英語の勉強方法で迷っていないだろうか?社会人の皆さまは時間がないので、迷っている時間すらもったいない。
英語は、第二言語習得研究の知見を応用することで効率的に習得できる。第二言語習得研究とは、第二言語(≒外国語)を習得するメカニズムやプロセスの研究、もしくはその研究分野のことだ。
根拠がないことに時間や資金を費やすことはリスクが高すぎる。評価が厳しい社会人の皆さまが納得できる、しっかりとした根拠のある学習方法をご紹介したい。
目次
1. 目標は自由に意思疎通できる英語コミュニケーション力
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社会人の皆さまは「自由に意思疎通できる英語コミュニケーション力」を英語学習の目標として欲しい。それが仕事で必要となる英語力だ。この目標を効率的に達成するための学習方法を下図にまとめた。これが最新の第二言語習得研究の知見をベースとした学習方法だ。

英語の学習は、上図のように「ボトムアップ学習」と「トップダウン学習」の2つに分けられる。詳しくご説明する。
2. 英語の勉強方法|英語の学習はボトムアップ学習が基本
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単語と文法と発音の3つを組み合わせて無限の英文を作れるようにすることが英語習得のメインの学習方法だ。The English Clubではこの学習方法を「ボトムアップ学習」と呼んでいる。
言語の基本要素は単語・文法・発音の3つしかない。文法とは簡単にいうと単語の並べ方だ。つまり、言語を習得するというのは、単語を覚えてその並べ方と発音を覚えることしかない。この「ボトムアップ学習」が、自由に意思疎通できる英語コミュニケーション力を獲得するための基本の学習方法なのだ。
2.1. 単語・文法・発音の知識は「自動化」する必要がある
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言語の基本要素の単語・文法・発音は、知識を得るだけでは英語を自由に使いこなせるようにはならない。それらの知識を、無意識的に、自動的に使えるようにする必要がある。そのことを第二言語習得研究では「自動化」という。脳科学(神経科学)研究では、「エピソード記憶」の「手続き記憶」化と表現する。
知識を「自動化」するには繰り返しトレーニングする必要がある。The English Clubでは、音読やシャドーイング、リフレーズなどを含む22の「自動化トレーニング」を推奨している。第二言語習得研究でも効果が認められているトレーニング法ばかりだ。詳細は後ほどご紹介する。
2.2. 効率的に英語を習得するにはインプットとアウトプットが必要
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英語の習得は、「読む・聞く」(インプット)だけの学習では非効率だ。「話す・書く」(アウトプット)学習も必要だという考え方が第二言語習得研究の主流なのだ。第二言語習得研究の第一人者である米ピッツバーグ大学言語学科教授の白井氏は、「成功の秘訣は、大量のインプットと少量のアウトプット」と表現している。
大量のインプットといっても、意味を理解しないでただ単に聞き流したり、読み流したりしても全く意味がない。意味を理解しながら多くの英語を聞いたり読んだりする必要がある。
「自動化トレーニング」には、音読やシャドーイングなどの主にインプットの能力を鍛えるトレーニングに加えて、リフレーズやサマライズなどのアウトプットの能力を鍛えるトレーニングも含まれている。インプットの能力とアウトプットの能力をバランスよく向上していくことが重要なのだ。
まずは、単語・文法・発音の3つを効率的に学習するための注意点をご紹介する。
2.3. ボトムアップ学習|初心者の単語学習の注意点!
単語については、「どれくらい覚えればよいの?」という質問をよく受ける。結論を先にいうと、第一目標は最重要語2,000語だ。下のグラフにあるように、言語学者3名の研究によると、最重要語2,000語で約80%を占める。
*英ビクトリア大学I.S.P. Nation (2001)「Learning Vocabulary in Another Language」 及び神戸大学・大学院准教授石川慎一郎(2012)「ベーシックコーパス言語学」書き言葉の数値 のデータ基にThe English Club が作成。

学習指導要領では、日本の中学で習う英単語は少なくても1,100語、高校では少なくても2,000語と決められている。最重要語2,000語とは、高校2年生くらいまでに習う単語と考えていい。大学受験を経験している方であれば5〜6,000語、もしくはそれ以上学習していることを考えると、それほど難しいことではない。
ただし、注意点が2つある。
2.3.1. 最重要語は深く学習する必要がある!
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最重要語とは今後繰り返し出会う。しかし、いつも同じ意味や使われ方で出てくるとは限らない。最重要語は色々な意味を持つ場合が多いので、それらを深く学習する必要があるのだ。
例えば、「take」は「取る」と覚えている方も多いと思う。しかし、文脈によっては、「持っていく」や「摂取する」、「買う」などの意味にもなる。「take off」「take over」「take away」など、副詞や前置詞などとくっついて全く別の意味にも派生する。これらを覚えることも重要なのだ。
語彙力と読解力の関係を調べた実験では、知っている単語の「数」よりも、重要語についての知識の「深さ」が読解力と強い相関関係にあったそうだ。
2.3.2. 覚える単語の選別は慎重に!

