TOEIC(トイック)で効率的に高得点を取りたいのなら、TOEICに特化した勉強はやめろ!
これは、第二言語習得研究と脳科学(神経科学)研究の知見、およびTOEIC(L&R)の問題点を総合した結論だ。
では、どのように勉強すれば効率的にTOEICで高得点を取れるのか?その戦略的な学習法を紹介する。
このコラムで紹介する学習法を実践すれば、初心者の方でもTOEIC満点は決して難しくはない。しかしTOEIC満点はただの通過点!基礎が固まったに過ぎない。TOEIC満点の先にある英語学習法も紹介する。
なお、このコラムでは「TOEIC Listening & Reading」を「TOEIC」と呼ぶ。
目次
1. TOEIC特化の英語学習は非効率!
TOEICに特化した勉強では、TOEICの点数を効率的に上げることできない。なぜなら、TOEICに特化した勉強は非効率であることが科学的に証明されているからだ。
米パデュー大学脳科学(神経科学)者であるカーピック博士は、研究論文で「私たちの脳は、情報を何度も入れ込む(インプット)よりも、その情報を何度も想起し、使ってみること(アウトプット)で長期間安定して情報を保持することができる。」と指摘している。
「インプット」とは「聞く・読む」こと、「アウトプット」とは「話す・書く」ことである。TOEICは、英語の「インプット」の能力を測るテストである。TOEICに特化して、「聞く・読む」ことだけを繰り返す勉強は非効率だということ。人間の脳は、聞いたり読んだりする「インプット」を繰り返すより、インプットしたことを話したり書いたり、繰り返し「アウトプット」した方が記憶に定着しやすい。
ちなみに、アウトプットとは、頭の中で「想起」することである。脳科学などの分野では、「想起」とは、記憶の基本的過程のひとつであり、保持している情報を適切なタイミングと場所で「思い出す」過程のことを指す。アウトプットとは、単に音読やシャドーイングなどの声を出すトレーニングのことではない。「想起」することだ。
TOEICの点数を効率的に上げたいのであれば、TOEICに特化したインプット(聞く・読む)のみの勉強からは卒業しよう。
2. TOEIC特化の勉強では英語は習得できない!
TOEICに特化した勉強では、英語というもう一つの言語を習得することはできない。なぜなら、TOEICに特化した勉強は「受容的バイリンガル」を作り出してしまうからだ。
日系アメリカ人2世の、日本語は「聞けば理解できるが話せない」状態のことを、第二言語習得研究で「受容的バイリンガル」という。1世の両親は、2世の子どもに日本語も習得して欲しいので、家庭では日本語を使う場合が多い。しかし子どもは学校などで英語が主な言語になってしまい、日本語より英語の方が得意になる。そうすると、両親が日本語で話しかけても英語で答えるようになり、聞いて理解できても話せなくなる。
TOEICに特化して、インプット(聞く・読む)だけの勉強を続けていると、この「受容的バイリンガル」に似た状態になってしまう。英語を聞いたり読んだりすることはできるが、話したり書いたりできない状態だ。実際、TOEICの点数が高くても話せないので仕事で全く使えない人は多い。
聞いたり読んだりはできても、話したり書いたりできなければ、その言語を習得したことにならない。本当に英語を習得したいのであれば、TOEICに特化したインプット(聞く・読む)のみの勉強からは卒業しよう。
ちなみに、「第二言語習得研究」とは、第二言語(≒外国語)を習得するメカニズムやプロセスの研究、もしくはその研究分野のことである。
3. 戦略的TOEIC勉強法の全体像
The English Clubが提唱するTOEICの戦略的勉強法は、「基礎力強化」「英語脳作り」「TOEIC対策」の3つのステップから構成される。
一刻も早くTOEICで点数を取らなければならない方でも、基礎が固まっていない状態でいきなりTOEIC対策に走ることは逆に遠回りになる。
また、TOEICは時間との勝負だ。聞いた英語を日本語に訳して理解したり、書いてある英語を後ろから戻り訳して理解していたら絶対に高得点は望めない。TOEIC対策の前に、「英語を英語のまま英語の語順で理解」できるよう、英語脳(英語回路)の土台を作ることも重要だ。
TOEICや英語の初心者の方が満点を目指すための勉強法をステップ・バイ・ステップで詳細に説明する。中級者や上級者の方は、自分がクリアしているステップを飛ばせばよい。
4. 戦略的TOEIC勉強法|① 基礎固め
言語の基本要素は「単語」「文法」「発音」の3つしかない。大人になってから新しい言語を習得するには、「単語」を覚えて、その並べ方(「文法」)を学習し、「発音」を習得し、それらを使えるようにすることだけだ。
まずは、これら3つの基本要素の知識を習得していくのだが、インプット(聞く・読む)だけの勉強では非効率だということを忘れてはならない。アウトプット(話す・書く)トレーニングを取り入れていくことにより、効率的に習得できるばかりか、それらの知識を「使える」ようにしていける。一石二鳥だ。
4.1. 英単語の覚え方
TOEIC受験に向けて英単語の学習を始める際に考えて頂きたい重要なことが3つある。1.「単語の選択」、2.「単語の数」、3.「単語の覚え方」だ。
4.1.1. 単語の選択(どの単語を覚えるのか?)
