脳科学(神経科学)研究によって英語脳の存在は証明されている。英語脳を作るということは、あなたの脳に英語の回路を新しく作るということだ。英語回路を構築できれば、英語と日本語を置き換えることなく、英語を英語のまま、英語の語順で自由に使いこなせるようになる。
英語を習得するということは、英語という言語をもう一つ獲得することなのだ。あなたの母語である日本語を使って英語を「遠隔操作」することではない。
大人になってからでも英語脳は獲得できる。しかし、一朝一夕には英語脳は獲得できない。脳回路は繰り返しによって作られ、そして強化されるからだ。
目次
1. 英語脳の科学を簡単に説明しよう!
「英語脳」というと「うさん臭い」と思う方もいるかもしれない。しかし、英語脳は科学的にもその存在が証明されているのだ。
1997年に科学雑誌「Nature」に発表された脳科学の論文によると、高校生以降に第二言語として英語を習得した人は、母語(日本人の場合は日本語)を使用するときと英語を使用するときでは脳の別の領域が活動するという実験結果が出たそうだ。英語の回路が存在する証拠である。
また、新潟大学脳研究所教授の中田氏の実験では、日本人が日本語を使っているときとアメリカ人が英語を使っているときで、それぞれ脳の活動がはっきりと違ったそうだ。東京大学大学院神経生理学准教授の池谷氏はその理由として、「日本語と英語の持つ音韻や文法構造の違い」などが考えられるとしている。日本語脳と英語脳が存在するもう一つの証拠である。
英語を流暢に使えるようになるためには、この英語脳(英語回路)を作る必要があるのだ。
なお、「英語脳」が必要な理由については「【英語脳】英語の思考回路とバイリンガル脳の作り方と注意点!」に詳しく説明しているので、こちらも是非参考にしてほしい。
2. 英語脳は「自動化」で作られる
英語脳は「知識」を「自動化」することによって作られる。単語や文法などの知識を得るだけでは英語を流暢に使えるようにはならない。それらの知識を無意識的・自動的に使えるようにすることが必須なのだ。そのことを第二言語習得研究では「自動化」と呼ぶ。脳科学研究では「エピソード記憶」の「手続き記憶」化と表現する。
言語の要素は3つしかない。単語と文法と発音だ。文法というのは、簡単にいうと単語の並べ方だ。要するに第二言語を習得するというのは、単語を覚えてその並び方と発音の方法を覚え、そして使えるようにすることなのだ。それ以外にない。
「自動化」すべき知識はこの単語と文法と発音の3つだけだ。これら3つの知識を自動化することで英語脳を作ることができる。
2.1. 英語脳の作り方|英語を英語のまま理解
英語学習の初期の段階では、英単語は日本語の訳語を覚える。例えば「apple」は「りんご」だと覚える。しかしこのように、英語を使っている時にいちいち日本語に変換して理解していたら時間がかかってしまう。英語でスムーズに会話することはできない。「apple」は「apple」のまま理解する。つまり英語を英語のまま自動的に理解する必要があるのだ。
上の図を見てみよう。①の場合は、聞いた英語を一旦日本語に訳して理解する脳内プロセスだ。つまり、日本語の回路を使って英語を理解するプロセスである。一方で②は、英語を英語のまま、日本語を介さずに理解するプロセスであり、この場合は日本語の回路は使っていない。この②のプロセスを繰り返すことにより、英語を英語のまま理解する「自動化」が進む。つまり、英語回路(英語脳)が作られ強化されていくのだ。
なお、単語の効率的な覚え方については「英単語の覚え方|みんな実践中!8つの基本トレーニングと25のコツ」が参考になるはずだ。
2.2. 英語脳の作り方|英語の語順に順応
英語の語順は日本語のそれとは全く違う。日本語の語順の回路で英語を使おうとするからうまく英語が使えないのだ。英語の語順の回路を作ることができれば、英語を英語の語順のまま前から理解できるようになり流暢さが向上する。
“I’m reading a book which I borrowed from the library.”
