「意味記憶」もしくは「エピソード記憶」として脳に保管された情報を無意識的に使えるようにするには、それらの記憶を「手続き記憶化」する必要がある。第二言語習得研究でいう「自動化」のことだ。
人間の4つの長期記憶のうち、「意味記憶」と「エピソード記憶」の他に「手続き記憶」という記憶がある。この記憶は、普段なにげなく行っていることをするための記憶だ。例えば、自転車の乗り方や泳ぎ方の記憶、母国語で会話するための記憶などだ。
英語学習では、単語や文法など、「エピソード記憶」(もしくは「意味記憶」)として脳に保管された情報(知識)を無意識的に使えるようにするには、それらを「手続き記憶」にする(「手続き記憶化」)する必要があるのだ。第二言語習得研究で指摘されている「自動化」の重要性は、脳科学研究からも裏づけられているということだ。
ちなみに、「手続き記憶化」(「自動化」)するには脳は繰り返しを要求する。英語を自由に使えるようになるには、とにかく繰り返すことが重要なのだ。
6. 年齢と英語|大人の脳科学的「英単語」の覚え方
脳科学の知見から、大人の脳にやさしく、かつ効率的な英単語の覚え方をご紹介しよう。
6.1. 英単語は聞いて覚えよう!
英単語は見て覚えるよりも聞いて覚えた方が記憶に残りやすい。目の記憶より耳の記憶のほうが脳に定着しやすいのだ。進化の過程で、動物は目よりも耳を良く活用してきたので、耳の記憶は目の記憶よりも強く心によく残るからだと指摘されている。耳が不自由な人は、言語の発達が遅いという事実がその裏付けとなるだろう。
市販の単語集には通常音源がついている。意味とスペリングを思い浮かべながら音源を聞く方法は脳科学的にも理にかなった英単語の覚え方だ。
6.2. 英単語は例文で覚えよう!
英単語は文脈の中で覚えた方が効率的に覚えられる。人間の脳はものごとを関連付けると覚えやすくなるからだ。
人間の脳は、事象と事象が連合されると普通より弱い刺激でシナプスが活性化する性質をもっている。シナプスが活性化すると記憶力が向上する。脳は、他の知識と関連づけて物事をよく理解したときだけ、それをしっかり記憶するのだ。
なお、「語源」を意識して英単語を覚えることも「ものごとを関連付けて」覚えることになる。語源については別途記事にするので参考にしてほしい。
6.3. 「多読」と「ナロー・リーディング」!
自分の英語力より若干難しい本を多く読む「多読」は、効率的な語彙力アップの有効な方法の一つだ。
岐阜聖徳学園大学教育学部の大石晴美教授は、左脳の言語野の血流量を測定する実験の結果、実力より少しだけ難易度の高い教材を読んだとき、脳の血流状態を新たな知識を最も効率的に取り込める状態(「選択的活性状態」)にできるということを発表している。
なお、同じテーマや文体のものばかりを集中的に読む「ナロー・リーディング」(narrow reading)も、脳内を選択的活性状態にする効果があったという。
多読の効果の詳細については「英語多読の効果|第二言語習得研究も認めた効果とおすすめ多読法!」を参考にしてほしい。
6.4. 英単語は自分で使おう!