覚える単語の選別は、英語(TOEIC)学習そのものの効率性に大きく影響を与える。せっかく苦労して覚えても、全く出会わなかったり使わなかったら時間と労力の無駄になる。使用頻度の高い順番に単語を覚えていくことが最も効率的だ。
一方で、TOEICに頻出する単語が、一般的に使用頻度の高い単語と必ずしも一致しないということに注意して頂きたい。TOEICだけにこだわってしまうと偏った英単語になってしまう可能性がある。TOEIC頻出語の前に、2,000〜3,000語の最重要語を徹底的におさらいすることをおすすめする。
4.1.2. 単語の数(どれくらいの数を覚えるのか?)
初心者の方は最重要語3,000語を第一目標として、その単語を使えるように深く学習しつつ、徐々に4,000語を目指すことをおすすめする。
TOEICに必要な単語はそれほど多くない。3,000語で90%以上、4,000語で95%以上をカバーできることが様々な研究で明らかになっている。また、英語の意味を的確に理解するには95%以上の単語を知っている必要があるという研究結果がある。TOEIC対策には4,000語で十分ということだ。
TOEICの単語は、「数」よりも「質」と「深さ」が重要だ。TOEICで効率的に点数を上げたいのであれば、最重要語3,000語を覚えたあと、TOEIC頻出語も意識しながら語彙増強すべきだろう(「質」)。また、最重要語は色々な意味や使われ方があるので、単語一つに一つの訳語を覚えるだけでは全く意味がない。それらは「深く」覚える必要がある。
なお、上記の単語数は「レマ単語」で数えた場合の数である。「単語の数」については「TOEICの単語数|初心者が知るべき真実!4000語で95%超カバー」で詳細に解説しているので参考にして頂きたい。
4.1.3. 単語の覚え方(どのように覚えるのか?)
学習の方法によって英単語の脳への定着率が変わる。ただ暗記しようとしているだけでは能が無い。どうやったら記憶しやすいのか?そして、どうやったら理解するだけではなく、自分でも使えるようになるのか?効率性を考えるべきだ。
効率的に単語を覚えたいのであれば「自動化トレーニング」をおすすめする。「自動化トレーニング」は上表にあるように全部で22種類ある。インプット・トレーニングだけではなく、アウトプット・トレーニングも含まれている。これらのトレーニングをあなたの英単語学習に是非取り入れて頂きたい。
なお、単語学習用には、厳選した7つのトレーニングを下記の流れで行うことをおすすめする。
それぞれのトレーニング方法の詳しいやり方と効果は「英語トレーニング|4技能を独学で習得する科学的自主トレ22選!」を参考にして頂きたい。
4.1.4. おすすめ単語集
英語初心者もしくはTOEIC初心者の方がTOEIC満点を目指すための英単語集を4冊紹介する。上記の3つの重要な点を考慮し、厳選した単語集だ。これらの4冊を順番に仕上げれば、単語集で単語の訳語を覚えることは卒業だと思っていい。TOEICで満点を取れる単語力という土台は完成する。
『DataBase 1700 使える英単語・熟語 3rd Edition』
中学1年で習う最初の1,000語から丁寧におさらいした方におすすめの単語帳。高校生向けに作られた単語帳だが、最重要語は誰にとっても最重要語だ。単語の掲載基準については心配しなくてよい。
『DataBase3000 基本英単語・熟語 5th Edition』
上記の「DetaBase1700」のひとつ上のレベルの単語帳だが、重複している単語も多い。「1700」をサッと終わらせてから、この「3000」で復習しながら更に上を目指すという使い方もできる。「1700」同様、単語の掲載基準については心配する必要はない。
なお、「データベース」シリーズの詳細については「データベース|1700 3000 4500 5500の内容・使い方・効果を検証」を参考にして頂きたい。
『DUO select』
上記の「DataBase3000」はほぼクリアしたが、「DUO 3.0」は難しいと感じる方向けの単語帳。下で紹介する「DUO 3.0」同様、掲載基準が比較的しっかりしているので安心できる。「DUO 3.0」から重要語を「セレクト」したものを掲載しているので、「DUO3.0」で復習できる。
なお、「DUO select」の詳細については「DUO select|英単語教材としての内容・やり方・効果を徹底検証」を参考にして頂きたい。
『DUO 3.0』
「DUO select」を終了した方、もしくは「DataBase3000」レベルの単語はほぼクリアした方で、英語学習へのモーティベーションが高い方向けの単語帳。上記の「select」同様、掲載基準が比較的しっかりしている。
