英語のディクテーションは奥が深い。音声を聴いて書き取るだけだが、英語力の全てを分析できるといっても過言ではない。また、ディクテーションは、トレーニングとして総合的な英語力を向上させることもできる。
「科学的な外国語学習法」(講談社)の著者で言語教育学者である佐伯氏によると、ヨーロッパでの外国語学習では、このディクテーションは非常に重要視されているそうだ。授業や試験でもよく行われているという。なぜか?その理由となるディクテーションの効果とやり方を詳しく説明しよう。あなたの英語学習に取り入れていただければ、学習の効率性が飛躍的にアップするだろう。
目次
1. 英語のディクテーションとは?
英語のディクテーション(Dictation)とは、聴いた英語を書き取る練習。リスニング力だけではなく、つづりや発音、文章の分析や文を組み立てる能力、単語や文法の知識の自動化を試すことができる。そしてそれらを強化できるトレーニング方法でもある。
ディクテーションは、日本でもかなり前から推奨されているトレーニングだが、学校教育では全くといっていいほど無視されてきた。再注目されるべき重要なトレーニング方法の一つである。
2. ディクテーションの効果|自分の弱点を克服できる!
ディクテーションを行うことにより、あなたが英語を聞き取れない原因がわかる。その弱点を克服できれば、リスニング力だけではなく、英語力そのものを向上させることができる。
日本人が英語を聞き取れない原因は大きく分けて4つある。
- 英単語と英文法の知識不足
- 英語の発音に慣れていない
- 英語の語順に慣れていない
- スピードに慣れていない
あなたが英語を聞き取れない原因は、必ずこれら4つのうちのどれかにあてはまるはずだ。それは同時にあなたの英語力が向上しない根本的な原因でもある。複数当てはまる場合もあるだろう。効率的に英語力を向上したいのであれば、ディクテーションで聞き取れない原因を検証し、それらの弱点を地道に克服していくことをおすすめする。
2.1. ディクテーションで自分の弱点を知る方法
あなたが英語を聞き取れない原因、つまりあなたの弱点を知る方法をご紹介しよう。
2.1.1. ディクテーション用英語素材の準備
まずはディクテーション用の英文と音源の準備だ。必ず自分の学習レベルに合ったものを選ぼう。英単語と文章構造の難易度、文の長さ、音源のスピードに注意して選んでほしい。簡単すぎると弱点がわからなくなってしまう。難しすぎると4つ全てが弱点になってしまう。
2.1.2. 英文を見ないで音源を聴き書き取る
ディクテーションを始めよう。一文聴いたら一旦音源を止めて書き取る。聞き取れない場合は何回か繰り返し聴いてみよう。前もって英文は絶対に見ないこと。
2.1.3. 聞き取れない理由の確認
聞き取れない理由を突き止めよう。それは英文(スクリプト)を読んで理解できる場合と、できない場合と大きく2つに分かれる。
- 英文を読んでも理解できない場合
• 英単語と英文法の知識不足:読んでも理解できなければ聞いても理解できない。基礎力が足りない。 - 英文を読めば理解できるが聞き取れない場合
• 英語の発音に慣れていない:単語の発音方法やアクセントの位置を間違って覚えていたり、音と音がつながって発音されていると聞き取れない。
• 英語の語順に慣れていない:英文を戻り訳すなどして「解読」すれば理解できるが、英文を前から理解できないので聞き取れない。
• スピードに慣れていない:音声をゆっくりモードで再生すれば聞き取れるが、速くなると聞き取れない。
あなたの弱点がわかったら、その弱点を克服しよう。
2.2. 英単語と英文法の知識不足を克服する方法
音源を聴いても理解できないし、英文(スクリプト)を見ても理解できない場合は、単純に単語と文法の知識が不足していることが原因だ。この場合は、単語を覚えて、文法を理解する基本から始める必要がある。
ディクテーションは単語や文法の知識を定着させるトレーングでもある。ディクテーションは「耳」と「手」を使うトレーニングだ。書き取るとき、もしくは書き取った後に、自分で発音すれば「口」を使うことになる。書き取ったものを自分で読めば「目」も使う。つまりディクテーションは「耳」「手」「口」「目」の4つを使うトレーニングにできる。脳をあらゆる方向から刺激することで脳への定着が促進できる効率的なトレーニングなのだ。