ご説明したように最重要語2,000語で約80%をカバーできる。一方で、2,001語目から6,000語目の4,000語はたった10%程度しかカバーしない。覚える単語は慎重に選んだ方が賢明だ。
間違っても、10,000番目の単語を一生懸命覚えるようなことはしないで欲しい。一年に一回出会うかどうかわからないような単語を一生懸命覚えることは非効率極まりない。筆者の場合は、大学受験の際に一生懸命覚えた単語のうち、その後全く出会わないのですっかり忘れてしまった単語が多くある。全くの無駄な努力だ。
なお、単語の覚え方についての詳細は、「英単語の覚え方:みんな実践中!8つの基本トレーニングと25のコツ」も参考にして欲しい。
2.4. ボトムアップ学習|初心者の文法学習の注意点!
社会人の皆さまは文法学習が必須だ。第二言語習得研究においても当たり前のことであり、議論の余地はない。
2.4.1. 「子どもは文法を勉強する必要がない」に騙されるな!
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「子どもは文法なんか勉強しなくても、ことばを話せるようになるじゃないか。」と反論する方もいるだろう。確かに子どもは文法を勉強する必要はない。しかし、大人は文法を勉強する必要があるのだ。その理由は脳科学研究で解明されている。
子ども(臨界期前)の脳は丸暗記の能力が高いため、文法のようなルールは自然と身につく。しかし、その丸暗記の能力は年齢とともに低下していくので、大人は意識的に文法を学習する必要があるのだ。大人の脳は、丸暗記の能力は低くなるが、物事をよく理解してその理屈を覚える能力が高くなるので文法を学習する能力も高い。
2.4.2. 文法学習の第一目標は高校1年生
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単語同様、文法の学習もそれほど難しいことではない。第一目標は高校一年くらいまでの文法だ。その理由をご説明する。
英語を効率的に習得するには、「使える英語」と「理解できる英語」を分けて考えた方がよい。「使える英語」の範囲は、「理解できる英語」の範囲より狭くてよい。このことは文法学習だけではなく、単語学習などの英語学習全般に共通することだ。
例えば、日本人として読めるけど書けない漢字は必ずある。つまり、理解はできるが使えないということだ。言語活動においてこのようなことは当然なのだ。
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また、我々英語の非ネイティブが非ネイティブに話すときは、自分の意見とその根拠を、やさしい単語と単純な文法で組み立てたわかりやすい英語で理路整然と明確に表現することが重要となる。ネイティブ並の表現力は必ずしも必要ない。相手も非ネイティブなので、複雑なことを言うと相手も理解できない。
英語のネイティブに対しても難しい英語を使う必要な全くない。一方で、ネイティブが我々非ネイティブに対してやさしい英語を使ってくれると期待してはいけない。
つまり、まずは言いたいことを自由に表現できるための文法(および単語)を身につけることが第一の目標であり、その後、徐々に理解できる範囲を広げていけばよい。言いたいことを自由に表現できるようになるには高校1年までの文法で十分なのだ。
なお、文法の勉強法についての詳細は、「英文法勉強法|科学的トレーニング法8選と8つの基本的な注意点」を参考にして欲しい。
2.5. ボトムアップ学習|初心者の発音学習の注意点!
日本の学校教育では発音はあまり重要視されていない。しかし、単語と文法と同様、発音は非常に重要であり、日本人にとっては最重要課題だといってもよい。神奈川大学名誉教授の深澤氏は、「(日本の学校教育の)「使えない英語」の根本的な要因は、音声学を持たない英語教育にある」と批判している。
2.5.1. 英語には日本語にはない発音が多い
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日本語の母音は5つだが、英語は24もある。日本語の子音は16だが、英語は24もある。英語には日本語にはない発音が非常に多いのだ。この英語の発音数の多さが、日本人の英語が通じない理由でもあり、日本人が英語を聞き取れない理由でもある。
例えば、「she」と「see」の発音の違いだ。日本語で発音すると両方とも同じ「シー」だが、英語での発音は全く異なる。