「DUO 3.0」を終了したら、英単語の日本語訳を覚える作業ではなく、ネイティブの持つニュアンスを獲得するための語彙増強をしていって頂きたい。
なお、「DUO 3.0」の詳細については「DUO 3.0|英単語教材としての内容・やり方・効果を徹底検証」を参考にして頂きたい。
TOEIC対策用の単語の覚え方については「TOEIC英単語の勉強法|初心者おすすめ単語帳・覚え方・注意点」で詳細に解説しているので参考にして頂きたい。
4.2. 英文法の勉強法
TOEICで高得点を取りたいのなら、文法については、TOEIC対策に取り掛かる前に、基礎から学習する必要がある。
4.2.1. 文法の基礎をあなどるな!
TOEICではリーディング・セクションのPart 5とPart 6で文法問題が出る。したがって、TOEICの文法対策はPart 5とPart 6の対策だと思っている方もいるがそれは間違いだ。そしてTOEICの文法問題はそう甘くない。しっかりとした文法知識の基礎を固めない限りPart 5とPart 6の文法問題は解けない。
また、リスニング・セクション(Part 1〜4)やリーディング・セクションのPart 7でも、しっかりとした文法知識がなければ高得点は望めない。TOEICはスピードを要求される。そのため、高得点を望むのであれば、文法知識の基礎という土台を築いた上で、英語を英語のまま、英語の語順で理解できるようにする(英語脳を作る)必要があるのだ。
なお、TOEICの問題形式などの基本情報は「TOEIC試験とは|初心者が知るべき基礎知識!内容・コツ・注意点」を参考にして頂きたい。
4.2.2. おすすめ文法書
英語初心者もしくはTOEIC初心者の方がTOEIC満点を目指すための英文法書を3冊紹介する。これらの3冊を順番に仕上げればTOEICで満点を取れる文法知識の土台はできたと思っていい。
『中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく。』
中学3年間で習う英文法を一から丁寧にわかりやすくまとめた良書だ。本書は超入門書だが、決してあなどってはいけない。本書に書かれていることがTOEICを含めた英語学習の全ての土台となる。
文法は知識を積み上げていく必要がある。したがって、最初から順番に学習していくことが基本だ。
なお、『中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく。』の詳細は「中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく|内容・使い方・効果を検証」を参考にして頂きたい。
『Essential Grammar in Use 4th Edition』
eBook付 Raymond Murphy (著)[Cambridge University Press]¥4,000程度
世界的ベストセラーの文法書「English Grammar in Use」の初心者用バージョンだ。すべて英語で書かれている。「英語を使う際に必要となる文法」の基礎に特化した文法書といっていい。
多くの英語に触れて頂きたいという意味でも、知識を積み上げて頂きたいという意味でも、最初から順番に学習していくことをおすすめする。
『English Grammar in Use 5th Edition』
eBook付 Raymond Murphy (著)[Cambridge University Press]¥4,000程度
上記で紹介した「Essential Grammar in Use」の中級者用で、「Grammar in Use」シリーズのオリジナル版。英語の非ネイティブ・スピーカーが英語を使うために必要な文法を網羅しているといっていい。
中級者用だが、われわれ日本人の英語非ネイティブであれば、この1冊を仕上げたら英文法の学習は終了したといっていい(TOEIC対策を無視した場合)。上級者にとっても、英語を使う上で非常に役にたつ文法が多く取り上げられている。本書を仕上げた後は、多くの英文に触れることによって文法知識を積み上げていって頂きたい。本書は、その際の辞書として活用できる。
本書は1回通して学習しただけでは、知識の定着の観点から十分とはいえないだろう。最低でも2回通して学習することをおすすめする。
なお、『Grammar in Use』シリーズの詳細は「Grammar in Use|種類と選び方・内容・使い方・効果を徹底検証」を参考にして頂きたい。