英単語と英文法については、ディクテーションの他にも色々はトレーニング方法がある。
英単語の覚え方については「英単語の覚え方|みんな実践中!8つの基本トレーニングと25のコツ」、英文法の勉強法については「英文法勉強法|科学的トレーニング法8選と8つの基本的な注意点」を参考にしてほしい。
2.3. 英語の発音を克服する方法
スクリプトを見れば理解できるが、聞き取れない場合の一つ目の原因は発音だ。英語の発音で重要なことは5つある。
- 日本語にない母音と子音: 日本語の母音は5だが英語は24。子音は16に対して24。
- 単語のアクセントの位置: 英単語はアクセントの位置を間違えると理解してもらえない。
- リエゾン: 単語と単語がつながって発音されるので理解しにくくなる。
- リズム(強弱): 弱く速く発音されるところが聞き取りにくくなる。
- イントネーション: 抑揚の違いで異なる意味を表現することができる。
特に重要なのは 1. 2. 3. の3つだ。これらを克服するには、自分でも発音できるようになることだ。それら3つを意識しながらディクテーションし、そして自分でも音源そっくりに発音してみる。それを繰り返すことで正しい発音が身についていく。
自分でも正しく発音できるようになれば、必ずリスニング力も向上する。自分で発音できない音は、脳が音と認識してくれないため聞き取れないのだ。
なお、上記5つについての詳細は下記を参考にして欲しい。
• 母音と子音:「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正しよう」
• アクセント:「英語のアクセント|英単語のアクセントは基礎と応用8のルールで完璧」
• リエゾン:「英語のリエゾン|ジョブズから学ぼう!単純ルールと簡単発音練習法」
• リズム:「英語のリズム|意外に重要!4つの法則と効果的な練習で使える英語に」
• イントネーション:「英語のイントネーション|基礎と応用15のルールとおすすめ学習法!」
2.4. 英語の語順を克服する方法
スクリプトを見れば理解できるが、聞き取れない場合の二つ目の原因は語順だ。
聞き取れるようになるためには、英語を語順通りに、前から理解できるようにする必要がある。つまり、英語の語順の回路(英語脳/英語回路)を作る必要があるのだ。日本語と英語の語順は全くといっていいほど違う。我々日本人は、中学・高校で、英文を後ろから戻り訳して理解することを習ってきた。それが癖になっていると聴いた英語は聞き取れない。後ろから戻り訳せないからだ。
語順は文法によって定められている。文法の知識は、無意識的、そして「自動的」に使えるようにしなければ全く意味がない。第二言語習得研究では、それを「自動化」という。日本人の最重要課題だ。文法知識の自動化が進めば、英語の語順のまま、英文を前から理解できるようになる。ディクテーションを繰り返せば英語脳を構築することもでき、4技能も向上させることができるのだ。
英語脳(英語回路)を作るとレーニングはディクテーションの他にも色々ある。「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築しよう!」が参考になるはずだ。
2.5. 英語のスピードを克服する方法
スクリプトを見れば理解できるが、聞き取れない場合の三つ目の原因はスピードだ。
ゆっくりと話してくれれば聞き取れるが、ナチュラルスピードでは処理能力が追いついていかないため聞き取れない。その場合は、英語を英語のまま、そして英語の語順のまま理解するための英語脳(英語回路)を強化する必要がある。
スピードを克服するには、上記でご説明した文法知識の自動化に加えて、英単語の自動化も必要だ。つまり、英単語の意味をいちいち日本語に訳さないで英語のまま理解できるようにする必要がある。そうすれば処理スピードが速くなる。ディクテーションは自動化を促進し、そして4技能全てを強化できるトレーニングの一つだ。
なお、日本人が英語を聞き取れない理由と対策の詳細については、「英語のリスニング|5つの聞き取れない理由と対策&コツ3つを伝授!」も参考になるはずだ。
3. ディクテーションの効果|アウトプットの能力も向上!