単語は、読んだり聞いたりすることを繰り返すよりも、実際に自分で繰り返し使った方が脳に定着しやすくなる。
雑誌「サイエンス」に掲載された、米パデュー大学のカーピック博士の研究結果によると、「インプット(読む・聞く)よりもアウトプット(書く・話す)を繰り返す方が、脳回路への情報の定着を促進する」そうだ。つまり、私たちの脳は、情報を何度も入れ込む(インプット)よりも、その情報を何度も使ってみる、想起する(アウトプット)ことで、長期間安定して情報を保持することができる性質をもっているのだ。
なお、ここでは脳科学的に効率的な単語の覚え方をご紹介したが、第二言語習得研究などの知見も総合した効率的な単語の覚え方については「英単語の覚え方:みんな実践中!8つの基本トレーニングと25のコツ」を参考にしてほしい。
7. 年齢と英語|大人の脳科学的「英文法」の勉強方法
脳科学の知見を文法学習に応用してみよう。大人の脳にやさしく、効率的な英文法の勉強方法だ。
7.1. よく理解することで記憶に定着させる
まずは文法項目の理屈を十分に理解しよう。大人の脳は、理解して理論や理屈を覚えることが得意だ。そのようにして覚えたことは忘れにくくなる。丸暗記に頼る方法は効率が悪い。「へ理屈」でもいい。何かと関連づけて覚えることだ。
7.2. 文法も例文で覚える。
単語と同じく、文法も例文で覚えること。例文中の単語の意味と文法項目とを関連づけることができるので脳に定着しやすくなる。文法項目に加えて、単語の意味も効率よく覚えられるので効率的だ。
7.3. 文法も聞いて覚える
単語と同じく、文法も聞いて覚えること。例文の音源を、文法構造と意味を意識しながら何度も聞く。そして大きな声でリピートしてみる。音源をまねて自分でも発音することは、自分の声を聞くことにもなるので非常に効率的に学習できる。
7.4. 文法は基礎を大局的に理解してから詳細へ
文法は基本を一通り理解してから細かいことに取りかかること。いきなり細かいことや難しいことから始めることは、大人の脳にとって非効率だ。ものごとを習得する時は、まずは大局を理解すること。細かいことはそのあとで少しづつ覚えていくほうが脳に定着しやすい。
7.5. 文法も「多読」と「ナロー・リーディング」!
単語と同じく、文法学習にも、自分の英語力より若干難しい本を多く読む「多読」と、同じテーマや文体のものばかりを集中的に読む「ナロー・リーディング」を取り入れること。文法項目を文脈の中で覚えられ、新たな構文や文法項目も習得できるので高い効果が期待できる。
7.6. 文法も自分で使おう!
単語と同じく、学習した文法項目は自分で使ってみよう。自分で文章を作ってみる。もしくは練習問題を解くことも同じ効果が期待できる。そのようなアウトプットを繰り返すことで長期間安定して記憶することができるのだ。
なお、ここでは脳科学的に効率的な文法の勉強方法をご紹介したが、第二言語習得研究などの知見も総合した効率的な文法の勉強法については、「英文法勉強法|科学的トレーニング法8選と8つの基本的な注意点」を参考にしてほしい。
8. 年齢と英語|大人の脳科学的「英語の発音」の学習方法
脳科学の知見から、大人の脳にやさしく、効率的な英語の発音の学習方法をご紹介しよう。
8.1. 発音矯正は「動き」の理解から
英語の発音は、まずは口の動かし方をよく理解すること。英語を正確に発音するには、喉・舌・唇・顎・肺を正確に動かさなければならない。それらをどのように動かすのかを理屈で理解することが、英語の発音を習得するための第一段階である。
例えば「L」は舌先を上の歯と歯茎の境目につける、「R」は舌先を丸める、などだ。英語には日本語にはない音(母音と子音)が多く、日本語にはない動かし方をするものも多い。
8.2. 発音矯正とリスニング力向上は運動能力で克服
英語の発音を身につけるには、喉・舌・唇・顎・肺の「動き」をまねること。発音を身につけることができればリスニング力も向上する。
発音は「運動系」の能力だ。運動系の能力は何歳になっても訓練次第で適応できるということが脳科学研究で指摘されている。英語の発音の「動き」は、最初は意識しないとうまくできない。しかし、意識しながら何度も繰り返せば次第に意識しなくてもできるようになる。
発音矯正が進んでくると、同時にリスニング力も向上していく。自分で発音できない音は聞き取れない。脳が音と認識してくれないからだ。日本語にはない英語の音を自分でも発音できるようになれば、リスニング力も必ず向上する。
なお、英語の発音については、上記の他にも色々な要素があり、学習しなければならないことも多い。まずは「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正しよう」を参考にして頂きたい。
9. 年齢と英語|大人の脳科学的「自動化」の方法
「単語」「文法」「発音」の3つの基礎知識を「自動的」に使えるようにする方法をご紹介する。脳科学の知見を応用した「自動化」のためのトレーニング方法だ。