また、上記の3冊の文法書の使い方の詳細については「TOEICの文法|初心者から満点へ!おすすめ勉強法・対策・教材」も参考にして頂きたい。
4.3. 英語の発音の習得法
TOEICには発音は関係ないと思っている方も多いだろう。しかしそれは間違いだ。自分で発音できない音は聞き取れない。リスニング力を向上させたければ発音力を向上させなければならないのだ。
4.3.1. 英語の発音を攻略するための5つの要素
英語の発音には5つのポイントがある。それらを意識しながら、ネイティブの発音をそっくり真似る練習をすることから始めて頂きたい。繰り返し練習することにより、無意識的に発音できるようになる。そうすればリスニング力も飛躍的に向上する。
- 個別の音(母音と子音):英語の母音は24、子音は24ある。日本語に比べて発音数が圧倒的に多いので日本人には難しい。発音記号を学習すると効率的に習得できる。詳細は(「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正!」)
- 単語のアクセントの位置:英単語はアクセントの位置を間違うと理解してもらえないことが多い。単語を覚えるときはアクセントの位置も同時に覚えることが基本。詳細は(「英語のアクセント|基礎と応用8つのルールで英単語の発音矯正!」)
- リズム(強弱):英語はリズムが大切だ。強いところはゆっくりと、弱いところは速く発音される。単語のアクセントの位置を知らないと、リズムよく発音できない。詳細は(「英語はリズムが重要!4つの法則を理解して使える英語を獲得する」)
- イントネーション(抑揚):イントネーションで意味の違いを表現することも多い。ネイティブに理解してもらうにはリズムとイントネーション(プロソディ)が重要だと言われている。詳細は(「英語のイントネーション(抑揚)|基礎と応用15のルールで発音矯正」)
- リエゾン(音声変化):音がつながることによって、単語と単語の切れ目が分からなくなる。日本人が英語を聞き取れない一番の理由。連結・脱落・同化の3種類ある。詳細は(「英語のリエゾン(リンキング)|3つの種類・詳細ルールと克服法」)
4.3.2. おすすめ教材
英語初心者もしくはTOEIC初心者向けに、発音矯正用のおすすめ教材3冊を紹介する。これらの3冊を順番に使用して、下記で紹介する自動化トレーニングを繰り返し行なえば、効率的にリスニング力を向上できる。
『英会話ぜったい音読入門編』
英語初心者の方を対象とした音読教材の定番。ゆっくりと読み上げているので、初心者の発音矯正用にも適している。中学・高校の英語のテキストを使用しているため内容的に面白みがないのが欠点。
本書の詳細については「英会話ぜったい音読|音読教材としての内容・使い方・効果を検証」を参考にして頂きたい。
『仕事で使えるMyフレーズ』
音声ダウンロード 春山陽一(著)[Z会]1,600円(税別)
初・中級者用の会話教材。中学レベルの単語と文法で、仕事で使える表現を学ぶことが目的の教材。中級者の方の発音矯正に適したスピードで読み上げられている。ビジネスでよく使用される表現も覚えられる。
『Business Venture 1』
CD付属 [Oxford University Press]¥4,000程度
会話演習用の教材。巻末とCDに収録されている英文が発音矯正トレーニングに適している。単語と文法はやさしいが、スピードはナチュラルなので、中級者以上の方向け。会話の教材としては初級者向け。
4.3.3. 発音矯正トレーニング法
発音矯正にも、上記で紹介した「自動化トレーニング」をおすすめする。発音矯正用に厳選した7つのトレーニングを下図の流れで繰り返し行なって頂きたい。
それぞれのトレーニング方法の詳しいやり方と効果は「英語トレーニング|4技能を独学で習得する科学的自主トレ22選!」を参考にして頂きたい。
5. 戦略的TOEIC勉強法|② 英語脳作り
英語を流暢に操れるようになるには「英語を英語のまま、英語の語順で理解」する必要がある。つまり、英語脳を作るということだ。日本語の回路の他に、もう一つ英語の回路を作ると表現こともある。
TOEICで高得点を取るには、この英語脳作りが必須となる。
5.1. TOEIC対策には「英語を英語のまま、英語の語順で理解」
「英語を英語のまま」理解できなければ日本語に訳して理解しなければならず、時間が勝負のリーディング・セクション(Part 5〜7)での高得点は望めない。音声の英語はどんどん消えていくので訳す時間がなく、リスニング・セクション(Part 1〜4)での高得点も望めない。