ディクテーションの効果は、リスニング力の向上ばかりが注目されるが、スピーキングとライティングのアウトプット能力の向上にも高い効果が期待できる。ディクテーションによって、英文を組み立てる能力や英語を分析する能力も向上させることができるからだ。
3.1. ディクテーションで英文を組み立てる能力アップ
ディクテーションをトレーニングとして繰り返せば、英文を組み立てる能力をアップさせることもできる。スピーキング力とライティング力の向上にも高い効果があるということだ。
ディクテーションする際、一字一句全てを覚えようとして聞くとなかなか書き取れない。全体の意味(内容)を理解することに意識を集中すると書き取れる場合が多い。もし、一字一句書き取れない場合でも、意味を理解できていれば、自分の言葉で文章を組み立て直してみる(リフレーズ)。それを繰り返すことでスピーキング力とライティング力もアップするのだ。
3.2. ディクテーションで英語の分析力アップ
ディクテーションには、自分で書いた文章の間違いを見つける作業が含まれる。それを繰り返すことで英語の文章を分析する力がつくのだ。そのことが英語力全体を押し上げてくれる。特にスピーキング力とライティング力の向上に効果がある。
ディクテーションをやってみると、書き取った英文が文法的におかしい場合がある。聞き違いや聞落としが原因だ。最初は自分ではどこが間違っているのかわからないかもしれないが、繰り返しやっていると次第にわかってくる。人に間違いを指摘されてもすぐに忘れてしまうが、自分自身で気づくことで、その間違いは繰り返さなくなる。
4. 全文ディクテーションと穴埋めディクテーション
ディクテーションのやり方は大きく分けて2つある。一文(1つのセンテンス)全てを書き取る「全文ディクテーション」と、一文のうちのいくつかの単語だけを空欄にしておき、そこだけ書き取る「穴埋めディクテーション」だ。それぞれ効果が異なるので注意が必要だ。
4.1. 全文ディクテーション
The English Clubがおすすめするディクテーションは、聞いた英文の全文を書き取る全文ディクテーションだ。上記で説明した全ての効果が期待できる。効果を最大限に引き出すために注意しなければならないのは、音源を聞くときは、一字一句全てを覚えようとするのではなく、全体の意味(内容)を理解することに意識を集中することだ。そうすれば高い効果が期待できる。
4.2. 穴埋めディクテーション
一方で、一文のうちのいくつかの単語のみを書きとらせる穴埋めディクテーションは、限られた効果しか期待できない。どうしても空欄のところを聞き取ろうとする意識が高くなる。一文全体の「意味」を把握しようという意識が働かなくなる傾向があるので効果が限定されるのだ。
穴埋めディクテーションは発音に慣れる効果はある。例えば、リエゾンしているところや、リズム(強弱)の弱いところが空欄になっているものを使用すれば効果的だ。また、リズムの強いところを空欄にして、全部聞き取れなくても概略の意味を取れるようにする練習にもいい。しかし、現実的にはそのような教材を見つけることは難しいし、作るには手間がかかる。
5. ボトムアップ・ディクテーションとトップダウン・ディクテーション
ディクテーションは、どのような教材を使うかによって2つに分けられる。初めて見聞きする英文素材を使用して行うボトムアップ・ディクテーションと、事前に学習した素材を使用して行うトップダウン・ディクテーションだ。それぞれ効果が異なる。
これらの2つのディクテーションは、フランスやイタリアなどの学校の語学教育で実際に取り入れられているやり方を参考にしている。言語教育学者の佐伯氏が、著書「科学的な外国語学習法」(講談社)のなかで紹介しているやり方を参考に、The English Clubが再構成した。両方とも全文ディクテーションを前提としている。
5.1. ボトムアップ・ディクテーションのやり方
ボトムアップ・ディクテーションは、英文の内容を前もって確認せずに、いきなりディクテーションを行うやり方だ。このボトムアップの方法は、上記で説明した全ての効果が期待できる。流れをご説明しよう。
5.1.1. 全文リスニング(1回目)
ディクテーションの前に、英文を見ないで音源を一度全文通して聴く。一文(センテンス)毎に止めない。全体の内容の概要をつかむことが目的だ。