「she」は日本語の「シー」に近いが、日本語に比べて唇を前にとがらせながら発音する。一方で、「see」は唇を左右横に引っ張りながら発音する。あえてカタカナで書くと「スィー」に近い。「see」は日本語にはない音なので日本人には難しいのだ。
英語は正確に発音しないと理解してもらえない言語だといわれている。そして、自分で発音できない音は聞き取れない。したがって、通じないし聞き取れないということになるのだ。
日本語にない英語の発音は、口の動かし方を意識しながら、なるべく正確に発音できるように繰り返し練習する必要がある。そうすれば必ずリスニング力も向上する。
なお、英語の母音と子音の発音についての詳細は、「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正しよう」を参考にして欲しい。
2.5.2. 英語が聞き取れない最大の理由は音声変化
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英語の発音で日本人が一番苦労するのは音声変化だ。リエゾンともいう。英語は単語と単語がつながって発音され、そのことによって音が消えたり、別の音に変化したりする。このことを音声変化(リエゾン)という。
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例えば、「check it out」(意味:「調べてみよう」)は、ゆっくりと発音されると「チェック イット アウト」だが、ネイティブが普通のスピードで発音すると「チェッケラゥ」になる。
このような音声変化が起こっても聞き取れるようになるには、自分でも発音できるようになることだ。ネイティブの発音をまねて繰り返し練習すれば規則性も理解できるようになり、リスニング力も飛躍的に向上する。
英語の音声変化(リエゾン)についての詳細は、「英語のリエゾン:ジョブズから学ぼう!単純ルールと簡単発音練習法」を参考にして欲しい。
3. 英語の勉強方法|トップダウン学習で流暢さを補足
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社会人の皆さまの目標である「自由に意思疎通できる英語コミュニケーション力」を獲得するための基本の学習は上記で説明したボトムアップ学習だ。しかし、それだけでは効率的ではない。よく使用される定型表現や言い回しを覚えることも必要となる。
3.1. トップダウン学習|ビジネス英語は定型表現が多い
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よく使用される定型表現や言い回しを覚える学習のことを、The English Clubでは「トップダウン学習」と呼んでいる。自分が必要となる定型表現を覚えておけば、そのまま使えるので即効性がある学習方法だ。
日常会話は、その2分の1から3分の1をなんらかの定型表現が占めるといわれている。一方で、フィンランドのトゥルク大学言語センター長のマイク・ネルソンの調査によると、ビジネス英語のような特定の集団内で使われる言葉には、日常会話以上に定型表現が多いそうだ。
3.2. トップダウン学習|自然な表現を使えるようになるには定型表現
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よく使用される定型表現や言い回しを覚えることは、ネイティブ・スピーカーにとって自然な表現で話せるようにするという目的もある。
文法的に正しい英語でも、ネイティブ・スピーカーにとっては奇妙な英文はいくらでも作れる。米ピッツバーグ大学の白井教授は、「単語と文法だけでは自然な英語を習得できないことは明らか」だと指摘している。この問題を克服するには、よく使用される表現や言い回しを覚えることしかない。
トップダウン学習の効率的な方法については、「英語スピーキング|話せない方必読!リハーサルの重要性と注意点5つ」の「トップダウン学習」の項を参考にして欲しい。
4. 失敗は繰り返すな!中・高の英語の勉強方法は何がダメ?
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我々日本人は、中学・高校と6年間英語を勉強してきた。しかし、日本人の英語力はアジアで最低レベルだ。日本人の英語力は中国・韓国・台湾・ベトナム国民より低い。
中学・高校での勉強方法に問題があったに違いない。何がダメだったのだろうか?過ちを繰り返して欲しくないので簡単にご説明しておこう。
なお、日本人の英語力について詳しく知りたい方は、「日本人の英語力がアジア最低の理由と根本的な5つの対策はこれだ!」を参考にしてほしい。
4.1. 中学・高校での英語の勉強法「文法訳読方式」が全ての元凶
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日本の中学・高校での英語の勉強方法は、第二言語習得研究では「文法訳読方式」といわれ、日本人の使えない英語の元凶だとやり玉に挙げられている。「文法訳読方式」とは、文法を重視して日本語に訳して英語を読み解く(解読する)勉強法だ。下の例をみてほしい。
I’m reading a book which I borrowed from the library.
この英文を「文法訳読方式」で解読すると以下のようになる。
私は、図書館から借りた本を読んでいる。
このように、「私は」と主語を訳した後、一番後ろから順番に「戻り訳す」ことになる。なぜなら、英語の語順は日本語のそれとは全く異なるからだ。我々日本人は、英語を解読するために戻り訳すことばかりやってきた。しかし、これが「使えない英語」の元凶なのだ。
リーディングでは戻り訳して理解することは可能だが、リスニングでは戻り訳して理解することはできない。聞いたことばはどんどん消えていくからだ。
4.2. 英語の語順の脳(英語回路)を作る
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英語のリスニング力をアップさせるには、そして使える英語を習得するには、文法訳読方式から脱却しなければならない。具体的には、英語を英語の語順のまま、前から理解できるようにする必要がある。
英語を前から理解できるようにするには、あなたの脳にもう一つ英語の語順の回路を作る必要がある。つまり英語脳を作るということだ。
英語脳は、脳科学(神経科学)研究によってその存在が証明されている。1997年に科学雑誌「Nature」に発表された論文によると、高校生以降に第二言語として英語を習得した人は、母語(日本人の場合は日本語)を使用するときと英語を使用するときでは、脳の別の領域が活動するという実験結果が出たそうだ。
4.3. 英語を英語のまま理解する脳(英語回路)を作る
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そもそも、英語を日本語に訳して理解したり、日本語で考えたことを英語に訳して発信していたらスムーズな会話はできない。日本語を介入させることなく、英語は英語のまま理解し、英語で考えたことを、そのまま英語で発信できるようにすることが我々の究極な目標だ。
そのためには、英語を英語のまま理解する脳(英語回路)を作る必要がある。では、どうすれば英語脳を作ることができるのか。「自動化トレーニング」だ。英語脳(英語回路)を作るというのは「自動化」するということなのだ。
なお、英語脳についての詳細は、「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築しよう!」も参考にしてほしい。
5. 惑わされるな!いきなり英会話スクールはぜったいにダメ!