「英語の語順」で英文を前から理解できなければ音声の英語を理解することは難しいので、リスニング・セクションでの高得点は望めない。戻り訳しながら理解していたら時間が足りなくなるので、リーディング・セクションでの高得点も望めない。
つまり、日本語脳だけではTOEICには太刀打ちできないのだ。
5.2. 英語脳を作るためにつなげる「文字」「意味」「音声」
英語脳を作るためには、「文字」「意味」「音声」の3つをつなげなければならない。
5.2.1. 「文字」と「意味」をつなげる
まずは「文字」を見てそれが何を「意味」するのかを理解しなければならない。単語の意味はもちろん、単語が並んだときの文章の意味も理解できなければならない。
日本の学校での英語教育はこれのみに集中してきたので、われわれ日本人は「文字」と「意味」をつなげることは得意だ。
5.2.2. 「文字」と「音声」をつなげる
次に、「文字」がどのような「音声」で発音されるのかを理解しなければならない。「音声」とは、英語の母音と子音、単語の発音方法(アクセントの位置を含む)、単語と単語がつながった発音(音声変化)、文章になったときの強弱(リズム)や抑揚(イントネーション)を含む。
日本の学校での英語教育は、「音声」を全く無視してきたので、われわれ日本人は「文字」と「音声」をつなげることが苦手だ。
5.2.3. 「音声」と「意味」をつなげる
最後に、「音声」だけを聞いて、何を「意味」するのかを理解できるようにしなければならない。それには、「文字」と「意味」、「文字」と「音声」のつながりを強固することも重要となる。
「文字」と「意味」をつなげる学習に特化してきたわれわれ日本人は、「音声」だけの英語に慣れていない。これは、英語を話せない理由でもある。
5.3. 英語脳を作るために攻略する「単語」「文法」「発音」
英語脳を作るためには、「単語」「文法」「発音」の3つを攻略しなければならない。
5.3.1. 「単語」を攻略する
単語を覚えるというのは、その単語の日本語訳を覚えることではない。その単語を見たり聞いたりしたときに、日本語に変換することなく意味が理解できるようにすることだ。
確かに初心者の頃は、英単語に対応する日本語の訳語を一つ一つ覚えるところから始めなければならない。しかし、ある程度の英語力に達してからは、その単語の覚え方が、それ以降の英語習得の妨げになる。英単語を日本語に訳して理解する(またはその逆)癖が抜けなくなるからだ。
TOEICで満点を取るには、英単語に対するネイティブが持つ感覚を獲得することが必要になる。
5.3.2. 「文法」を攻略する
文法を習得するというのは、文法通りに並べた単語でできた文章を単に解釈できるようになるだけではなく、文字や音声の文章を「前から」理解できるようになることだ。
日本語と英語の文法は全く異なる。したがって日本人が英語の文法を理解するには相当な努力が必要だ。しかし、そこに留まっていてはリーディング力やリスニング力は絶対に向上しない。難解な英文法を理解しつつ、それを順番通りに前から理解できるようにしていかない限り、TOEICで満点は取れない。
5.3.3. 「発音」を攻略する
英語の発音は、その5つの要素を理解することが目的ではない。5つの要素を理解した上で、自分でも無意識的に発音できるようになることだ。
「ネイティブのように流暢な発音で英語を話せるようになる必要はない」と考える方も多いだろう。もっともである。われわれ日本人は、ネイティブにわかりやすく発音できれば十分だ。しかし、リスニング力を効率的に強化するためには、自分でもネイティブのように発音できるよう練習することを強くおすすめする。
われわれの脳は、自分で発音できない音を「音」と認識してくれない。したがって、例えば「she」と「see」の発音の区別ができないため、文章全体が理解できないということが起こるのだ。「she」と「see」を無意識的に正しく区別して発音できるようになれば、リスニング力も飛躍的に向上する。
5.4. 英語脳を作るトレーニング法
英語脳を作る際にも、上記で紹介した「自動化トレーニング」をおすすめする。
英語脳作りに適したトレーニングは上図にある通り全部で8つある。それぞれのトレーニングのやり方や効果は「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築する」を参考にして頂きたい。
5.5. 英語脳を作るおすすめ教材
英語脳作りの教材は、上記の「4.3. 英語の発音の習得法」のところで紹介した教材と同じものを使用する。それら3つの教材を順番に使用して、上記の自動化トレーニングを繰り返し行なって頂きたい。
6. 戦略的TOEIC勉強法|③ TOEIC試験対策
