「CNNニュース・リスニング」を、英語と英語の学習方法を教えている立場から徹底検証することがこのコラムの目的だ。
The English Clubはこの教材を長年使用してきた。その積み重ねてきた経験と知識をもとに、本書の内容、使い方、効果についてできる限り客観的に、そして徹底的に検証したい。皆さまの英語学習の手助けになれば幸いだ。
1. CNNニュース・リスニング|おすすめ度
「ビジネスパーソンの最終目標の英語がここにある。TOEIC800点以上の方で、特にリスニングを鍛えたい方にはお薦めの教材だ。しかし、本書おすすめの学習方法には注意が必要。」
ビジネスパーソンの皆さまは、本書のようなニュースの英語や、もしくは「TED Talks」に出てくるような企業経営者のプレゼンテーションの英語を目標にして頂きたい。なぜなら、それらの英語が、グローバル・ビジネスで使用されている英語に一番近いからだ。
本書は、特にリスニング力を鍛えるには良い教材だ。現在の本物の英語を、話題のニュースを題材に学ぶことができる。トレーニングのやり方次第でスピーキング力の強化にもつなげることもできる。しかしながら、日本人にとってはかなり難しい表現も多く含まれているので、まずはリスニング力強化が目的の教材だと考えた方がよいだろう。
難しい表現が多いことに加えてスピードもかなり早いので、TOEIC700以下の方は手を出すべきではない。本書の効果を最大限に引き出すにはTOEIC800点以上の基礎力が必要だ。
一方で、本書に記載されている学習方法には注意が必要だ。通訳になりたい方には良いトレーニング方法なのかもしれないが、コミュニケーションのツールとして英語を活用したい皆さまには適した方法ではない。ビジネスパーソンにとって効率的な学習方法を後ほどご紹介するので是非参考にして頂きたい。
The English Clubの本書のおすすめ度は 4.0/5.0だ。(ただし、TOEIC800点、または同等の英語力以上の方限定)
2. CNNニュース・リスニング|本書の宣伝コピーと内容
本書に記載されている宣伝コピーと本書の使い方、ニュースごとのページ構成についての説明を抜粋し、以下に掲載する。なお、本書は毎年2回(4月に秋冬版・10月に春夏版)発行される季刊誌であるが、以下は「2019[春夏]」から抜粋したものだ。
CD付属 CNN English Express編集部[朝日出版社]¥1,000+税
本書は、 (…) CNNの放送から、短い英語ニュースを20本選りすぐって収録したものです。1本は、 (…) 30秒ほどの長さになっています。
付録のCDには、CNNの放送そのものである「ナチュラル音声」のほか、ナレーターがゆっくり読み直した音声が「ポーズ入り」と「ポーズなし」で収録されています。
[30秒 × 3回聞き]方式と本書が呼ぶリスニング練習には、通訳者養成学校でも採用されているサイトトランスレーションや区切り聞き、シャドーイングといった学習法が取り入れられている (…)。日本語訳を見て英語に戻す「反訳」を行うことで、発信型の練習もできます。
アメリカ英語(カナダ英語を含む)、イギリス英語、オーストラリア英語のニュースがバランスよく配分されていることも本書の特徴です。ニュースの発信地も、アメリカとイギリスはもとより、日本や中国、スイス、ブラジル、ニュージーランドなど多彩ですから、最後まで興味深く聞き進められるでしょう。
本書のご購入社には電子書籍版(PDF)とMP3音声(付録CDと同一内容)を無料で提供させていただきます。
本書の構成(掲載されている20本のニュースごとに、下記のことが記載されている。):
- CDのトラック番号
- アクセント:「ナチュラル音声」のアクセント (…) を表しています。「ゆっくり音声」のナレーターは基本的にアメリカ英語です。
- ニュースのトランスクリプト:音声を文字化したものです。重要ボキャブラリーで取り上げている後には色をつけてあります。
- リスニングのポイント:このニュースに見られる音の変化や発音の特徴などが解説されています。(一部のニュースのみ)
- ニュースの日本語訳
- 重要ボキャブラリー:各ニュースから5つずつ取り上げています。
- ニュースのミニ知識:このニュースの背景や関連情報が記載されています。
- ニュースの発信地:ニュースの舞台となっている国・地域または団体・組織などを示します。
- OEIC-style Questions(と答え):ニュースの内容が理解できたかどうかを確かめる問題です。TOEIC(LR)のPart4と同じ4択形式です。
- 語注:ニュースの中の単語やイディオムなどをピックアップし、意味を示しました。「重要ボキャブラリー」に取り上げた語も、ここに再度記載しています。
- ワンポイント解説:わかりにくい箇所の文法的な解説やニュースの関連知識など、ニュースをより正確に理解するのに役立つ情報が記載されています。
本書の使い方(本書掲載のもの):
速読能力が高まるサイトトランスレーション:
本書では、各ニュースに、普通の英文とスラッシュで区切られた英文、およびそれらの訳文を掲載しています。まずは、スラッシュで区切られた英文を順番にどんどん訳していき、掲載の訳文で正しく理解できたか確認しましょう。(…) また、区切られた日本語訳の方を見ながら順番に英語に訳していく「反訳」(日→英サイトトランスレーション)を行うと、英語での発信能力が格段に向上します。速聴能力が高まる区切り聞き:
区切り聞きの場合、(…) 情報・意味の区切り目と思われる箇所でオーディオプレーヤーを一時停止させ、すぐに訳します。その部分を訳し終えたら再び音声を先に進め、同様の作業を繰り返していきます。総合力を養うシャドーイング:
シャドーイングは、聞こえてくる英語音声を一歩後から追いかけるようにリピートしていくものです。(…) ナチュラル音声でいきなり練習するのではなく、最初は「ゆっくり音声(ポーズなし)」を利用するのがよいでしょう。(…) もしも英語でのシャドーイングがどうしても難しすぎるという場合は、まず日本語でシャドーイングする練習から始めてみましょう。
3. CNNニュース・リスニング|学習効果分析
3.1. 本書の内容について
本書にも記載されている通り、1本30秒程度のニュース(ナチュラル・スピード)は、集中力を持続させやすい。繰り返しトレーニングするにもちょうどいい長さだ。
3.1.1. 付属のCDは使いこなすことで効率アップ
付属のCDには、実際のニュースに加え、ナレーターが読み直したものが収録されているので、使い分けることによって効率的でトレーニングできる。例えばシャドーイングを行う場合は、最初は読み直したものを使用した方がよいだろう。また、リピートやルックアップ&セイなどのトレーニングを行う際は、ポーズが入っているものが便利だ。
英語のアクセントについては、アメリカ英語やイギリス英語など、世界中で話されている英語を聞くことができるのでリスニング力の幅も広がる。
3.1.2. 英語の説明もTOEIC800点には十分
ニュースの題材については、世界の旬な話題が取り上げられており、ビジネスパーソンの皆さまにとっても興味深いものが多いだろう。
各ニュースには、語彙や文法の説明も記載されているので、TOEIC800点以上の方であれば辞書や文法書なしでも十分理解可能だ。「ニュースのミニ知識」や「ワンポイント解説」も、ニュースの内容を理解するのに役立つだろう。一方で、「リスニングのポイント」や「TOEI-style Questions」は、TOEIC800点以上の方にはあまり必要ないかもしれない。
3.2. 本書おすすめの学習方法について
本書に記載されている学習方法はビジネスパーソンの方にはおすすめできない。なぜなら、通訳になりたい人向けの学習方法だからだ。ビジネスパーソンが必要な英語力は、英語によるコミュニケーション能力であり、通訳の能力ではない。
3.2.1. ビジネスパーソンと通訳に必要な英語力の違い
英語によるコミュニケーション力を向上させるためには、英語を使う時はなるべく日本語を介入させないようにする必要がある。聞いた英語を日本語に訳して理解したり、日本語で考えたことを英語に訳して話していたらスムーズな会話はできない。我々の目標は、英語を英語のまま理解し、英語で考えたことをそのまま英語で話せるようになること。つまり、英語回路(英語脳)を作るということだ。
一方で、通訳になるためのトレーニングは、英語回路の構築を妨げることになってしまう。なぜなら通訳は、常に英語と日本語の間を行ったり来たりする特殊な能力を身につける必要があるからだ。通訳になるためのトレーニングは、母語である日本語を通して英語を遠隔操作できるようにするためのものであり、英語回路を作るためのものではない。
ビジネスパーソンの皆さまは通訳の特殊の能力を身に付ける必要はない。英語で流暢にコミュニケーションを取れるようになれればいいはずだ。そのためには、通訳のトレーニングは遠回りになってしまう。
なお、英語回路(英語脳)についての詳細は「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築しよう!」も参考にして欲しい。
3.2.2. サイトトランスレーション・反訳・区切り聞きの弊害
本書が進めている学習方法のうち、「サイトトランスレーション」「反訳」「区切り聞き」の3つは通訳になりたい方にはよい練習方法なのかもしれない。しかし、通訳になりたい方以外の皆さまには決してお勧めできない。全て日本語に「訳す」(またはその逆)作業が含まれているからだ。TOEIC800点以上に皆さまは、この「訳す」作業から脱却しない限り次の段階には進めない。
3.2.3. シャドーイングは有効
本書が勧めているもう一つのトレーニング法の「シャドーイング」については、日本語を介入させないので異論はない。しかし、本書には「もしも英語でのシャドーイングがどうしても難しすぎるという場合は、まず日本語でシャドーイングする練習から始めてみましょう。」という意味不明な記述がある。日本語の音声は収録されていないので、どのようなトレーニングなのかは想像できないが、いずれにしろ無視した方がよいだろう。
3.2.4. 本書の解説・説明文には注意!