英会話スクールやオンライン英会話でのビジネス英語の教え方は、電話、ミーティング、プレゼンなど、ビジネスシーン毎によく使用される表現(定型表現)を覚えさせるやり方が多い。つまり、上記で説明した「トップダウン学習」だ。
すでに指摘した通りトップダウン学習は重要だ。即効性もある。しかし、定型表現をいくら覚えても「自由に意思疎通できる英語コミュニケーション力」は獲得できない。単語・文法・発音の3つを組み合わせて無限の英文を作れるようにする「ボトムアップ学習」がメインの学習方法であり、トップダウン学習はあくまで補足の学習方法なのだ。
なお、社会人の初心者の方には、英語の勉強の順番について説明した。「英語勉強の順番|社会人の初心者は3つの基本言語要素から始めよう!」も参考にしてほしい。
6. 流されるな!TOEICだけでは簡単な商談や取引もできない?!
現状、多くの企業では「英語」=「TOEIC(LR)」だ。しかし、TOEIC学習には注意が必要だ。
6.1. TOEIC特化の学習では話せなくなる!


*出典:「PRESIDENT」2011年4月18日号を基にThe English Clubが作成
上のグラフは、雑誌「PRESIDENT」による、30歳以上のビジネス・パーソンへの英語(TOEIC)に関するアンケートの結果だ。これをみると、TOEIC730〜990点という一番高得点の人たちの半数以上の人が「英語で簡単な商談や取引もできない」と回答している。
なぜこのようなことが起こるのか?理由は簡単だ。TOEIC(LR)は「読む・聞く」(インプット)の能力だけを判定するテストだ。「話す・書く」(アウトプット)の能力は判定できない。つまり、TOEICで高得点を取っても、話せないから簡単な商談も取引もできないのだ。これではTOEICで高得点を取っても全く意味がない。
6.2. TOEIC特化の学習は効率が悪い!