基礎力を強化し、英語脳の土台ができたところでTOEIC対策を始めることになる。効率的にTOEICの点数を上げたければ、この順番を必ず守って頂きたい。
TOEIC対策については、リスニング・セクション(Part 1〜4)と、リーディング・セクション(Part 5〜7)とに分けて説明する。
なお、TOEIC初心者の方で、TOEICの試験内容や問題数、時間などの詳細を知りたい方は、「TOEIC試験とは|初心者が知るべき基礎知識!内容・コツ・注意点」を参考にして頂きたい。
6.1. リスニング(Part 1〜4)対策
6.1.1. TOEICリスニング・セクションの特徴
TOEICのリスニング・セクションの全体的な特徴は以下の通りだ。
- 英語を読み上げるスピードはナチュラル・スピードより若干遅め。
- 単語と単語の切れ目なく、流れるように発音されている(リエゾンはナチュラル)。
- リーディング・セクション(Part 5〜7)と比べて単語の難易度は低い。
- 米・英・加・豪の4種類の英語が含まれるが、それらの訛り(なまり)はあまり強くない。
- 音声が次々と流れるので、考える時間があまりない。試験の形式と時間の流れに慣れ、わずかな時間を有効利用するスキルが必要。
上記の①〜④については、「基礎力強化」と「英語脳作り」のところでほぼ対応済みだと思っていい。上記で紹介した教材全てを使用して自動化トレーニングを繰り返し行なっていれば、①のスピード、②のリエゾン(音声変化)、③の単語については全く問題ないはずである。あとは、TOEICの実際の問題を使用して、それぞれを更に強化していけばいい。
④については、4種類の発音の違いに若干慣れる必要があるだろう。そして一番重要なのが、⑤の時間対策だ。同じ英語力でも、この時間対策次第でかなりの点数差が出てしまう。
6.1.2. TOEICリスニング・セクションの時間対策
Part 1〜4の時間対策を説明する。リスニング・セクションでも得点を極大化するための時間の使い方だ。
Part 1の時間対策
- 冒頭の「Directions」の音声が流れている約1分32秒間で全6問の写真を見る。
- 各問題の最後の選択肢 (D) が読み上げられたあと、次の問題が始まるまで約5秒間。加えて、各問題の冒頭の説明が約5秒間。合計10秒間で、マークシートを塗りつぶして次の問題の写真を見ておく必要がある。
- 次の問題の写真を見るために5秒を確保する。そして、マークシートを塗りつぶすのに2秒。したがって、最後の選択肢 (D) が読み上げられたあと3秒以内で解答を決定する。
- 聞き取れなかった場合はあきらめて、次の問題の写真を見ながら集中する。
Part 2の時間対策
- 冒頭の「Directions」の音声が流れている約27秒間で再度集中する。
- 各問題の最後の選択肢 (C) が読み上げられたあと、次の問題が始まるまで約5秒間。加えて、各問題の冒頭の説明が約2秒間。合計7秒間で、マークシートを塗りつぶして次の問題に備えて集中する必要がある。
- 次の問題に備えて集中するのに最低でも2秒を確保する。そして、マークシートを塗りつぶすのに2秒。したがって、最後の選択肢 (C) が読み上げられたあと3秒以内で解答を決定する。
Part 3と4の時間対策
- 冒頭の「Directions」の音声が流れている約30秒間で、最初の会話の問題と選択肢を読み会話の内容を想像する。
- 2つ目以降の会話については、会話毎の冒頭の「Question <32> through <34> refer to the following conversation.」という音声の約5秒間で問題や選択肢をサッと見る。
- 会話が終了してから問題が読み上げが始まるまで2秒。何もせずただ音声が始まるのを集中して待つ。音声が始まったら、問題文を目で追いながら聞く。
- 問題が読み上げられたあと、次の問題(もしくは会話)が始まるまでの8秒間で、4つの選択肢を読み、解答を見つけ、マークシートを塗りつぶす必要がある。
- マークシートを塗りつぶすのに2秒とすると、1つの選択肢を平均1.5秒で読んで理解し(4つの選択肢で合計6秒)、即座に解答を決定する必要がある。
6.1.3. TOEICリスニング対策用おすすめ教材とトレーニング法
CD付 ETS (著)[国際ビジネスコミュニケーション協会]¥3,000+税
TOEIC対策に最適な教材は公式TOEIC問題集に勝るものはない。本番と同じ時間の流れでリスニング・セクションの全100問を解いたあと、下記のトレーニングを繰り返し行なって頂きたい。