5.1.2. ディクテーション
センテンス毎に音源を止めながら書き取る。音源を聴くときは、必ず意味(内容)を意識して聴くこと。一字一句全てを覚えようとすると、意味に意識がいかなくなり、逆に書き取れなくなる。一字一句書き取れない場合は、理解した意味を基に自分の言葉で書き直し(リフレーズ)してみる。聞き取れないところが多い場合は、数回繰り返し聞いてもよい。
聞き取れなかった単語は空欄にしておくといい。スペルが曖昧なところはカタカナで書いておいてもいい。
音源を聴いた後、書き取る前に自分でも発音してみると忘れにくくなる。そして再度自分で発音しながら書き取ることで発音矯正にもなり、知識の定着も促進する。
5.1.3. 全文リスニング(2回目)
もう一度、音源を全文通して聴く。一文(センテンス)毎に止めないこと。書き取ったものを目で追いながら加筆・修正する。
5.1.4. 間違いチェック|閉本
教材を見ないで、書き取ったものを自分でチェックする。ここが一番重要だ。自分が書いた英文の間違いを自分で気付くことで、同じ間違いを繰り返さなくなる。
例えば、スペルは合っているか?意味的におかしくないか?三単現の「s」が抜けていないか?複数形の名詞の「s」が抜けていないか?冠詞(the/a/an)や前置詞(at/for/toなど)が抜けていないか?他動詞の後の目的語が抜けていないか?などなど。考えられる限り自分でチェックしてほしい。
また、書き取れなかった部分にどのような単語が入るのかを想像してみよう。全体の内容から、どのような意味の単語が入るのか、文の構造からどのような品詞(名詞や動詞など)の単語が入るのか考えてみる。そうすることで、スピーキングやライティングの能力向上にもつなげることができる。
5.1.5. 間違いチェック|開本
教材を開いて、自分の書いたものと照らし合わせてチェックする。間違えた理由を必ず考えること。例えば、ただ単に単語を知らなかっただけなのか。冠詞や前置詞が抜けていたら、なぜそれらが必要なのか。書き取れなかったところは、意味的、品詞的に想像と合っていたかどうか。合っていない場合はなぜ合っていなかったのかなどについて考えてみる。
5.1.6. 間違いチェック|リスニング
書き取ったものを目で追いながら、一文一文聞いてみる。ここでは、聞き取れなかった理由を必ず考えよう。理由がわかれば対策はある。リスニング力をアップさせるためには必須の工程だ。
単語の発音方法やアクセントの位置を間違って覚えていたのか?単語と単語がつながって発音されていたから聞き取れなかったのか?速くて聞き取れなかったのか?英文を前から理解できていないからか?このうちのどれかが聞き取れなかった原因のはずだ。
聞き取れなかった原因がわかったら、上記でご紹介した対策を実践しよう。
5.2. トップダウン・ディクテーションのやり方
トップダウン・ディクテーションは、あらかじめ内容を学習した英文を、仕上げとしてディクテーションするやり方だ。こちらは、上記でご説明した効果のうち、発音矯正、知識の定着と自動化、処理スピードの向上が期待できる。流れをご説明しよう。
5.2.1. 英文素材の学習
ディクテーションで使用する英文の内容を前もって理解しておく。知らない単語や文法事項(文の構造)があれば調べる。可能な限り完璧に理解しておくこと。理解度が高ければ高いほど効果が高くなる。
5.2.2. ディクテーション
やり方はボトムアップの時と同じだ。音源を聴くときは、必ず意味を意識して聴くこと。一字一句書き取れない場合は、理解した意味を基に自分の言葉で書き直し(リフレーズ)してみる。
5.2.3. 間違いチェック
ディクテーション前に英文の内容を確認しているので、間違いは多くないはずだ。間違ったところは必ず理由を突き止めること。単語と文法の知識が定着していないからか?発音の問題か?スピードの問題か?語順の問題か?この作業をやらなければ、ディクテーションをやる意味は全くない。
聞き取れなかった原因がわかったら、上記でご紹介した対策を実践しよう。
6. ディクテーションと他のトレーニングの組み合わせ
ディクテーション単独で行っても高い効果は得られる。しかしそれだけではもったいない。ディクテーションのあとに、同じ素材を使って他のトレーニングをすることで、ディクテーションの効果を最大限に引き出すことができる。その流れをご紹介しよう。