さらに脳科学研究では、インプット(読む・聞く)を繰り返すよりも、インプットしたことを繰り返しアウトプット(話す・書く)した方が効率的に学習できると指摘されている。
TOEICの点数ばかりを追い求め「読む・聞く」インプットだけに集中して学習することは、話せなくなるばかりか非効率だということだ。効率的に英語を習得するには、インプット学習とアウトプット学習のバランスに注意する必要がある。
7. 英語の初心者必読!知っておきたい2つの重要ポイント

英語の初心者の方が学習を開始する上で、理解しておいて頂きたい重要なポイントが2つある。
- 英語は「勉強」ではなく「学習」。
- 英語は決して難しくないが時間がかかる。
7.1. 英語は「勉強」ではなく「学習」

英語は数学や経済学などの「学問」ではない。学問は「勉強」するものだが、英語は繰り返すことが重要な「学習」だ。
「勉強」は人間にしかできない。人間以外の動物は勉強はできない。しかし、人間以外の動物でも「学習」はできる。有名なのが「パブロフの犬」だ。餌を与える前にベルを鳴らすことを繰り返していると、ベルを鳴らしただけで唾液を垂らすようになる。ベルが鳴ると餌がもらえると「学習」するのだ。学習とは体験などによって知識・経験を蓄えることをいう。
英語学習も繰り返すことによって知識・経験を蓄える学習なのだ。
7.2. 英語は決して難しくないが時間がかかる

英語を習得するためにやらなければならないことは決して難しくない。しかし、英語は学習だ。学習するには繰り返しが必要となる。したがって、どうしてもある程度の時間がかかるということを理解して頂きたい。
色々な人が様々な英語学習法を推奨しているが、「あっという間にペラペラ」など、英語はすぐに習得できるというような宣伝文句は一切信じない方がいい。
8. 英語を習得するにはどれくらいの時間がかかるの?

学習方法を離れて、最後に英語を習得するのに必要な学習時間についてご説明したい。必要な学習時間がわかれば、モーティベーションも維持しやすくなるだろう。
8.1. 英語の習得はトータル3000時間の学習が必要
アメリカ国務省の外交官養成局が、67の外国語を習得するために必要な学習時間を公表している。それによると、英語のネイティブ・スピーカーが、日本語の知識がゼロの状態から、仕事で使用できるレベルになるまでに必要な学習時間は2,200時間としている。

*U.S. Department of Stateのデータ基にThe English Club が作成。
日本人は通常、中学・高校で790時間の英語の授業を受けている。予習・復習、および受験勉強で同じくらいの時間を費やした場合、その時点で約1,600時間である。大学での英語の授業などの300時間程度を更に加えると、2,200時間まであと300時間だ。
では、大学を卒業してから英語の学習を何もしていない場合、あと300時間学習すれば仕事で使用できるレベルになるのだろうか?答えは「ノー」だ。理由は、中学・高校(および大学)での効率の悪い学習方法にある。
他の統計や、The English Clubの講師へのアンケートなどを考慮すると、大学を卒業してから英語の学習を何もしていないのであれば、最低でも1,000時間の学習が必要である。トータルで約3,000時間だ。
なお、英語習得に必要な学習時間についての詳細は、「英語習得には最低3000時間必要!達成するための11のコツと習慣」を参考にしてほしい。
8.2. 社会人の英語学習時間の現実的な目標は1日90分を2年間
昨今の新入社員(上場企業)のTOEICの平均点は540点程度だ。約2,000時間学習して540という点数は決して高いとはいえないが、中・高での学習方法を考えれば致し方ないだろう。

The English Clubの新入社員研修では、あと1,000時間の学習で「話せるTOEIC900点」を目標とすることを推奨している。なぜ、「話せる」がついているのか?皆さまはご理解できるはずだ。
これから英語の学習を再開する社会人の初心者の皆さまも、この1,000時間を目標にして頂きたい。
The English Clubのプラーベート・セッションは、基本週1回75分だ。例えばセッションだけ受け、他に何もしない場合では年間で65時間にしかならない。1,000時間カバーするには15年以上かかる。毎日の自主学習が重要だということが理解できるはずだ。
1日90分英語学習の時間を取れば、2年で1,000時間をカバーできる。忙しい皆さまは無理だと思うかもしれない。しかし、隙間時間やながら時間を活用すれば、どんなに忙しい方でも90分くらいは絶対に確保できるはずだ。
9. 英語の勉強方法|初心者におすすめ自動化トレーニングリスト

知識を「自動化」するためのトレーニング方法をご紹介しよう。つまり、「英語脳(英語回路)」を作り、そして強化するためのトレーニング方法だ。The English Clubでは「自動化トレーニング」と呼んでおり、下図のように全部で22のトレーニグが含まれている。