余談だが、この他にも、本書の解説・説明文には首を傾げざるを得ない記述が多いので気をつけた方がよい。例えば、「英文は論理的と言われますが、特にニュースは、全体の起承転結の流れはもちろん、(…)」と、あたかも、ニュースが起承転結で書かれているかのような記述がある。しかし、ニュースのみならず、英文は決して「起承転結」では書かれない。「起承転結」は日本語独自の論理展開法であり(もとは中国)、世界からは論理的ではないと批判されているのだ。
本書は、上級者が英語力を向上させるのはよい教材だとは思うが、編集者の英語習得法などについての理解不足が気になる。
3.3. 本書の学習効果について
本書に掲載されているニュースの英語は、日本のビジネスパーソンにとっての目標だ。また、ニュースを聞き取り、十分に理解するには、そのニュースの背景の知識も必要になる。そのような知識はビジネスパーソンとして知っておくべきものも多いだろう。
3.3.1. ニュースの英語はビジネスで使用する英語に近い
ニュースの英語はビジネスパーソンが仕事で使う英語に非常に近い。ニュースには、ビジネスでも使える、知っておきたい単語や言い回し・表現が多く含まれている。自分が必要とする英語に近い英語を学習の題材にすることは、英語習得を効率化するために一番重要なことだ。
一方で、ニュースでは非常に難しい表現が使われる場合がある。それらは理解できるようにしておくだけで十分だ。自分で使えるようにする必要ない。使える英語の範囲は、理解できる英語の範囲よりも狭くて構わないのだ。
3.3.2. 標準的な本物の英語が学べる!
ニュースの英語は、原稿が入念にチェックされているので文法的な間違いが少ない。スクリプト(英文)を読めば、文の構造(文法や構文)が理解できないということも少ないだろう。発音に関しても、教育を受けたアナウンサーが、訛りが少ない標準的なアクセントではっきりと発音してくれている。
発音については、実際のニュース(ナチュラル・スピード)は非常に速く感じるかもしれないが、実はナレーターがポーズなしで読み直した音声と比較してみると、トータルの時間ではそれほど変わらないのだ。実際のニュースが速く感じる理由は、スピードとリズム(強弱)に緩急をつけることによって、感情を込めて読んでいるからだ。その緩急に慣れることができれば、リスニング力は格段に向上する。
3.3.3. ニュースのまめ知識を雑談で活用!