上の例を見て欲しい。この英文を自然な日本語に訳すと下記のようになる。訳す順番に注目して欲しい。「私は」と主語を訳したあと、一番後ろから順番に戻り訳している。これは、日本語の語順の回路で英語を理解しているのだ。このやり方のままで学習を続けても絶対に英語を使えるようにはならない。
「私は、図書館から借りた本を読んでいる。」
上記の英文を英語の回路で理解しようとすると下記のようになる。英語の順番で前から前から理解するのだ。
「私は、読んでいる、本を、その本を、私は借りた、図書館から。」
このように英文を語順通りに理解するトレーニングを続けると英語の語順に対する「自動化」が進む。つまり、英語回路(英語脳)が作られ、そして強化されていくのだ。結果、英語の4技能全ての流暢さが向上することになる。
なお、文法の効率的な勉強法については「英文法勉強法|科学的トレーニング法8選と8つの基本的な注意点」が参考になるはずだ。
2.3. 英語脳の作り方|英語の発音を体得
日本人の最大の弱点は発音だ。英語には日本語にはない発音が多く、日本語ではあまり起こらない音声変化や英語独特のリズムなどがあることが原因だ。我々日本人は日本語の発音の回路を持っている。その日本語の発音の回路で英語を使おうとするから、聞き取れなかったり通じなかったりする。
2.3.1. 日本語に比べて圧倒的に多い英語の発音数
日本語の母音は5つだが英語は24ある。子音は、日本語は16だが英語は24だ。英語の方が圧倒的に発音数が多いことがわかるだろう。下の例をみてほしい。
「she」「see」は日本語では両方とも「シー」で全く同じ発音だ。しかし英語では全く違う発音である。「she」は日本語の「シー」に近いが、「see」は「スィー」に近い。
このように、日本語(母語)で使われない音が日本語の似た発音に引き込まれる現象を、第二言語習得研究では「マグネット効果」というが、日本語の発音の回路を使って英語を発音しようとするからこのような現象が起こる。結果、聞き取れなかったり、通じなかったりするのだ。
なお、英語の母音と子音についての詳細は「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正しよう」が参考になるはずだ。
2.3.2. 日本語ではあまり起こらない英語の音声変化
日本人が英語を聞き取れない最大の理由の一つが「音声変化」(リエゾン)だ。これも日本語の発音の回路では歯が立たないであろう。下の例をみて欲しい。
「Check it out」は日本語的に(日本語の発音の回路で)発音すると「チェック イット アウト」だが、ネイティブ・スピーカーが通常のスピードで発音すると「チェッケラゥ」となる。このような「音声変化」が頻繁に起こるので日本人には聞き取れないのだ。
日本語の発音の回路しか持っていない日本人には、「Check it out」の発音がなぜ「チェッケラゥ」になるのか理解できないだろう。これも「マグネット効果」の例の一つだ。
日本語と英語の発音の違いを理解し、無意識的に使えるように「自動化」することで英語の発音の回路(英語脳)を構築できれば、このマグネット効果から脱却できる。
なお、英語の音声変化(リエゾン)についての詳細は「英語のリエゾン|ジョブズから学ぼう!単純ルールと簡単発音練習法」が参考になるはずだ。
3. 英語脳を作るための「自動化トレーニング」
英語脳を作るためのトレーニング方法、つまり、単語・文法・発音の知識を無意識的に使えるように「自動化」するトレーニング方法をご紹介しよう。The English Clubでは「自動化トレーニング」と呼んでいる。
上の図にあるように自動化トレーニングは全部で22ある。図では、それぞれのトレーニング方法を使う場所の「目」、「耳」、「口」、(および「手」)で分けてある。人間の脳はいろいろな方向から情報(刺激)を与えてやると記憶が定着しやすくなる。英語を効率的に習得したければこの4つをフル活用した方がよい。
それでは英語脳作りに適したトレーニングを8つご紹介しよう。
3.1. スラッシュ・リーディング(Slash Reading)
スラッシュ・リーディングは英語の語順の回路を作るためのトレーニングだ。英文を前から理解できるようにするために、意味のかたまり毎にスラッシュ(/)を入れながら読む方法である。
3.1.1. スラッシュ・リーディングの方法