英語を習得するには、まずは単語を覚えて、その並び方と発音方法を学ばなければならない。単語の並べ方というのは文法のことだ。要するに、何よりも単語と文法と発音の3つの知識を得なければならないのだ。しかし、知識を得ただけでは英語は使えるようにはならない。それらの知識を無意識的に使えるようにしなければならない。それが「自動化」だ。
9.1. 「自動化トレーニング」
脳科学では「自動化」のことを『「エピソード記憶」もしくは「意味記憶」の「手続き記憶」化』と呼ぶ。その「手続き記憶化」には、脳は繰り返しを要求する。とにかく何度も繰り返すことが脳科学の知見からも一番重要なことなのだ。
何を繰り返せばよいのか?The English Clubでは全部で22の「自動化トレーニング」を推奨している。下の図がそれらをまとめたものだ。これらのトレーニングを繰り返し行うことで効率的に自動化できる。
また、下記の表は、人が「読む」「聞く」「書く」「話す」時に、脳がどのような処理を行っているかを簡単に説明したものだ。全部で8つの処理がある。英語の4技能の流暢さを向上させるためには、これら8つの処理を、無意識的に、素早く、自動的に行えるようにする(自動化する)必要があるのだ。
これら8つの処理を自動化するための代表的なトレーニングをご紹介しよう。上記の22の自動化トレーニングのうち、8つのやり方と効果をご説明する。
9.1.1. 音読の方法と効果
音読は、英語の文章を、意味(内容)と文法(文の構造や構文)を理解しながら声を出して読むこと。
音読を繰り返し行うことにより、①文字(単語)を見て、その意味を理解すること、 ②読んだ文の構文や文法構造を解析し理解すること、⑧適切な発音・イントネーションを選び発話することの自動化を促進する。
なお、音読のやり方や効果の詳細については「英語の音読|正しいやり方で4技能に効果あり!7つのコツと教材選び」を参考にしてほしい。
9.1.2. 暗唱の方法と効果
暗唱は、英語の文章を意味と文法を理解しながら黙読・記憶した後、英文を見ないで声に出して唱えること。
暗唱を繰り返すことにより、①文字(単語)を見て、その意味を理解すること、②読んだ文の構文や文法構造を解析し理解すること、⑧適切な発音・イントネーションを選び発話することの自動化を促進する。
9.1.3. 書き写しの方法と効果
書き写しは、英語の文章を意味と文法を理解しながら黙読・記憶した後、英文を見ないで書き写すこと。
書き写しを繰り返し行うことで、①文字(単語)を見て、その意味を理解すること、②読んだ文の構文や文法構造を解析し理解すること、⑦適切なスペルを選び筆記することの自動化を促進する。
9.1.4. ディクテーションの方法と効果
ディクテーションは、英語の文章の音声を、意味と文法を理解しながら聞いて記憶し、その聞いた英文を文字に起こすこと。
ディクテーションを繰り返し行うことで、③単語の発音を聞き取って、その意味を理解すること、④聞いた文の構文や文法構造を解析し理解すること、⑦適切なスペルを選び筆記することの自動化を促進する。
暗唱、書き写し、ディクテーション、リピーティングは、英文を読んで(聞いて)から声に出す(書き取る)まで若干の時間がある。そのため、ある程度長い英文を記憶する必要性が出てくる。長い英文を記憶するには、意味と文法構造を理解しないとできない。しかし、日本語に変換してじっくり理解するほどの時間はない。したがって、英語を英語のまま、英語の語順で理解する自動化が促進すると考えられる。
なお、ディクテーションのやり方や効果の詳細については「英語ディクテーション|リスニング力だけじゃない!4技能に効果あり」を参考にしてほしい。
9.1.5. シャドーイングの方法と効果
シャドーイングは、英語の文章の音声を、意味と文法を理解しながら、聞いたそばから(1?2語遅れて)影のように後について声に出すこと。
シャドーイングを繰り返すことにより、③単語の発音を聞き取って、その意味を理解すること、④聞いた文の構文や文法構造を解析し理解すること、⑧適切な発音・イントネーションを選び発話することの自動化を促進する。
シャドーイングは、リピーティングに比べて聞いたことを直ぐに声に出すので、英文を英文のまま前から理解する能力が更に強化されると考えられる。
なお、シャドーイングのやり方や効果の詳細については「英語のシャドーイング|4種類のやり方と効果&6のコツを徹底解説!」を参考にしてほしい。
9.1.6. 瞬間英作文の方法と効果
瞬間英作文は、書いてある(もしくは聞いた)日本文を時間を掛けずに英文にすること。
瞬間英作文は、⑤適切な単語を選ぶこと、⑥構文・文法に沿って組み立てること、⑧適切な発音・イントネーションを選び発話することの自動化を促進する。
瞬間英作文を繰り返すことにより、日本の文章を瞬時に英文に変換する能力は向上するが、英語を英語のまま使えるようにする能力は向上しない。英語を使う際、常に日本語を介入させる癖がついてしまう恐れがあるので注意が必要だ。中級者以上の方にはお薦めできない。
なお、瞬間英作文のやり方や注意点については「瞬間英作文の効果|始める前に知っておきたい科学的見地からの注意点」を参考にしてほしい。
9.2. 自動化も「多読」と「ナロー・リーディング」!