ディクテーションを含めたこれらのトレーニングは、単語や文法の知識と英語独特の発音を、無意識的そして自動的に使えるようにするトレーニングだ。The English Clubでは「自動化トレーニング」と呼んでいる。一つ一つ説明しよう。
6.1. ボトムアップ・ディクテーション(Bottom-up Dictation)
ボトムアップ・ディクテーションから始めることをおすすめする。トップダウン・ディクテーションから始めても問題ないが、効果が限定されてしまう。
6.2. オーバーラッピング(Overlapping)
音源を、英文を目で追いながら聴き、同時に音源にぴったりと合わせるように発音しながらついていく。必ず意味と発音を意識して行うこと。ただし、意味と発音の2つを同時に意識しながらオーバーラッピングすることはできない。人間の脳はマルチタスクが苦手だからだ。どちらか一方に意識を集中して繰り返しやってみよう。
発音が曖昧なところがあったら、声を出さずに口パク(リップシンク/Lip Sync)で確認しよう。
6.3. リピーティング(開本)(Repeating – Book Open)
英文を目で追いながら音源を聴き、一旦音源を止めてから音読する。意味を意識するときと、発音を意識するときと、最低でも2回行うこと。
6.4. 音読(Reading aloud)
自力で大きな声で音読してみよう。ここでも意味を意識するときと、発音を意識するときと、最低でも2回は行うこと。音読のやり方と効果の詳細については、「英語の音読|正しいやり方で4技能に効果あり!7つのコツと教材選び」が参考になるはずだ。
6.5. ルックアップ&セイ(Look-up & Say)
今度は英文から目を離してみよう。まずは英文を目で追いながら音源を聴き、一旦音源を止めて、顔を上げて(ルックアップ)暗唱(セイ)する。ここでは、一字一句覚えようとするのではなく、意味に意識を集中して聴き、暗唱すること。一字一句音源と同じように暗唱できない場合は、意味を基に自分のことばで表現してみる。
音源を使用せず、黙読したあとに顔を上げ暗唱してもよい。
6.6. リピーティング(閉本)(Repeating – Book Closed)
英文を見ないで音源を聴き、一旦音源を止めてから暗唱する。ここでは意味に集中して繰り返しやってみる。
6.7. シャドーイング(Shadowing)
仕上げにシャドーイングをやってみる。シャドーイングとは、音源の後1~2語遅れて、影(shadow)の様に音源通りに声に出して追っかけていく練習だ。英文は見ないでやるのが基本。同時通訳のプロを目指す人たちの基本中の基本トレーニングだ。
意味を意識するときと、発音を意識するときと、最低でも2回行うこと。シャドーイングのやり方と効果の詳細については、「英語のシャドーイング|4種類のやり方と効果と6のコツを徹底解説!」が参考になるはずだ。
7. 英語のディクテーション|6つのコツと注意点
もう一度言うが、ディクテーションは奥が深い。なぜなら、やり方によって全く意味がなかったり、高い効果が出たりするからだ。従って、高い効果を得るためのコツと注意点をまとめる。説明が重複している部分もあるが、それは重要だからだ。
7.1. 自分に合った教材を使うこと!
ディクテーションの効果を最大限に引き出すためには、自分の英語力よりも若干難易度が高い教材を選ぼう。おすすめは、知らない単語や文法項目が2~5%程度の英文。知らない単語があっても想像しながら読めるレベルの英文だ。
音源のスピードも重要。しかし、市販の教材は、だいたいの場合、英語の難易度のレベルにスピードを合わせているのであまり気にしなくてもよいだろう。
英文の内容は、自分の興味があること、もしくは自分で使いそうな表現が多く含まれているものをお薦めする。自分の興味があることであれば、モーティベーションを維持しやすい。ビジネスパーソンの方であれば、ビジネスでよく使用される表現が多く含まれたものを使用すると、スピーキングやライティングにもつながるので効率的だ。ただし、あまり短い文章ばかりのものはディクテーションに向かない。
7.2. 意味(内容)に意識を集中すること!