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 数語ごとの意味の切れ目にスラッシュ(/)を入れながら、戻り訳しをせずに、そのかたまり毎に前から意味を理解しながら読む。
- 意味が取りづらいときは、かたまり毎に日本語に訳しながら読んでみる。
- 最後までスラッシュを入れたら、再度最初からかたまり毎に意味を理解しながら声を出して読む。
- わからない単語や文法・構文がある場合は辞書等で調べて完璧に理解してから、そして発音があいまいのところやわからないところがある場合は音源で確認してから再度音読する。
3.1.2. スラッシュ・リーディングの効果
- どうしても後ろから戻り訳す癖が抜けない方向けの矯正トレーニング法。
- 意味のかたまり毎に前から順番に理解することにより、後ろから戻り訳す癖を矯正し、英語の語順の脳回路の基礎を作る。
- 英文を前から理解できるようになることでリスニング力とリーディング力のインプット能力を向上させる。
3.2. ディクテーション(Dictation)
ディクテーションは聴いた英語を書き取るトレーニングだ。本来の目的はリスニングの弱点を見つけることだが、トレーニングとして行うことにより英語の語順や発音の回路を作ることもできる。
なお、ディクテーションのやり方や効果についての詳細は「英語ディクテーション|リスニング力だけじゃない!4技能に効果あり」も参考にしてほしい。
3.2.1. ディクテーションの方法
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 1文ずつ音源を再生しながら書き取る。
- 意味と文の構造を意識しながら聞いて記憶し英文を文字に起こす。1回で聞き取れない場合は数回繰返し聞いてみる。
- 聞き取れないところは空欄にしておく。スペルがわからない場合はカタカナでも可。
- 自分で書き取った英文とスクリプトを比較し、聞き取れない理由を分析する。
3.2.2. ディクテーションの効果
- 時間がかかるがリスニング力強化に効果大。
- 聞けない音や苦手な音がわかり、リスニング力の弱点を客観的に理解できる。
- 弱点を集中的に強化することにより発音を矯正することができ、リスニング力を効率的に強化できる(英語の発音の回路を作る)。
- 意味と文の構造 (文法・構文) を意識しながら書き取ることで英文を前から理解する脳回路の基礎を作る。
3.3. ディクトグロス(Dicto-gloss)
ディクトグロスはディクテーションに似ている。違いは、書き取れた単語から推測して文全体を自分で組み立てるところだ。ディクテーションの効果に加えて作文力が強化される。
3.3.1. ディクトグロスの方法
- 自分のレベルに合った音源付きの英文を用意。
- 一文ずつ音源を再生し、スクリプトを見ないで、意味を理解することに集中しながら聴き、聞き取れた単語を書き取る。
- 理解した意味と書き取った単語をもとに想像しながら英文を復元する。
- スクリプトをみて自分が再現した英文と比較し分析する。
3.3.2. ディクトグロスの効果
- ディクトグロスは、聞き取れなかったところを想像しながら文章を組み立てることにより、単語や文法の知識を自分でも使えるようにする。
- 書きながら文章を組み立てることにより、自分の使えるフレーズを脳にしっかりと定着させることができる。
- 聞き取れない音を認識することで弱点補強が可能になり、リスニング力強化及び発音矯正につなげることができる。
- 特に、スピーキング力、ライティング力、リスニング力のアップに有効。
3.4. 音読(Reading aloud)
音読は、英語の語順と発音の回路と、英語を英語のまま理解する英語の回路を作るための基本中の基本トレーニングだ。特に、意味(内容)を理解しながら音読することで戻り訳す癖から脱却する手助けになるトレーニングだ。
なお、音読のやり方や効果についての詳細は「英語の音読|正しいやり方で4技能に効果あり!7つのコツと教材選び」も参考にしてほしい。
3.4.1. 音読の方法
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 意味と文の構造 (文法・構文) を意識しながら声を出して読む。