「多読」と「ナロー・リーディング」は、単語や文法の学習に加えて、自動化にも有効なトレーニングだ。英語を英語のまま、英語の語順で理解する自動化を促す。
多読のやり方や効果の詳細については「英語多読の効果|第二言語習得研究も認めた効果とおすすめ多読法!」を参考にしてほしい。
なお、「自動化」するというのは、「英語脳」(英語回路)を作るということと同じ意味だ。「英語脳」の作り方の詳細については、「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築しよう!」を参考にしてほしい。
10. 年齢と英語|もっと大人の脳の性質を理解して効率的に!
大人の脳の性質をもっと理解すれば、英語学習をもっと効率化できる。ここでは学習習慣にフォーカスしてみよう。
10.1. 寝ている間の脳を有効活用しよう!
寝ている間も脳に働いてもらえば効率的に英語が習得できる。その効果を最大限に生かすには毎日学習したほうがいい。
人間の脳は寝ている間に記憶を整理整頓していることが知られている。それによって、学習した時点では理解できなかったことが、後になって理解できるようになることがある。脳科学研究では、この現象をレミニセンス(追憶)現象と呼ぶ。
レミニセンス現象は、学習したものが少し時間をおくと高度化するという現象である。これは、一日6時間まとめて学習するより、2時間ずつ3日かけて学習した方が、途中に睡眠が入るため、その間に記憶が整理整頓され効率的に習得できるということを示している。英語は少しずつでも毎日学習した方が圧倒的に効率的ということだ。
10.2. 毎日6時間以上寝ること!
効率的に記憶するには、学習した日(つまり毎日!)は6時間以上の睡眠時間を確保したほうがいい。
米ハーバード大学の精神医学者であるロバート・スティックゴールドが、2000年の認知神経科学雑誌に、何か新しい知識や技法を身につけるためには、覚えたその日に6時間以上眠ることが欠かせないという研究結果を発表している。
同氏は、一睡もせずに詰め込んだ記憶は、情報の貯蔵庫である側頭葉に刻み込まれることなく数日のうちに消えてしまうと指摘している。学生時代の一夜漬けは試験の結果につながったかもしれないが、すぐ忘れてしまっていたであろう。
10.3. 寝る前15分は記憶のゴールデンタイム!
記憶したいことは寝る前の15分間で学習したほうがいい。
東京大学大学院の池谷准教授は「脳は睡眠の直前に取り込んだ情報を中心に処理するため、15分でもいいので、寝る直前に学習時間を確保するのが最も効率的」と指摘している。
医学博士で脳神経外科専門医の築山節氏は、夜の学習はざっと中途半端にやって、寝ている間の脳の整理力を活用し、睡眠時間を十分にとり、起きてから整理・熟考することが合理的だと指摘している。夜は特に単語を覚えることなどは非常に有効であるという。
10.4. 1ヶ月以内に復習しないとほとんど忘れてしまう!
覚えたい情報は、1ヶ月以内に数回「海馬」に送信したほうがいい。やりっぱなしでは、ほとんどの情報は消えてしまう。
脳中の記憶の一時的な保管場所である「海馬」は、長くて1ヶ月程度しかその記憶を保管しないことが脳科学の研究で明らかになっている。池谷准教授によると、海馬がその記憶を保管しているうちに覚えたい情報を数回海馬に送信すれば、海馬はその情報を「必要」な情報と判断するという。そうすると海馬は、長期的に記憶を保存する側頭葉に「これを記憶せよ」と指示し、その情報は側頭葉に保存されるのだ。
10.5. 2ヶ月で3回の復習が効率的!