上の図では、22のトレーニングを使う体の部分「口」「耳」「目」(「手」)で分けている。人間の脳は色々な方向から刺激してやると記憶の定着が促進される。それら4つの部分を全部使って体全体でトレーニングしてほしい。
また、人間の脳は、記憶したり自動化したりするには繰り返しを要求する。「これでもか!」というぐらい繰り返しトレーニングすることも重要だ。
それでは、22のトレーニングのうち、社会人の初心者の皆さまには絶対に外せない10のトレーニングのやり方と効果をご紹介しよう。
9.1. ディクテーション(Dictation)
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9.1.1. ディクテーションのやり方
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 一文ずつ音源を再生しながら書き取る。(意味と文の構造を意識しながら聞いて記憶し、英文を文字に起こすこと。)
- 一回で聞き取れない場合は、数回繰返し聞いてみる。(聞き取れないところは空欄にしておく。スペルがわからない場合はカタカナでも可。)
- 書き取ったものとスクリプト(英文)とを比較し、聞き取れなかった理由を検証する。
9.1.2. ディクテーションの効果
- 手間はかかるが、リスニング力強化に効果大。
- 自分の苦手な音がわかり、リスニング力の弱点を客観的に理解できる。
- 弱点を集中的に強化することにより、リスニング力を効率的に強化できる。
- 意味と文法を意識しながら書き取ることで、英文を前から理解する脳回路の基礎を作る。
ディクテーションについての詳細は、「英語ディクテーション|リスニング力だけじゃない!4技能に効果あり」を参考にしてほしい。
9.2. 音読(Reading aloud)
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9.2.1. 音読のやり方
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 意味と文法と発音を意識しながら声を出して読む。
- 一度音読しても意味がわからない場合は、繰返し音読してみる。(黙読して理解しようとすると、戻り訳す癖が出ることがあるので注意が必要。)
- 繰り返し音読しても意味がわからない場合は、単語や文法を辞書等で調べて完璧に理解してから再度音読する。
- 発音があいまいなところ、わからないところがある場合は、音源で確認してから、再度音読する。
9.2.2. 音読の効果
- 英語・英会話学習の基本中の基本トレーニング。
- 意味と文の構造 (文法・構文) を意識しながら音読を繰り返すことで、文の構造も無意識的に理解できるようになり、英語を英語のまま、前から理解する脳回路の基礎を作る。
- 発音を意識しながら音読することで、適切な発音・音声変化・イントネーテョン・強弱の体得を促す。
音読についての詳細は、「英語の音読|正しいやり方で4技能に効果あり!7つのコツと教材選び」を参考にしてほしい。
9.3. スラッシュ・リーディング(Slash reading)
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9.3.1. スラッシュ・リーディングのやり方
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 数語ごとの意味の切れ目にスラッシュ(/)を入れながら、戻り訳しをせずに、そのかたまり毎に意味を理解しながら読む。
- 意味が取りづらいときは、かたまり毎に日本語に訳しながら読んでみる。
- 最後までスラッシュを入れたら、再度最初から、かたまり毎に意味を理解しながら声を出して読む(音読)。
- わからない単語や文法がある場合は、辞書等で調べて完璧に理解してから、発音があいまいのところ、わからないところがある場合は、音源で確認してから、再度行うこと。
9.3.2. スラッシュ・リーディングの効果
- どうしても後ろから戻り訳す癖が抜けない方向け矯正法。
- 意味のかたまり毎に前から順番に理解することにより、後ろから戻り訳す癖を矯正し、英語の語順の脳回路の基礎を作る。
- 英文を前から理解できるようになり、特にリーディング力とリスニング力の向上につながる。
9.4. リップ・シンク(Lip sync)
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9.4.1. リップ・シンクのやり方
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 意味と文の構造 (文法・構文)を意識して、音源を聴きながらスクリプト(英文)を目で追い、同時に音源に合わせて口パクする。
- わからない単語や文法がある場合は、辞書等で調べて完璧に理解してから再度行う。
- 意味を理解しながらできるようになったら、発音・アクセント・音声変化・イントネーテョン・強弱を意識して、スムーズについていけるまで繰り返す。
9.4.2. リップ・シンクの効果