- 1度音読しても意味がわからない時は繰返し音読してみる。(戻り訳す癖が出るので黙読で理解しようとしないこと。)
- わからない単語や文法・構文がある場合は辞書等で調べて完璧に理解してから、発音があいまいのところやわからないところがある場合は音源で確認してから再度音読すること。
3.4.2. 音読の効果
- 英語・英会話学習の基本中の基本トレーニング。
- 意味と文の構造 (文法・構文) を意識しながら繰り返し音読することで文の構造を無意識的に理解できるようになり、英文を前から理解する脳回路の基礎を作る。
- 発音を意識しながら音読することで適切な発音・音声変化・イントネーテョン・強弱の体得を促す。
3.5. リピーティング(Repeating)
リピーティングは聴いた英文をそのまま繰り返すため、英語を英語のまま、英語の語順で理解する回路を強化できる。発音を意識して行えば発音の回路を強化する効果も期待できる。
3.5.1. リピーティングの方法
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 1文ずつ音源を再生し、スクリプトを見ないで、意味と文の構造を意識しながら聴いて記憶し、音源通りに繰り返す。
- 慣れてきたら発音・音声変化・イントネーテョン・強弱を意識して行う。
- 聞き取れないところがある場合は書き取り(ディクテーション)を行い、聞き取れない理由を分析する。
3.5.2. リピーティングの効果
- リスニング力の確認と発音の矯正に有効なトレーニング。
- 音源を聞いて意味を理解し直ぐに繰り返さなければならないため、日本語に変換するひまがなく英語を英語のまま、英語の語順で理解する能力が向上する。
- 長めのセンテンスを使用すると頭の中で文章を再度組み立てる必要が出てくるので、文法力とスピーキング力の強化にもつながる。
3.6. シャドーイング(Shadowing)
シャドーイングは、英語の語順と発音の回路、そして英語を英語のまま理解する英語の回路を強化するための仕上げのトレーニングだ。
なお、シャドーイングのやり方や効果についての詳細は「英語のシャドーイング|4種類のやり方と効果&6のコツを徹底解説!」も参考にしてほしい。
3.6.1. シャドーイングの方法
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 音源を再生し、スクリプトを見ないで、聞いたそばから(1〜2語遅れて)影のように後について声に出す。
- 必ず意味と文の構造を意識しながら聞くこと。慣れてきたら発音・音声変化・イントネーテョン・強弱を意識して行うこと。
- 聞き取れないところがある場合はディクテーションを行い、聞き取れない理由を分析する。
3.6.2. シャドーイングの効果
- 通訳や同時通訳を目指す方々の基本トレーニング。ビジネスパーソンのリスニング力及びスピーキング力強化にも効果大。
- 音源を聞いて意味を瞬時に理解し、リピーティングよりも早く繰り返さなければならないため、英語を英語のまま、英語の語順で理解する能力が強化される。
- スピードについていくためには正確な発音・音声変化・イントネーテョン・強弱で繰り返す必要があるので、発音矯正や流暢さ向上にも効果大。リスニング力向上にもつながる。
3.7. 多読(Extensive reading)
多読は、やさしい英文を多く読むことで英語脳を強化するトレーニングだ。特に、英語を英語のまま理解する回路と英語の語順の回路を強化することができる。
なお、多読のやり方や効果についての詳細は「英語多読の効果|第二言語習得研究も認めた効果とおすすめ多読法!」も参考にしてほしい。
3.7.1. 多読の方法
- 知らない単語・語句、文法・構文が全体の2〜3%程度の興味のある内容の多読本を用意。
- 英語を英語のまま左から右に、語順通りに読んで理解する。つまり、英文を後ろから前に向かって戻りながら訳す全文和訳はせず、意味や構造の切れ目ごとに理解すること。
- 知らない単語・語句、文法・構文は辞書等で調べず、前後関係から意味を類推しながら読む。
- ストーリー(内容)を楽しむことを忘れずに!つまらなかったら読むのをやめる勇気も必要です。
3.7.2. 多読の効果
- 多量なインプット(読むこと・聞くこと)は言語習得の基本。