科学的にもっとも効率的な復習スケジュールは、まず1週間以内に1回目、次にこの復習から2週間後に2回目、そして最後に2回目の復習から1ヶ月後に3回目と、1回の学習と3回の復習を、少しずつ間隔を広くしながら2ヶ月かけて行うことだ。
ドイツの心理学者エビングハウスの実験を参考にすると、このスケジュールで情報を脳に送信することにより、海馬は確実にその情報を必要の情報と判断するといわれている。
10.6. 覚えた知識を人に説明して「エピソード記憶」にする
覚えた知識を人に説明すると忘れにくく、思い出しやすくなる。人に説明することで「意味記憶」を「エピソード記憶」にできるからだ。
「エピソード記憶」は、シナプス(神経回路)の数が増加していくことによって増強される。つまり、エピソード記憶とは、物事を関連付けて覚える能力なのだ。人に教えることは記憶を自分の経験に関連付けることになる。つまり「エピソード記憶」になるのだ。経験に結びつけて覚えれば、思い出すきっかけも多くなるので思い出しやすくなる。
また、自分がしっかりと理解していなければ人に説明はできない。人に説明することは、自分が本当に理解しているかどうかの確認にもなる。
10.7. 「基礎から応用」と「大局から細部」の手順
いきなり高度なことに手を出すよりも、基礎を身につけてから少しずつ難易度を上げていった方が結果的には早く習得できる。池谷准教授は、「学習の手順をきちんと踏めば、より早く覚えられるという脳の性質も重要。学習手順には慎重に気を配った方が賢明。」と指摘している。
まずは「森」を見ることも重要だ。同氏は、「一般的にものを習得するときは、まずは大局を理解することが大切。始めは細部を気にせず、おおまかに理解する。細かいことは、その後で少しづつ覚えていった方がよい。」とも指摘している。
10.8. 学習の初期段階での努力の継続がもっとも大切
物事の習得でもっとも大事なことは、学習初期段階での努力の継続だ。努力と成果は「比例関係」ではなく「累乗関係」にある。特に学習の初期の段階では、すぐに成果が現れないからといって簡単に諦めてはいけないということだ。
学習の効果は、幾何級数的なカーブを描くことが脳科学の研究からわかっている。つまり、「学習の目標を1000とした場合、学習を始めた時点を1とすると、2、4、8、16、32、64と累積効果を示していく。この時点では1000までは程遠いと思うかもしれないが、128、256、512とくればもう一息で1024になる。このような成長パターンを示すのが脳の性質。」と池谷氏は指摘している。
11. 年齢と英語|まとめ
- シナプスの数は歳とともに増加する。これは、歳をとっても英語は習得できるということにつながる。歳をとると記憶力が落ちたと感じるのは「好奇心」が薄れるから。
- 大人が子どもをまねて新しい言語を習得しようとしても無理だ。脳の性質が違うから。大人には大人の脳に適した英語の学習方法がある。
- 大人の脳に適した英語の学習法は、「理解」し、その理屈を「記憶」し、その習得した知識を何度も繰り返すことによって「自動化」すること。
- 大人の脳にやさしい英単語の覚え方は、①聞いて覚えること。②例文で覚えること。③多読とナロー・リーディング。④自分で使うこと。
- 大人の脳にやさしい英文法の勉強法方は、①まずはよく理解すること。②例文で覚えること。③聞いて覚えること。④大局を理解してから詳細へ。⑤多読とナロー・リーディング。⑥自分で使うこと。
- 英語の発音は、まずは喉・舌・唇・顎・肺の動かし方をよく理解しまねること。発音が身についてくればリスニング力も向上する。
- 単語・文法・発音の知識を無意識的に使えるように自動化するには、脳は繰り返しを要求する。23の「自動化トレーニング」を繰り返し行えば効率的に自動化できる。
- 大人の脳の性質をもっと理解すれば効率的に英語を習得できる。特に睡眠中の脳を活用する学習習慣を身につけたい。そして学習初期は努力の継続が重要なことも覚えておこう。
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