Part 1(写真描写問題)+ Part 2(応答問題)トレーニング
Part 1と2の対策には、「ディクトグロス」というトレーニングをおすすめする。聞き取れるようにすることだけが目的ではない。同時に頭の中で英文を作れるようにするトレーニングでもある。「リピーティング」や「音読」なども加えることで発音矯正も行ない、リスニング力を更に強化していく。
Part 3 (会話問題)+ Part 4(説明文問題)トレーニング
Part 3 と4の対策には、「音読」と「シャドーイング」をメインとした自動化トレーニングをおすすめする。英語の語順の回路を強化することと、英語の発音を体得することが主な目的だ。設問に口頭で答えるトレーンングを加えて、スピーキングの強化にもつなげていく。
なお、詳しいやり方と効果については「TOEICリスニング対策|満点を取る勉強法・コツとおすすめ教材」を参考にして頂きたい。上記で説明した時間対策も詳細に解説してある。
6.2. リーディング(Part 5〜7)対策
6.2.1. TOEICリーディング・セクションの特徴
リーディング・セクションは時間がない。Part 7にどれだけの時間を残せるかが一番の課題となる。
Part 5(単文穴埋め問題)は「知識問題」だ。知らなければ考えてもわからない問題が多いため、時間をかけるべきではない。文法知識と単語知識の2つの種類に分かれる。
Part 6(長文穴埋め問題)は「知識問題」と「読解問題」の2種類ある。知らなければ考えてもわからない文法問題と、時間をかければ正答率が上がる読解力を問う問題だ。知識問題は時間をかけるべきではない。一方で読解問題は、あきらめるタイミングが重要となる。
Part 7(読解問題)は、時間をかければかけるだけ正答率が上がる問題だ。問題数も一番多い。したがって、Part 7にできる限り多くの時間をかけることで解答数と正答率を上げることが高得点をとるカギとなる。
6.2.2. TOEICリーディング・セクション対策
リーディング・セクションで求められる能力は、「基礎知識」「精読力」「スキャニング/スキミング・スキル」「時間管理能力」の4つだ。
「基礎知識」は、上記の「基礎力強化」のところで既に対応済みである。
「精読力」とは、ここでは、多少遅くても一回読んで理解できる読解力のことを指す。「速読力」の重要性を指摘する方は多いが、そこには落とし穴がある。速く読むことを意識しすぎるあまり、意味を正しく読み取れずに何度も読むことになり、結果多くの時間がかかってしまうことが多い。中途半端な「速読」より確実な「精読」の方が、結果的に時間がかからない。
「スキャニング」とは、長い文章の中から必要な情報を探すときに必要となる、素早く見渡すスキルだ。「スキミング」とは、長い文章を丁寧に読むのではなく、要点だけをおさえながら大意をすくい取るスキルだ。
「精読力」と「スキャニング/スキミング・スキル」は、上記の「英語脳作り」で一部対応済みだが、満点を取るためには更に強化する必要がある。
6.2.3. TOEICリーディング・セクションの時間配分
リーディング・セクションでは、1つの問題に多くの時間をかけることは許されない。「どこであきらめるのか?」その判断が勝敗を分けるといっていい。
わからない問題は必ず出てくる。その場合、文法問題など、考えてもわからない問題の場合はすぐにあきらめるべきだ。一方で長文読解問題など、時間をかければかけるほど正答率が上がる問題の場合が悩ましい。なぜなら、「もうちょっと時間をかければわかるかもしれない。しかし、すぐにあきらめて次の問題を解いた方が正答数が増えるかもしれない。」と悩むからだ。
この問題を解決するために必要なのは「時間管理能力」だ。一つの問題には、ある一定以上の時間をかけないようにするのだ。リーディング・セクションで満点を取るための、目標とする時間配分は以下の通り。
なお、「TOEICリーディングの時間配分|満点を取る勉強法・対策・コツ」には、時間配分についての詳細に加え、受験テクニックや、上記で説明したリーディング・セクションの特徴や対策についても詳細を解説しているので是非参考にして頂きたい。
6.2.4. TOEICリーディング対策用おすすめ教材とトレーニング法
CD付 ETS (著)[国際ビジネスコミュニケーション協会]¥3,000+税
リーディング・セクション対策でも公式問題集を使う。リーディング対策では下図にある8つの自動化トレーニングをおすすめする。
Part毎にトレーニングの流れが異なるので、詳細は「TOEICリーディングの時間配分|満点を取る勉強法・対策・コツ」で確認して頂きたい。
7. TOEIC満点の先にある英語学習