- 英文に多くふれることで重要な単語を深く学ぶことができ、また重要な文法・構文に関する知識も蓄積できるため英語力の基礎固めが出来る。
- 単語や文法構造を英語のまま無意識的に理解・解析する自動化が促進される。
- 新しい単語や文法・構文の知識も習得可能。
3.8. 多聴(Extensive listening)
多聴とは英文を多く聴くことだ。ただし、初めて聴いたときに80%程度以上理解できる素材を使用しないとあまり意味がない。やさしい英文を多く聴くことで英語脳を強化することができる。
3.8.1. 多聴の方法
- 知らない単語・語句、文法・構文が全体の2〜3%以下の興味のある内容の音源付き多読本を用意。
- 早速聴いて見る。ストーリー(内容)を楽しみましょう!楽しみながらストーリーが追える限り音源は止めずに聞き続ける。事前に英文は見ないこと。
- 理解できないところは何度か聞いてみる。一通り聞いて80%程度以上理解できない場合はレベルを下げること。
- 最後まで聞いたら多読の要領で英文を読んで内容を確認し、その後再度何度か聞いてみる。
3.8.2. 多聴の効果
- 多量なインプット(聞くこと・読むこと)は言語習得の基本。
- 英文を後ろから戻り訳すことができないため、前から語順通りに理解する英語脳作りが促進される。
- 英語特有の発音・音声変化・強弱・イントネーションに慣れることができ、リスニング及びスピーキング力強化につながる。
- 英文に多くふれることで重要な単語を発音方法を含めて深く学ぶことができ、また重要な文法・構文に関する知識も蓄積できるため英語力の基礎固めが出来る。
以上の8つのうち最も重要なトレーニングは音読とシャドーイングと多読の3つだ。この3つに絞ってトレーニングしてもよい。ただし「これでもか!」というほど繰り返すことだ。どれくらい?効果には個人差があるので一概には言えない。しかしこれだけは言える。繰り返せば繰り返すほど効果は出る。
4. 英語脳を作るための5つのコツと注意点
重要なので繰り返す。英語を習得するということは、英語という言語をもう一つ獲得することだ。つまり英語脳を獲得するということ。あなたの母語である日本語を使って英語を「遠隔操作」することではない。英語脳を獲得するためのコツと注意点を5つご紹介しよう。
4.1. 英単語の日本語の訳語を覚えるのはそこそこに
英語を習得するには、まずは単語を覚える必要がある。学習初期の頃は、英単語の意味をそれに対応する日本語で覚える。例えば、「cat」は「猫」と覚える。しかし、そのように英単語を日本語の訳語で覚えるという学習はのちのち英語力を伸ばす弊害になってくる。
上記でご説明したように、流暢に英語を使えるようになるためには英語を英語のまま使えるようにする必要がある。つまり知識を自動化するということであり英語脳を作るということだ。英語から日本語に、もしくは日本語から英語に転換することから脱却しなければならない。英単語を日本語の訳語で覚えることを続けることは日本語が介入し続けることになり、英語脳を作ることの弊害になるのだ。
ある程度の英単語を日本語の訳語で覚えたら、その後はその学習はやめた方がよい。お薦めは、最重要語3,000語程度を日本語の訳語で覚えたら英英辞典を使用することだ。代表的な英英辞典である「Longman Dictionary of Contemporary English」や「Oxford Advanced Learner’s Dictionary」は3,000語以内で理解できるようになっている。
また多読もおすすめだ。関西学院大学大学院応用言語学教授の門田氏は、自分の実力より若干難しい英語を多く読むことは新しい単語を覚えることにも有効であると指摘している。
4.2. 英語と日本語を行ったり来たりする癖から脱却しよう
英語でスムーズにコミュニケーションできるようになるためには、翻訳しながら(日本語の回路で)英語を使うことはやめて、英語を(英語の回路で)英語のまま使うことを目指そう。翻訳者や通訳者を目指している方以外、英語を日本語に訳せるようになる(またはその逆)必要はない。
英語でコミュニケーションできるようになることと、翻訳や通訳ができるようになることは全く別な能力だ。前者は英語脳を作ることでなるべく日本語の介入を無くして英語の流暢さを向上させる必要があるのに対し、後者は、英語と日本語の転換をスムーズに行う必要がある。翻訳や通訳は常に英語と日本語を行ったり来たりする必要があり、特殊かつ専門的な能力が必要なのだ。