ビジネスでの雑談力の重要性が指摘されてから久しいが、英語でもその重要性は変わらない。むしろ、英語の方がその重要性が高いと言えるだろう。ニュースのまめ知識は是非雑談で活用して欲しい。
英語や英語圏の文化に不慣れな我々日本人は、無意識的に失礼な言動をすることも多い。その様なことを大きな壁にしないためには、信頼関係を構築しておくことが重要だ。信頼関係がうまく構築できていれば、多少のことは許し合える。雑談を通して自分を知ってもらい、相手を知ることはその信頼関係構築の一助となるだろう。
4. CNNニュース・リスニング|おすすめ使い方
The English Clubがお勧めする、本書を使用した英語回路を構築・強化するための学習方法をご紹介する。
なお、本書は1冊に20のニュースが取り上げられているので、1日にニュース1つ、下記のトレーニングを行い、半年で5〜6回転させるとその頃に最新号が発行される。それを続けることをお勧めする。
なお、2回転目からは全てを行う必要はない。慣れてきたら音読とシャドーイングに集中して欲しい。それでは一つ一つやり方をご紹介する。
4.1. リスニング(Listening)
英文(スクリプト)を見ずにナチュラルスピードの音声を2〜3回聴き、どの程度聞き取れるかを確認する。2〜3割程度の理解度でも諦めないように。その後ゆっくり音声を2〜3回聴いて見る。
4.2. アイ・シャドーイング(Eye-shadowing)
ゆっくり音声(ポーズなし)を聴きながらスクリプトを目で追いながら意味を確認する。2〜3回繰り返すこと。「shadow」は「~の後をつける」という意味だ。
4.3. 音読(Reading aloud)
音声を止め、自力で大きな声を出して音読しながら意味を確認する。単語の意味がわからない場合は意味を推測しながら、そして、スクリプトを語順通りに前から理解していくことを意識しながら何度か音読する。
その後、単語・フレーズの意味や文法構造が曖昧なところは注釈や辞書、文法書で確認する。確認後、再度意味を意識しながら数回音読する。
なお、音読のやり方や効果についての詳細は「英語の音読|正しいやり方で4技能に効果あり!7つのコツと教材選び」を参考にして欲しい。
4.4. リピーティング(開本)(Repeating)
スクリプトを見ながら、ゆっくり音声(ポーズあり)のポーズのところでリピートする。最初は意味(内容)を意識しながら数回リピートする。慣れてきたら、発音(個々の発音、音声変化、強弱、イントネーション)も意識しながら、再度数回リピートする。人間の脳はマルチタスクが苦手なので、意味を意識するときと、発音を意識するときと分けて行う。
なお、発音に関しては以下のコラムも参考にして欲しい。
母音と子音:「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正しよう」
アクセント:「英語のアクセント|基礎と応用の8つのルールで英単語の発音を極める」
リエゾン(音声変化):「英語のリエゾン|ジョブズから学ぼう!単純ルールと簡単発音練習法」
リズム(強弱):「英語のリズム|重要な理由と4つの法則を理解して使える英語を獲得!」
イントネーション:「英語のイントネーション|基礎と応用15のルールとおすすめ学習法!」
4.5. オーバーラッピング(Overlapping)
ゆっくり音声(ポーズなし)を聴きながら、音声をぴったりと合わせて音読する。最初は意味を意識しながら、慣れてきたら発音を意識しながら何度か繰り返す。うまくできない場合は、数回自力で音読してから再度挑戦する。発音が曖昧な場合や、スピードについていけない場合は、声を出さずに口パク(Lip sync)で口の動かし方を確認してみる。
4.6. ルックアップ&セイ(Look-up & say)
ゆっくり音声(ポーズあり)を聴きながらスクリプトを目で追い、ポーズのところでスクリプトから目を離して音声をリピートする。うまくできない場合は、音声なしで(黙読した後に)ルックアップ&セイをやってみるか、音読やオーバーラッピングを何度か繰り返してから再度挑戦してみる。一文を暗記しようとはせずに、意味を理解することに集中するとやりやすくなる。
4.7. リピーティング(閉本)(Repeating)
スクリプトを見ないで、ゆっくり音声(ポーズあり)のポーズのところでリピートする。必ず意味と発音を意識しながらできるようになるまで繰り返す。
4.8. シャドーイング(Shadowing)
ゆっくり音声(ポーズなし)を聴きながら、1〜2語後を声を出して追っかけていく。意味と発音を意識しながらできるようになるまで繰り返す。上手くできない場合は、音読やオーバーラッピング、ルックアップ&セイ、もしくはリピーティングを何度か繰り返してから再度挑戦する。
ゆっくり音声でシャドーイングまでできるようになったら、今度はナチュラル音声で上記の4.3〜4.8を繰り返す。
なお、シャドーイングのやり方や効果についての詳細は「英語のシャドーイング|4種類のやり方と効果&6のコツを徹底解説!」を参考にして欲しい。
4.9. サマライジング(Summarizing)・リフレージング(Rephrasing)
スピーキング力向上にもつなげるために、ニュースの内容を自分の言葉で要約したり(サマライジング)、音声を一文一文止めながら、おおよそ同じ内容になるような別な英文を作ってみる(リフレージング)。頭の中で作文することが難しい場合は書き出してもよい。
「自動化トレーニング」は全部で22種類ある。そのうちの9種類をご紹介したが、それ以外のトレーニングについても知りたい場合は、「英語トレーニング|4技能を独学で習得するための科学的自主トレ22選」を参考にして欲しい。
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そろそろ本気で英語を習得したいとお考えの方におすすめです。また、「英会話スクールに通っているけど思うように上達しない…」「TOEICで高得点を取ったけど話せない…」などでお悩みの皆さまも是非ご一読ください。