TOEIC満点(990点)は基礎が固まったに過ぎない。TOEICで満点を取ったあなたは、まだあなた自身の英語力に満足していないはずだ。英語学習に終わりはない。引き続き下記のことに気をつけながら英語と向き合っていって頂きたい。
7.1. アウトプット能力の強化
「TOEICで高得点をとっても話せないので仕事で使えない人」にならないよう、そして効率的にTOEICの点数を上げていけるよう、インプット・トレーニングに加えてアウトプット・トレーイングを交えた学習方法(自動化トレーニング)を紹介してきた。しかしながら、満点を取っても、まだまだ「話す・書く」能力が低いと感じるに違いない。
TOEIC卒業後は、是非アウトプット強化に重点をシフトして学習を続けて頂きたい。
7.2. 自動化トレーニングで使える英語の範囲を強化
使える英語の範囲は、理解できる英語の範囲よりも狭くても構わない。むしろ、その方が自然だ。TOEICで出てきた単語や表現の全てを使えるようにする必要はないのだ。われわれの目標は、自分の言いたいことを自由に表現できること。その目標を達成するためには、中学英語で十分なのだ。
仕事で英語が必要であれば正確さも要求される。自分の言いたいことを正確に表現するには、使用する単語や構文を熟知しておかなければならない。うる覚えの単語や構文使えば、間違う可能性が高くなり、意図しないニュアンスで相手に伝わってしまうリスクも高くなる。熟知できる英語の範囲は必然的に狭くなる。
言いたいことを自由に、そして正確に表現できるようになるためには、なるべく狭い範囲の英語を奥深く追求していって頂きたい。その際は、上記で紹介したリフレーズやサマライズ、シミュレーションなどの自動化トレーニングが役に立つだろう。
7.3. アウトプット強化には多量なインプットが必須
空っぽの箱の中からは何も出すことはできない。英語も同じだ。まずは、目と耳を通して頭の中に英語を入れなければ、口から(または、書く場合は手から)英語が出てくるはずがない。
アウトプットできるようになるためには、大量なインプットが必要だということに反対する言語学者はいない。第二言語習得研究の常識である。しかし、意味を理解できない英語をただ聞き流すだけでは効果はない。「理解できる英語」を多量に読み・聞くことが重要なのだ。
日本人の多くの英語学習者はインプットの量が圧倒的に不足しているということを、多くの言語学者が指摘している。一方で、インプットだけでは効率的にアウトプットできるようにはならないことも、第二言語習得研究で指摘されている事実である。
大量なインプットを確保しつつ、アウトプット・トレーニングも同時並行的に行なうことが最も理想的で効率的なアウトプット強化方法なのだ。
なお、スピーキング力強化についての詳細は「英語スピーキング|話せない方必読!科学的練習法と5つの注意点」を参考にして頂きたい。
8. 戦略的TOEIC勉強法|まとめ
- TOEICに特化した英語学習はおすすめしない。なぜなら非効率ばかりか、英語を習得することにつながらないからだ。
- The English Clubが提唱するTOEICの戦略的勉強法は、「基礎力強化」「英語脳作り」「TOEIC対策」の3つのステップから構成される。
- 言語の基本要素は「単語」「文法」「発音」の3つ。大人になってから新しい言語を習得するには、単語を覚えて、その並べ方(文法)と発音を習得し、使えるようにすること。
- 英語を流暢に操れるようになるには「英語を英語のまま、英語の語順で理解」する必要がある。つまり、英語脳を作るということだ。
- 基礎力を強化し、英語脳の土台ができたところで初めてTOEIC対策を始める。効率的にTOEICの点数を上げたければ、この順番を守って頂きたい。
- TOEIC満点は基礎が固まったに過ぎない。TOEICで満点を取っても、あなた自身の英語力に満足はしていないはず。英語学習に終わりはない。
『英語独学完全マニュアル』
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無料eBookの主な内容
- 単語・文法・発音の効率的な基礎力強化方法
- インプット(読む・聞く)能力向上のための英語脳作りトレーニング法
- アウトプット(話す・書く)能力向上のためのリハーサル・トレーニング法
- 学習計画の立て方と効率性を上げるための学習習慣
そろそろ本気で英語を習得したいとお考えの方におすすめです。また、「英会話スクールに通っているけど思うように上達しない…」「TOEICで高得点を取ったけど話せない…」などでお悩みの皆さまも是非ご一読ください。