日本語を瞬間的に英語に転換するトレーニングを推奨している方が少なくない。学習初期の頃や通訳を目指す方であれば確かに効果はあると思う。しかし、そのようなトレーニングを続けている限り日本語の介入を無くすことはできない。つまり英語脳を作ることはできないのだ。
4.3. 後ろからの戻り訳しは厳禁だ
日本の中学・高校では「戻り訳し」をすることで英語を日本語に訳しながら「解読」してきた。日本人は英語の知識はあるが使えない。その元凶がこの「戻り訳し」にあると言っても過言ではない。繰り返しになるが、重要なので再度断言する。この戻り訳しをしている限り使える英語は絶対に身につかない。
このコラムをここまでお読みいただいた方であればその理由は理解できるはずだ。上記でご紹介したスラッシュ・リーディングなどのトレーニングを通して、必ず英語を英語の語順で理解できるようになってほしい。
4.4. 英語の発音をあなどらないこと
言語の基本要素は単語・文法・発音の3つしかない。この3つの中で日本人にとって一番重要かつ克服しなければならないのが発音だ。発音は、単語と文法同様、非常に重要なのだが日本の学校教育では無視されてきた。「同時通訳の神様」として知られる英エディンバラ大学客員教授の國弘氏は、「音声面を重視した英語教育をしてこなかったことが、日本の英語教育の最大の過ち」と批判している。
自分で発音できない音は聞き取れない。発音できない音は脳が音として認識してくれないからだ。神奈川大学名誉教授の深澤氏は「正しい発音が身についてくれば、同時にリスニング力も増大する」と指摘している。
東京大学大学院神経生理学准教授の池谷氏は、「(発音は)喉と舌と唇の強調した動きによって作られる運動系。運動能力の可塑性は大人になってからでも衰えない。」と指摘している。つまり、英語の発音は大人になってからでも習得できるということだ。是非、無意識的に正しく発音できるようになるまで自動化トレーニングを繰り返し行なってほしい。
4.5. 学習初期で諦めないこと
英語脳を作るには学習初期段階での努力の継続が重要となる。努力と成果は比例関係ではなく累乗関係にあるので、すぐに成果が現れないからといって諦めてはいけない。
脳科学研究から、学習の効果は上のグラフのように幾何級数的なカーブを描くことがわかっている。東京大学大学院の池谷準教授は、「学習の目標を1000とした場合、学習を始めた時点を1とすると、2、4、8、16、32、64と累積効果を示していく。この時点では1000までは程遠いと思うかもしれないが、128、256、512とくればもう一息で1024になる。このような成長パターンを示すのが脳の性質。」と指摘している。
5. スティーブ・ジョブズと自動化トレーニング
スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチを使って自動化トレーニングに挑戦してみよう。単語・文法・発音の説明も付けたので、上記でご紹介した8つのトレーニングを実際に試して欲しい。
尚、このスピーチは上級者向けなので、初・中級者の方は下記でご紹介する教材で練習することをお薦めする。
My third story is about death. When I was 17, I read a quote that went something like: “If you live each day as if it was your last, someday you’ll most certainly be right.” It made an impression on me, and since then, for the past 33 years, I have looked in the mirror every morning and asked myself: “If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?” And whenever the answer has been “No” for too many days in a row, I know I need to change something.