音源を聴くときは、意味(内容)を理解することに意識を集中する。そうすることで、一文を書き取りやすくなる。もし、聞いた通りに一字一句書き取れない場合は、理解した意味を基に自分の言葉でリフレーズしてほしい。そうすることでディクテーションの効果をフルに享受できる。
聞いたことをそのまま書き取ろうという意識が強すぎると、丸暗記しようとしてしまい、意味(内容)を理解することがおろそかになる。意味を理解することなくディクテーションをやっても、せいぜい発音が矯正される程度だ。
7.3. 書き取りのスピードを意識して上げること!
ディクテーションの際、書き取るスピードは案外重要だ。のんびり書いていると、書いているうちに聞いた内容が頭から飛んでしまうことがある。おすすめは、聞いた英文を口に出しながら書き取ること。そうすると自然に手も早くなる。口を使うということは自分の声を聞くことでもあるので脳への定着が促進できる。
ビジネスパーソンであれば、ミーティングの内容を素早くメモすることが必要な場面も多いだろう。日本語ではあまり苦労はしないであろうが、英語だと、メモしている間に話している内容についていけなくなる場合がある。ディクテーションを通して英語を早く書く練習もしておこう。
7.4. 聞き取れない理由(自分の弱点)を分析すること。
聞き取れない理由を分析しないディクテーションは全く意味がない。ディクテーションの最も重要な目的は、英語力を向上させるための「気づき」を得ることだ。その気づきを得ることで英語力を効率的にアップすることができる。聞き取れない原因は、あなたの英語力そのものの弱点だ。弱点を克服しない限り、あなたの英語力は向上しない。
7.5. 聞き取れなかったところは自分で発音できるようにすること
自分で発音できない音は聞き取れない。聞き取れない音は、脳が音と認識してくれないからだ。英語は日本語にない発音が多い。英語には母音が入らない子音が連続する場合もある。そして、日本人にとってもっとも厄介なのがリエゾンだ。
これらは自分でも発音できるようになれば、必ず聞き取れるようになる。聞き取れるようになるまで何度も何度も繰り返し聴くより、自分で発音できるようにする方が圧倒的に効率的だ。自分の発音矯正にもなり、ネイティブ・スピーカーが聞き取りやすい英語を話せるようにもなる。
7.6. 他のトレーングと組み合わせること
ディクテーションの第一の目的は英語力の分析だ。加えてディクテーションは「耳」「手」「口」「目」を使う非常に効率的なトレーニング方法でもある。しかし、他のトレーニングと組み合わせて行うことにより、より一層効率的に英語力をアップすることができる。
既に紹介したトレーニングの他にも、上の図のように色々なトレーニング方法がある。The English Clubで「自動化トレーニング」といっているトレーニング群だ。それぞれ効果が違ってくるので、気になるトレーニングがあったらあなたの英語学習に是非取り入れてほしい。それぞれのトレーニング方法や効果については順次記事にしていく。
8. 英語のディクテーション|スティーブ・ジョブズと練習
スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチを使ってディクテーションをやってみよう。単語・文法・発音の説明も付けた。ご紹介したトレーニング方法を是非試してほしい。
尚、このスピーチは上級者向けなので、初・中級者の方は下記でご紹介する教材で練習することをおすすめする。
スクリプト①
Thank You. I am honored to be with you today for your commencement from one of the finest universities in the world.
単語・文法解説:
- honor /ɑ́nər/ (動) 光栄と感じさせる ⇨ be honored to ~: ~して光栄です
- commencement /kəménsmənt/ (名) 卒業式: 動詞commence /kəméns/ は「始まる」の意。その名詞「始まり」から「卒業式」の意。
発音解説:
- commencement from: “commencement” の “t” は破裂されずに脱落し発音されていない。
- one of: “one” と “of” が連結して「ワノヴ」 に変化。
- finest universities: “finest” の “t” は破裂されずに脱落し発音されていない。
スクリプト②
Truth be told I never graduated from college and this is the closest I’ve ever gotten to a college graduation.