- オーバーラッピングの準備(代替)トレーニング。声を出せない状況でも練習可。
- 音源を聞きながら、意味と文の構造 (文法・構文) を意識して目でスクリプト(英文)を追うことで処理速度が上がり、英語の語順の脳回路の強化につながる。
- 日本語にはない口の動かし方を意識しながら口パクすることで、文字と発音方法をつなげ、ナチュラルなスピードの中での、適切な発音方法の体得を促す。
9.5. オーバーラピング(Overlapping)
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9.5.1. オーバーラピングのやり方
- リップ・シンクでスピードに慣れてきたら、実際に声を出してみる。
- 音源を聞きながらスクリプト(英文)を目で追い、同時に音源にぴったりと重ねて発話する。スピードについていけない場合は、そこだけ繰り返し練習する。
- 発音・アクセント・音声変化・イントネーテョン・強弱を意識して、スムーズについていけるようになったら、今度は意味と文の構造 (文法・構文) を意識して行う。
- わからない単語や文法・構文・発音方法がある場合は、調べて完璧に理解してから、再度行う。
9.5.2. オーバーラピングの効果
- インプット(読む・聞く)からアウトプット(話す)へつなげるトレーニング。
- 聞いて、読んで、声に出す。この3つを同時に行うことで、音と文字をつなげ、英語特有の発音・アクセント・音声変化・イントネーテョン・強弱、そしてスピードの体得を促す。
- 意味と文の構造 (文法・構文) を意識して行うと、音・文字・意味の3つをつなげることができ、英語を英語のまま理解する英語脳の強化が可能。
9.6. ルックアップ&セイ(Look-up & say)
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9.6.1. ルックアップ&セイのやり方
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 英文をワンセンテンス読み (黙読)、文の構造を意識しながら意味を理解したあと、顔を上げて (look-up)、意味と文法を意識しながら一文を声に出して再生する(say)。
- 慣れてきたら、発音・アクセント・音声変化・イントネーテョン・強弱を意識して行うこと。
- ④ 発音が曖昧な部分は音源、意味がわからないところは辞書とうで確認してから再度繰り返し行うこと。
9.6.2. ルックアップ&セイの効果
- 短期記憶(リテンション)の強化に有効なトレーニング。
- センテンスを見て理解し、直ぐに顔を上げて声に出さなければならないため、日本語に変換するひまがなく、英語を英語のまま、英語の語順で理解する能力が向上する。
- 全文を記憶することが難しい長めのセンテンスを使用すると、頭の中で文章を再度組み立てる必要が出てくるので、文法力とスピーキング力の強化にもつながる。
9.7. シャドーイング(Shadowing)
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9.7.1. シャドーイングのやり方
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 音源を再生し、スクリプト(英文)を見ないで、聞いたそばから(1〜2語遅れて)影のように後について声に出す。
- 必ず、意味と文法を意識しながら聞くこと。慣れてきたら発音・アクセント・音声変化・イントネーテョン・強弱を意識して行うこと。
- 聞き取れないところがある場合は、書き取り(ディクテーション)をし、聞き取れない理由を分析すること。
9.7.2. シャドーイングの効果
- 同時通訳を目指す方々の基本トレーニング。ビジネスパーソンのリスニング力及びスピーキング力強化にも効果大。
- 音源を聞いて意味を瞬時に理解し、素早く繰り返さなければならないため、英語を英語のまま、英語の語順で理解する能力が強化される。
- スピードについていくためには、正確な発音・アクセント・音声変化・イントネーテョン・強弱で繰り返す必要があるので、発音矯正や流暢さ向上にも効果大。リスニング力向上にもつながる。
シャドーイングについての詳細は、「英語のシャドーイング|4種類のやり方と効果&6のコツを徹底解説!」を参考にしてほしい。
9.8. リフレージング(Rephrasing)
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9.8.1. リフレージングのやり方
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 一文ずつ音源を再生し、スクリプト(英文)を見ないで、意味を意識しながら聞き、同じ意味になるように別の英文に言い換える。(言い換える前に、音源通りにリピートすると英文の理解が深まる。)
- 理解した意味を、別の英文1文で表現することが難しい場合は、2〜3文に分けて表現してみる。
- 頭の中で作文することが難しい場合は書き出してから暗唱する。
9.8.2. リフレージングの効果