単語・文法解説:
- quote /kwóut/ (名) 引用文
- a quote that went something like 〜: “that” は関係代名詞。ここでの “go” は「~と言う」の意。 “something like 〜” は「~のようなこと」の意。
- each day: 毎日
- as if ~: あたかも~かのように
- as if it was your last (day): 仮定法過去のため “was” と過去形になっている (文法的には “were” が正式な形)。 “it” は、ここでは日付を述べる文の主語で日本語には訳さない。 “last” のあとに “day” を入れると理解しやすい。全体では「あたかも、あなたの最後の日であるかのように」の意。
- most /móust/ (副) 最も (ここでは比較の意味ではなく強調表現のため通常は “the” をつけない。)
- certainly /sə́ːrtnli/ (副) 確実に
- right /ráit/ (形) 正しい
- you will most certainly be right: “you will be right” に 副詞句の “most certainly” を挿入している。
- impression /impréʃən/ (名) 影響、感銘 ⇨ make an impression on 〜: ~に感銘を与える
- since then: それ以来
- for the past 33 years: ここでの “for” は「〜の間」の意。
- I have looked in the mirror: 継続を表す現在完了形。 “look in the mirror” は「鏡を見る」の意。
- If today were the last day of my life: 仮定法過去の “if” 節。仮定法の場合は、仮定法であることを強調するために “was” ではなく “were”。「今日が私の人生の最後の日であるならば」の意。
- would I want to do what I am about to do today?: 仮定法過去の主節。ここでは疑問文なので「 私は (“what” 以下のことを) したいだろうか?」の意。 “what” は先行詞を含む関係代名詞。 “be about to 〜” は「まさに~しようとしている」の意。 “what” 以下の意味は「私が今日しようとしていること」の意。
- whenever /hwenévər/ (接) ~なときはいつでも
- too /sə́ːrtnli/ (副) あまりに
- in a row: “row” は「列」。「列の中で」から「連続して」の意。
- the answer has been “No” for too many days in a row: 継続を表す現在完了。 “〜の間、答えがずっと “No” である” の意。
- I know I need to change something: “know” の後に “that” が省略されている。 “know” はここでは「(“that” 以下のことが) わかる」の意。
発音解説:
- is about death: “is” の “s” と “about” の “a” が連結、“about” の “t” が脱落して「イザバゥデス」の様に変化。
- read a quote that went something: “read” の “d” がラ行に変化、次の “a” と連結し「レッラ」の様に変化。“quote” の “te”、“that” の最後の “t”、そして “something” の “g” が脱落。全体では「レッラクゥオーッザッウェンサムシン」の様に変化。
- If you live each day as if it was your last, someday you’ll most certainly be right: 意味的に重要な単語 (オレンジ色) が強くゆっくりめに発音され (オレンジ色の単語の太字の部分がアクセントの位置)、それら以外は弱く早く発音されている。
- would I want to do: “would” の “d” がラ行に変化し、次の “I” を連結し「ウライ」の様に変化。“want to” が “wanna” に変化して全体では「ウライワナドゥー」の様に変化。
- what I am about to do : “what” の “t” がラ行に変化し、次の “I” を連結し「ワライ」の様に変化。“I am” が “I’m”、 “I’m” の “m” と “about” の “a” が連結、最後の “t” が脱落して、全体では「ワライマバゥトゥドゥー」。
このスティーブ・ジョブズのスピーチ全文の単語・文法解説と発音解説は別途記事にするので参考にしてほしい。
6. 自動化トレーニング用おすすめ教材
英語脳を作るための自動化トレーニング用の教材を3冊ご紹介しよう。自分の実力よりちょっとだけ上の教材を選ぼう。難し過ぎる教材は自動化には向かないので注意して欲しい。
英会話・ぜったい音読 標準編[講談社]¥1,300+税
TOEIC470〜600点の方を対象とした音読教材の定番。CDも付属している。初級〜中級向けの自動化トレーニング用に適している。シリーズにレベルの違う「入門編」と「挑戦編」がある。中学・高校の英語のテキストから大人でも耐えられる内容のものを掲載。
Business Venture 1[Oxford University Press]¥4,000程度
会話演習用の教材。巻末とCDに収録されている英文が自動化トレーニングに適している。単語と文法はやさしいがスピードはナチュラルなので、中級者以上の方向け。会話の教材としては初級者向け。
公式TOEIC(L&R)問題集[国際ビジネスコミュニケーション協会]¥2,800+税
上級者向け。Section3と4の問題が自動化トレーニング用の素材として使える。ビジネスでよく使われる表現も多く含まれているのでスピーキングにもつなげることができる。TOEICリスニング対策にもなる。
7. 英語脳の作り方|まとめ
- 英語脳は科学的にもその存在が証明されている。英語を流暢に使えるようになるためには英語脳を作る必要がある。
- 言語の要素は単語・文法・発音の3つしかない。英語脳はそれら3つの「知識」を無意識的・自動的に使えるように「自動化」することによって作られる。
- 「自動化」トレーニングは全部で22ある。それらのうち、特に英語脳作りに適したトレーニングは8つある。是非あなたの学習に取り入れてほしい。
- 英語を習得するということは英語という言語をもう一つ獲得すること。つまり英語脳を獲得するということだ。あなたの母語である日本語を使って英語を「遠隔操作」することではない。
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- インプット(読む・聞く)能力向上のための英語脳作りトレーニング法
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