単語・文法解説:
- truth be told: 「真実は語られる」から「実を言うと」の意。
- I (have) never graduated ~: 現在完了形の “have” が省略されている。
- this is the closest I have ever gotten to a college graduation: “this” は「この場」のこと。 “the closest” は「一番近いところ」の意。次の “I” 以下がどのような「一番近いところ」かを説明している。 “closest” の後に “place where (関係副詞)” を入れると理解しやすい。 “get to ~” は「~に到達する」。「経験」を表す現在完了形で、全体の意味は「この場所は、私が今までに大学の卒業式というところに到達した一番近いところ」
発音解説:
- graduated from: “graduated” の最後の “d” は破裂されずに脱落し発音されていない。
- gotten to: “gotten” の “tt” は破裂されずに、脱落気味に「ウン」と飲み込むように発音されている。
スクリプト③
Today I want to tell you three stories from my life. That’s it. No big deal. Just three stories.
単語・文法解説:
- that’s (that is) it: 「ただそれだけです」の意。“that’s (that is) all” と同じ意。口語では良く使用される。
- deal /díːl/ (名) 取引 ⇨ no big deal: 「大きな取引ではない」から「大したことはない」の意。
発音解説:
- want to: 口語では通常 “wanna” /wɑ́nə/「ワナ」と発音される。
- from my: “from” の “m” が脱落して発音されていない。次も “my” の “m” が来るため。
- That’s it: “That’s” の “s” と “it” の “i” が連結、そして “it” の “t” は破裂されずに脱落して「ザッツィッ」のように変化。
- big deal: “big” の “g” は破裂されずに脱落し発音されていない。次も破裂音の “d” が来るため。
- Just three: “just” の “t” は破裂されずに脱落し発音されていない。
このスティーブ・ジョブズのスピーチ全文の単語・文法解説と発音解説は別途記事にするので参考にしてほしい。
9. 英語のディクテーション|おすすめ教材
The English Clubがおすすめするディクテーション教材を3つご紹介しよう。自分の英語レベルと目的に合った教材を選んで欲しい。
改訂版 キクタン【Basic】4000[アルク]¥1,400+税
アルクが独自に選定した4000語レベルのBasic語彙から見出し語で720語を掲載。単語を覚えながらディクテーションできる。単語毎の例文と週1の長文がディクテーションに適している。音源付属。「Basic」の他に「Entry」「Advanced」「Super」の全4レベル。
総合英語エバーグリーン Evergreen[いいずな書店]¥1,520+税
文法書「総合英語フォレスト」の改訂版。基本文法事項を確認しながらディクテーションできる。全部で457の例文が掲載されている。音源はナチュラルより遅め。TOEIC500点前後の中級者にオススメ。音源はダウンロード可能。
公式TOEIC(L&R)問題集[国際ビジネスコミュニケーション協会]¥2,800+税
上級者向け。Section2、3と4の問題がディクテーション用素材として適している。ビジネスでよく使われる表現も多く含まれているのでスピーキングにもつなげることができる。TOEICリスニング対策にもなる。
10. 英語のディクテーション|まとめ
- 英語のディクテーションとは、聴いた英語を書き取る練習。リスニング力だけではなく、英語の総合力を強化できるトレーニング方法だ。
- 英語を聞き取れない原因は4つある。それらは英語力が向上しない根本的な原因でもある。ディクテーションで聞き取れない原因を検証し、それらの弱点を克服しよう。
- ディクテーションによって、英文を組み立てる能力や英語を分析する能力も向上させることができる。スピーキングとライティングの向上にも高い効果が期待できる。
- ディクテーションのやり方は2つある。一文全てを書き取る全文ディクテーションと、一文のうちのいくつかの単語だけを空欄にしておき、そこだけ書き取る穴埋めディクテーションだ。それぞれ効果が異なる。
- ディクテーションは、初めて見聞きする英文素材を使用して行うボトムアップ・ディクテーションと、事前に学習した素材を使用して行うトップダウン・ディクテーションの2つある。ボトムアップ・ディクテーションの方が高い効果が見込める。
- ディクテーションは他のトレーニングと組み合わせることでより高い効果を得ることができる。ご紹介する7つのステップを是非あなたの学習に取り入れてほしい。
- ディクテーションは奥が深い。やり方によって高い効果が出たり出なかったりするからだ。ディクテーションの効果を最大限にするための注意点を6つにまとめたので必ず実践してほしい。
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