- 日本語を介入させないで、様々な言い回し(表現方法)を使えるようにするトレーニング。
- 色々な言い回しや表現方法を頭の中に蓄積し、使えるようにすることで、スピーキングの流暢さを向上させる。
- 英語を英語のまま理解し、その英文を他の英文に(日本語を介入させないで)言い換えることで英語脳を強化できる。
9.9. サマライジング(Summarizing)
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9.9.1. サマライジングのやり方
- 自分のレベルにあった音源付きの英文を用意。
- 長めの英文の音源を最後まで通して再生し、スクリプト(英文)を見ないで、意味に意識を集中しながら聞いたあと、自分のことば(英語)で要約する。
- 頭の中で作文することが難しい場合は書き出し暗唱する。
- 英文の概略をあまり理解できない場合や、思うように要約できない場合は、何度か繰り返し聞いてみる。
- 最後にスクリプト(英文)を見て内容を確認し、再度自分のことばで要約してみる。
9.9.2. サマライジングの効果
- 日本語を介入させないで、言いたいことを英語で話すトレーニング。
- 長めで難易度が高めの英文をノンストップで聞くことにより、英語を英語のまま理解し、全体の概略を把握する能力が向上する。
- 聞いた長めの英文を、英語のまま要約し声に出すことで、頭に浮かんだ言いたいことを、日本語を介入させることなく英語にする能力を向上させ、スピーキングの流暢さ向上につなげる。
9.10. 多読(Extensive reading)
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9.10.1. 多読のやり方
- 知らない単語・語句、文法・構文が全体の2〜3%程度の、興味のある内容の多読本を用意。
- 英語を英語のまま左から右に、語順通りに読んで理解する。つまり、英文を後ろから前に向かって戻りながら訳す全文和訳はせず、意味や構造の切れ目ごとに前から理解しながら読む。
- 知らない単語・語句、文法・構文は辞書等で調べず、前後関係から意味を類推しながら読む。
- ストーリー(内容)を楽しむことを忘れずに!つまらなかったら読むのをやめる勇気も重要。
9.10.2. 多読の効果
- 多量なインプット(読むこと・聞くこと)は言語習得の基本。
- 英文に多く触れることで重要な単語を深く学ぶことができ、また重要な文法・構文に関する知識も蓄積できるため、英語力の基礎固めが出来る。
- 単語や文法構造を、英語のまま無意識的に理解・解析する「自動化」が促進される。
- 知らない単語・語句、文法・構文が全体の2〜3%程度の素材を使用すれば、新しい単語や文法・構文の知識も習得可能。
多読についての詳細は、「英語多読の効果|第二言語習得研究も認めた効果とおすすめ多読法!」を参考にしてほしい。
10. 英語の勉強方法|まとめ
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- 社会人の皆さまが仕事で必要となる英語力は「自由に意思疎通できる英語コミュニケーション力」だ。この目標を効率的に達成するために必要な学習は、ボトムアップ学習とトップダウン学習の2つだ。
- 単語と文法と発音の3つを組み合わせて無限の英文を作れるようにするボトムアップ学習が英語習得のメインの学習方法だ。
- 単語・文法・発音の知識は「自動化」する必要がある。そのためには「読む・聞く」インプットと、「書く・話す」アウトプットのトレーニングをバランスよく行うことが重要だ。
- 定型表現や言い回しを覚えるトップダウン学習も重要だ。自然な表現を使えるようになり、流暢さも向上させることができる。
- 中学・高校の英語の勉強は文法訳読方式であり、使える英語を身につける方法ではなかった。間違いは繰り返さないで欲しい。
- 英会話スクールはトップダウン学習のみになってしまう。TOEICに特化した学習は、話せなくなり仕事で使えない状況に陥る。
- 英語を習得するためにやらなければならないことは決して難しくはない。しかし英語は繰り返しが必要なので時間がかかる。大学卒業以来何もしていなければ1,000時間の学習を目標にしよう。
『英語独学完全マニュアル』
独学で効率的に習得する科学的学習法の全て(全79ページ)
英語は独学が基本です。しかし、「自分の学習方法が正しいかどうか…」不安に思っていませんか?本書は、英語の学習方法についてお悩みの皆さまに、第二言語習得研究と脳科学(神経科学)研究の知見に基づいた真に効率的な英語学習法をご紹介する解説書です。
無料eBookの主な内容
- 単語・文法・発音の効率的な基礎力強化方法
- インプット(読む・聞く)能力向上のための英語脳作りトレーニング法
- アウトプット(話す・書く)能力向上のためのリハーサル・トレーニング法
- 学習計画の立て方と効率性を上げるための学習習慣
そろそろ本気で英語を習得したいとお考えの方におすすめです。また、「英会話スクールに通っているけど思うように上達しない…」「TOEICで高得点を取ったけど話せない…」などでお悩みの皆さまも是非ご一読ください。